2025年9月に7年ぶりとなったジャズ・フルアルバム『TAKAIWA』で、自身のスタンダードを提示した高岩遼。その到達点の先で彼が選んだ次なる一手は、80’sの匂いを纏ったジャズファンクだった。2026年4月8日にリリースされたデジタルシングル“Ain’t Nobody’s Business”は、ジャズやブルースを基盤に、ドラムマシン、シンセベース、ダンスグルーヴを現代的かつ高岩流の解釈で融合させた大人のダンスチューン。Kawamura NaoとGrace Aimiを迎えたコーラスや、Kazuki Isogaiとの再合流、Kosuke Kawamuraによるアートワークなど、信頼するクリエイター陣とともに、高岩遼はこれまでとは一味も二味も違うサウンドとビジュアルで新章を切り拓いている。「ポップスターになる」と語る彼はいま、真剣にふざけながら、自分だけの“SPECTACULAR”を描き始めた。
Interview:高岩遼
NEW高岩が思い描くポップスター
結局はオール・イズ・ジャズ
──髪、伸びましたね。
伸ばしてます。後期の尾崎紀世彦さんみたいにしたくて。
──ぴったりですよ。似ていると思ったことあります。
本当ですか。うれしい。
──まずは前回のロングインタビュー以降について。RADIALLとシグネットピンキーリングを共同製作、INFでBS-TBSドラマ『ゲームチェンジ』のオープニングテーマ曲、千葉雄喜との新ユニット・NijizのリリースとLIVE。年明けは、〈As One〉や〈TIDE TIME〉でのパフォーマンスやKENTACATS『CMS’S WAREHOUSE』のリミックス、WILDSIDE YOHJI YAMAMOTOとNEIGHBORHOODのコレクションでモデルなど、トピックが多かったですね。
『TAKAIWA』以降、ストリートライブをやっていたころにお世話になった人たちとか、いろいろな職種の人たちからご連絡をいただくことが多くて。俺の中であのアルバムは、ひたすら王道をゆく高岩遼のジャズへの愛を表現した作品だったわけですが、真新しいものとして聴いてくれる人たちが想像以上にいた。そういうピースになってくれたことで、今までやってきたことが無駄ではなかったと思えましたし、周りの人たちに支えられていることも再確認しました。
──自らをさらけ出したアルバムでしたが、そういった周囲の反応は予想していなかった?
まったく。だからすごくうれしかったですね。『TAKAIWA』の余波がまだ続いています。
──そういえば前回のインタビューで、昨年の9月に都心から離れた自然豊かな土地に引っ越したと仰っていましたが、それも現在のいい状態に作用している部分はありますか?
ありますね。俺の性分に合っていたのかも。都心までもちろん遠いけど、わかりやすく仕事として出かけるっていうのが、大事だったのかもしれない。それにいまは周りに誘惑もなにもない。生活=音楽のクリエイティヴのために、それから丁寧な毎日を送るために、拠点を移したまでです。大したことない。
──音楽と向き合う環境が少しずつ整いつつあるわけですね。ここからは、4月8日リリースのDIGITAL SINGLE “Ain’t Nobody’s Business”についていろいろと伺えればと。
『TAKAIWA』を出して、Qeticでのロングインタビューを終えた時点で、俺の上京してからの長い第1章が終わったと思えたんですね。だから次はNEW高岩であり、高岩遼を全部さらけ出したあとに、どうステージに戻ってくるのか。そう考えたときに……ポップスターにならなきゃいけないわけですよ、高岩遼は。今の日本のシーンにいるスターたちとは、また別のポップスター。それはなんだとかなり苦悩した日々を送りました、でも、もう閃いたのでバッチリです。
──閃いたとは?
華やかなステージにこそ、高岩遼の魅力があって、それに伴う楽曲を作らなきゃいけない。みなさんが「なんてSPECTACULARなんだ!」と思える内容を届けていくことで、その先にポップスターがあるはずだと。その考えの先に閃いたのが──ファンクだと。
いま売れているものを咀嚼して、紐解いて似せたものが作れるかと言えば、俺はできない。やったとて、それが似合わないミュージシャンですよ。じゃあもう逆サイドに行かないと。行ったり来たりせずに、自分の好きな音楽をストレートにやった方がいい。愛を、歌うしかない。
80’sのファンク、ディスコ、ニュージャックスウィング。それをやろうって。親の青春の音楽たち。ただしやってみてパッケージしてみたら、「なんだ、やっぱりジャズか」と。今回の曲って突っ込んだ話はブルースだけど、歌詞の雰囲気も含めてジャズのエッセンスもたっぷりある。というかある日、「あれ? ジャズボーカルからファンクって、当時のジャズミュージシャンかよ」と気づきました。
ものすごく悩んで、軽く病気にもなって出したものが、やっぱり俺の中ではジャズ。結局は、オール・イズ・ジャズ。ただその中でもやっぱり迎合という意味ではなく、わかりやすさは込めておきたいので、冒頭は日本語の歌謡な雰囲気で始まるとか、そこにジャポニズムのわびさび感なども加えています。この表現が、僕の中の最新ですね。
音楽的ジャンルじゃないサイケデリック
ファンクで、ジャズで、ブルース
── “Ain’t Nobody’s Business”は、知っている人なら知っている有名なラインですが。
そうですね、ブルースの曲でもたくさんありますし。なんで僕がこの曲名をつけたかっていうのは、”The Way You Make Me Feel“という僕がマイケル・ジャクソンで一番好きな曲があって。その曲の後半でマイケルが、“Ain’t Nobody’s Business”と連呼するところがあり、そこから拝借している世界線です。曲の内容はまったく関係ないですけど、“The Way You Make Me Feel”のスピンオフ版のようなイメージ。まあブルースですよ。女が出ていった男の話ですから。
「テレビをつければ芸能人が引っ付いた離れたをやっているけど、いまの俺には関係ない。だって俺のマブが出ていっちゃったんだよ、助けてくれよ」って曲ですから。だけどこの話は、「俺に恋バナをしてくれるな」ってことなのに、恋バナを歌っちゃっているっていう面白さがあって。
──高岩遼が好きそうなテーマというか、ユーモアですね。
そうそう、皮肉です。そういうユーモアは、まったくいままで通りですね。
──サウンド的には、80’sの匂いを感じさせるダンスチューン。ただしただのレトロではない、現代的かつ高岩のフィルターを通した形に昇華していますが、意識した部分は?
80’sのサウンドはやっぱりシンセサイザー。ドラムは生を避けてますし、各インストゥルメンタルもほぼ自分。コーラスは今年に入ってTRUNK HOTELでライブも一緒にやったKawamura NaoとGrace Aimi、そしてギターはKazuki Isogai。
そういうメンツも含めて、音楽的ジャンルじゃない、サイケデリックをやりたい。ハッキリ言いますよ。高岩遼はシラフでサイケですよ。シンセサイザー感と、ネオンと、ショッキングカラーや機械光学的な部分と、漂うゲテモノ感。最高。
VHSとか80年代スプラッターとか大好きですし、(スタジオにあった昔の映画フライヤーを見せながら)こういうことじゃないですか。劇画タッチで、この声、この顔で、ファンクをやるという感じが、俺の中ではすごくおしゃれだなと思って。この高岩はまだやっていませんから。
──歌詞に関しては高岩遼らしい言い回しというか、タイトルとも紐づきながらも説明しすぎず、どこか決意表明のようにも聞こえるなと。書くにあたってフォーカスした点は?
高岩らしさはしっかりと残しつつ、だいぶ派手な曲なのに、めちゃくちゃフォーカスを絞ったことを言うのが、俺の中では大事な趣でして。「みっともねえドブネズミみたいな俺だけど、巷であふれるほかは関係なくいてくれ」っていう男のメッセージでもあるし、バックコーラスが俺に「You like it, don’t ya?」と言うのに対して「いやいや、そんな暇はないんだ」と。
あとは要所にジャズのワードを入れています。“Everybody loves somebody sometime”は”誰かが誰かを愛してる“という、ディーン・マーティンが歌ってヒットした、もちろんシナトラも歌っている古いスタンダード。まあでも歌っている内容はたいしたことない、それが面白い。
──「俺に関係ない」というフレーズは、いまのスタンスと一致しているのかなと。
上から降りてくる意見も1回は咀嚼するけど、飲み込まないぜっていう。自分を貫くっていう意味でも“Ain’t nobody’s business”だし、そういう意味では歌詞は決意表明にもなっているのかもしれない。ただし自分としてはそこまで考えてなくて、すごく真剣にふざけているだけ。

──今回はビジュアルイメージに関しても、ジャケットイラストはグラフィックデザイナーであるKosuke Kawamura氏、スタイリングはクリエイターのnuga氏、ヘアスタイリングはKunio Kohzaki氏、カメラマンはRyoma Kawakami氏と、高岩遼を知る新旧のメンツで新しい表現にチャレンジしていますね。
Kosuke Kawamura氏が描いてくれたジャケットのイラストは右下にドブネズミがいて、潰れていますけどこれは俺で、まあジャズですね。ライブポスターはもともと映画ポスターのようなことをやりたくて、持っていたこのスタジオにあるプラズマボールを使って、スタイリストのnugaくんとカメラマンのRyomaと作り込みました。プラズマボールの真ん中が地球で、自分は宇宙から来たイメージ。新しいアー写も、nugaくんが俺の中にある素材を引っ張り出してくれて、プレスリー感もあるし、プリンス感もある。そういうビジュアル的なところも、曲を作ると同時に見えてきました。
俺の好きなもの、煮しめて出てきたもの、やっぱこれが好きだったっていうものを素直にやっただけで、今年出していく曲や作品はもう、ファンクで、ディスコで、ジャズで、ブルース。ていうかそれが高岩遼だよねっていう。これが36歳手前の、今の俺がMAXで考えられるポップスですね。

──年齢を重ねて、理想とする音楽性やスタイルが自分に馴染んできた感覚はありますか?
ありますね。行動的な尖りではなく、洗練された尖りというか。力が抜けてきた。昔の高岩は銀座の夜の帷で、スーツの襟を立てて歩くみたいなことだったじゃないですか。それもいいけど、いまはジャズが馴染んできたし、カッコつけないようになってきたというか。これまでは高岩遼を演じていたところがあったと思うけれど、いまは自然体の高岩遼でいられる。うれしい。前回のインタビューでラスカルさんが言ってくれたんですよ。『TAKAIWA』で高岩遼のスタンダードを提示したことで、その延長線でこれからどのように歩んでいっても、みんな納得できるだろうねって。
──ここまでの話を聞いて、今回の曲をすごく気に入っているのが伝わってきます。
そうですね。めっちゃウケる。あいつなんか、めちゃくちゃ悩んで、ファンクに辿り着いたのかって。『TAKAIWA』以後、いろいろ経て、あげくに「俺に関係ない」って。めっちゃウケる。
──シングルリリースや新しいビジュアルと共に、SHIBUYA CLUB QUATTROでの『RYO TAKAIWA LIVE 2026 – SPECTACULAR -』(8月26日)の開催が発表されました。
今年の大仕事として、QUATTROに向けて準備していきます。SPECTACULARですからね、見物ですよ。メンバーもいろいろブッキングし始めていますし、ライブ用にも曲を書いています。最近ようやく、やってきたことの点と点が線になる瞬間がけっこうあって、高岩いい感じですよ。ミュージシャンはやっぱりみんな悩んでいるだろうし、売れても悩みはあるだろうし。でも俺は別の次元なのかなって。高岩遼、煮しまったなと。味濃いよ。いま、食べごろです。
Interview & text by Rascal (NaNo.works)
Photo:Ryoma Kawakami
