片山友希が主演を務め、MEGUMIが企画・プロデュース、木村太一が原案・監督を手がける映画『FUJIKO』。1970年代後半から80年代前半の静岡を舞台に、シングルマザーとして生きる富士子が、時代や社会の価値観に抗いながら、自らの人生を切り拓いていく姿を描いたヒューマンドラマだ。

木村監督が自身の母の人生と向き合うことから生まれた本作において、重要な役割を果たしているのが音楽である。富士子の衝動、時代の空気、そして自由への渇望を鳴らすため、サウンドトラックにはポパルダウド明、佐久麻瞬太郎、ハタヤテツヤらが参加。セッションを通じて、70年代ロックのざらつきや生々しさを宿した音が生み出された。

実話をベースにしながらも、現代に通じるジェンダーや子育て、自由をめぐる問いを投げかける『FUJIKO』。木村監督と音楽制作に携わった3人に、映画の出発点、1970〜80年代という時代の捉え方、そして富士子という女性の人生に音楽がどのように寄り添ったのかを、実際にレコーディングが行われた都内某所スタジオで訊いた。

INTERVIEW
木村太一×ポパルダウド明×佐久麻瞬太郎×ハタヤテツヤ

1970年代の音響が体現する、自由への渇望 ── 映画『FUJIKO』木村太一×ポパルダウド明×佐久麻瞬太郎×ハタヤテツヤ インタビュー 042

話し合う場が生まれることが、アートの醍醐味だと思ってる

──今回の作品は、木村監督のお母様の人生をベースにしていると伺いました。

木村太一:僕は小さい頃から、アメリカのメジャーな映画が好きだったんですよ。そういうものに近いトーンの映画をやりたいと思った時に、どんなストーリーがいいんだろうと考えて、自分の母親の話を思い出しました。結構、奇想天外な人生を送っていたので。2作目でこの題材をやることは、たとえこの先キャリアが終わったとしても、人間として意味のあることなのかなと。

富士子は母親がモデルですが、それを主演の片山さんが一回取り込んで、富士子にしていった印象が強いです。そこはコラボレーション的な感覚もありました。エピソードの6〜7割ぐらいは実話です。時系列や場所が違っていたり、ストーリーのために脚色した部分はありますが。

──時代設定は1970年代後半から80年代前半で、舞台は静岡です。監督にとって静岡はどういう場所なのでしょうか。

木村:僕は東京出身なんです。ただ、よく静岡には行っていました。劇中に出てくる蕎麦屋は実在するお店なんですよ。母や姉、僕もよく助けられた場所で。映画を撮る時に、必ずその蕎麦屋で撮りたいと話していました。

映画って、役者さんがその場所に行って、空気を吸って、見て、感じて、そこから演じることが大事なんですよね。もちろんグリーンスクリーンをバックに「ここは宇宙です」と言われても演じることはできますが、やっぱり演技のクオリティに関わってくることなので、できる限り実際の場所で撮ることは意識していました。

──衣装や美術はもちろん、劇中では静岡で実際に起きた地下街のガス爆発事故など、当時の出来事を伺わせるエピソードもあります。

木村:ちょうど高度経済成長期が終わった後の時代なんですよね。リサーチしていくと、歴史的には大きな出来事が起こった時代というより、いわば“無の時代”のように語られている。もちろん実際に生きていた人にとっては激動の時代だったと思いますし、細かく見ればいろんな出来事が起きているんですけど。フェミニズムの歴史や、ウーマンリブの時代からの流れ……静岡駅前地下街のガス爆発事故もそう。そこと物語をどうリンクさせるかは、かなり考えました。

──おっしゃるように、劇中にはウーマンリブの流れや、当時のシングルマザーの生きづらさ、家父長制的な価値観も描かれています。それは現在にもつながる問題として感じました。

木村:そうですね。もちろん僕個人の感覚ではありますけど、イギリスに住んでいたこともあって、ジェンダーに関する意識については、日本はまだ5年、10年遅れているなと感じることもあります。

たとえば託児所の問題も、当時は0歳児を預けられないという問題があった。今は制度としては改善されているかもしれないけれど、保育園が少なくて預けられないという問題がある。社会は「子どもを産め」と言うけれど、じゃあどうするの?という矛盾がある。そういう意味では、形は変わっていても、同じような問題が繰り返されているんだと思います。

ただ、僕の作風としては、あまり強く主張を押し出したり、結論づけたりするタイプではないんです。それよりも、作品が“ドア”というか、ディスカッションのきっかけになればいいと考えていて。観た人が賛成するかもしれないし、反対するかもしれない。でも、それについて話し合う場が生まれることが、アートの醍醐味だと思っています。

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画面の映像と一緒にセッションしているようだった

──その中で、音楽にはどのような役割を求めていたのでしょうか。

木村:もともと、ちゃんと生音で録りたいという話をしていました。あの時代はバンド全盛期で、楽器の音が強い時代だったと思うんです。邦画だったら歌謡曲を使うことが多いのかもしれないですけど、うちの母はそういうものを通ってきた人ではなかった。むしろ洋楽ブームの中で、海外の音楽をかっこいいものとして聴いていた時代だったんです。

当時は今ほど海外へのアクセスがなかったからこそ、日本が一生懸命に海外の音楽を取り込もうとしていた時代でもある。母も洋楽を聴いていたし、僕もそこから影響を受けています。富士子は自由を求める話なので、アメリカンドリーム的なものや、UKロックの自由さとリンクしていったんです。

──実際に音楽制作を担ったみなさんは、木村監督からどのような話を聞いていたのでしょうか。

佐久麻瞬太郎:木村太一さんとは、本作のプロデューサー・平松卓真くんと僕が『アルノナイノ』 というバンドをやっていて、そのPVを撮ってもらったつながりがありました。あと、前回の監督作『AFTERGLOWS』にも参加させてもらっていて。そういうこともあり、今回の話も始まる前の段階からいろいろ聞いていたんです。

監督のお母さんの話で、70年代の風景がある作品だと。僕らの音楽を平松くんが知っていたので、「佐久麻たちに任せたら、その年代の音楽ができるんじゃないか」という相談を受けていました。明(ポパルダウド明)とはふたつぐらいバンドをやっていますし、ハタヤさんとも一緒にバンドをやっているので、このメンバーなら作品に合う音を作れるんじゃないかと思いました。

ポパルダウド明:70年代の雰囲気を出したいという話があって、具体的な名前としてジミ・ヘンドリックスが出てきたんです。僕、好きなギタリストと言ったらジミヘン一択ぐらいだったので。好きすぎて、逆に離れようとしていたぐらいだったんですけど、今回「ジミヘンをやってほしい」と言われて、嬉しいなと。やります、という感じで乗っからせてもらいました。

木村:ジミヘンは60年代の印象が強いので時代は少しずれているんですけど、そこはまあいいかなと(笑)。明くんもすごくハマってくれたし、ドラムや機材にもこだわってくれて。途中でハタヤさんにも入ってもらったことで、音の幅が広がった感じがありました。

ハタヤテツヤ:僕は佐久麻さんから前日に電話が来ました。「明日空いてる?」って。ほとんど予備知識もないまま、「ビートルズっぽい」とだけ聞いた気がします。それぐらいしか聞いていなかったので、映画音楽にしてはすごくラフだなと思いましたね(笑)。普通、映画音楽って画に合わせてきっちり作り込むことが多いじゃないですか。でも、そうじゃないんだなと。意外だなと思いながら、何もわからないままスタジオに行きました。

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佐久麻:最初は僕と明のふたりでレコーディングに入る予定だったんです。平松くんもベースを弾く形でいろいろやろうかという段取りはあったんですけど、いざ入ってみたら、やっぱり鍵盤の音が欲しいなと思って。僕もずっと音楽をやっているから、「これは絶対に鍵盤があった方がいい」と直感的に思ったんですよ。それで、「誰かいる?」と聞かれて、「絶対てっちゃんしかいない」と。1日目の終わりに思いついて、2日目に来てもらいました。

──いわゆる一般的な劇伴とは質感がかなり違っていて、セッションのように作っている感じがしました。実際のレコーディングは、どのような手順で進んでいったのでしょうか。

佐久麻:まず大枠として、もともと映像に入っていた音楽があって、それを参考資料として捉えました。ただ、その曲をそのままなぞるだけだと、パクってしまうことになるので(笑)、自分がその場でアコギなどを使って作曲して、それをみんなに弾いてもらう形で進めました。

正直な話、僕らはうまく演奏しようと思えばできるんですよ(笑)。でも今回は、「わざと下手にやる」ことをコンセプトにしていました。70年代のフレーバーがちゃんと出るように、ちょっと粗い感じ。昔で言うと、一発録りしました、みたいなフィーリングが出るように。それでセッション的な雰囲気が出ているのかもしれないですね。

木村:今の時代って、何でも完璧にやらなきゃいけない空気があるじゃないですか。BPMも全部ちゃんと決めて、きれいに整えて。でも今回は、1曲作るのに30分ぐらいしかないような感じで、とりあえずコードを弾いてみて、もうそれでいいからやって、みたいな作り方だった。その緩さが逆に良かったんじゃないかなと思っています。

富士子というキャラクターも、思いついた瞬間に「こうするべきだ」と動いてしまうタイプですよね。だから、頭に浮かんだものをとにかく弾いてみるというサントラ制作のあり方と、富士子の感情がつながっていた気がします。

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──『AFTERGLOWS』にも関わっていたトーマス・ヤードリーが、今回も参加していますね。

木村:彼は、僕のレイブ時代の友達です。とにかく天才なんですよ。めちゃくちゃなやつではあるんですけど(笑)、クリエイティブ一家で育っていて、妹もミュージシャンで、お父さんはMTV世代の編集マンで、賞をたくさん獲っているような人なんです。ヤードリー本人は無職なんですけど、音楽をめちゃくちゃ作るんですよ。

大学時代から音楽を作っていて、とにかくかっこいい。でもビジネスがまったくわからない人で、こんなにすごいのに、なんで誰もリリースしないんだろうと思っていました。自分の音楽になるとこだわりすぎて、1曲に3年かかったりするような人なんです。

──今回はどのあたりの音楽を担当しているんですか?

木村:オープニングの曲はしっかり彼に作ってもらいました。あと、3〜4曲ぐらい作ってもらっています。プロセスは人によって全然違っていて、それも面白かったですね。

──映画の前半で富士子が夜、泣きながらお父さんのギターをもらって、それをポロンと弾く時のコード感がすごく印象的でした。

佐久麻:あれは、富士子の父役のうじきつよしさんが考えたコード進行ですね。うじきさんが「この雰囲気だったらこれじゃない?」と考えて、片山さんに弾いてもらったんだと思います。あのシーン、僕もすごく好きですね。

──佐久麻さんが作曲していた曲は、その場で用意していたんですか。

佐久麻:全部その場ですね。長さも、普通の曲のように小節数で決められないじゃないですか。映像が1分31秒なら、そこまでで収めてください、ということになる。だから「あと2回しですね」とか、「ここに1小節だけ足しましょう」とか、そんな感じでした。

──曲によっては、映像を見ながらセッションしたものもあったのでしょうか。

ポパルダウド:ありました。ギターだけになる曲とかは、ずっと映像を見ながら弾いていましたね。監督が「ちょっと違います」とか「これはこれです」と言いながら進めていく感じでした。たとえば光が差すところで、音的にも光が差すようにする。画面の映像と一緒にセッションしているような曲もありました。

ハタヤ:あまり経験のない形だったからこそ、楽しくやれたところはありますね。ああでもない、こうでもないと言いながら、みんなで作っていく感じで。

佐久麻:あと、スタジオのサウンドがめちゃくちゃよかったですよね。完成したものを観た時に、音がちゃんと狙った通りになっているなと感じました。

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ポパルダウド:僕がその少し前にソロアルバムをここで録っていたんです。その流れもあって、今回も使わせてもらいました。

佐久麻:エンジニアの方は、質感へのこだわりがすごくある人なんです。スタジオによっては、大物の機材にこだわっているところもありますけど、一緒に遊びながら作ってくれる方なので、その点でもすごくいい雰囲気でできました。

普段こういう映画を観ない人にとっても入口になるように

──完成した映画を観て、自分たちの音楽が映像や芝居と合わさった時、どのように感じましたか?

佐久麻:これだけ音楽をフィーチャーしてくれている映画なんだ、ということに感動しました。映画館で観た時に、セリフより音楽は小さくなりがちだと思うんですけど、この映画では音がちゃんと前に出てくる場面がたくさんあった。やってよかったなと思いました。音の生々しさが伝わってくるし、それが片山さんの芝居や富士子の感情とリンクして、笑えたり、悲しくなったり、ちゃんと心情の変化と音楽がつながっているように感じました。

ポパルダウド:僕も、自分の弾いている音を映画館で聴くのは初めての体験だったので、すごく嬉しかったです。音楽が映画を引っ張っていくように見えるシーンもありました。あと、かなり前の段階から何度か映像を見ていたので、微調整で印象が変わっていくのも面白かったです。1秒、2秒切るだけで、ラストの見え方や音楽とのリンクが全然変わる。映画って面白いなと改めて思いました。

木村:僕は日本映画を観て育ってきたわけではないので、なんで日本映画ってこんなに音楽が少ないんだろうと思うんです。日本人だって、音楽がある映画が嫌いなわけじゃないじゃないですか。『パルプ・フィクション』も好きだし、『ベイビー・ドライバー』も好きだし、『スター・ウォーズ』だって、よく見るとほとんどずっと音楽が流れている。

だから、自分としては普通のことをやっただけなんです。でも邦画でそれをやる人が少ないから、いい違和感として受け取られているのかなと思います。僕にとって、音楽はそれぐらい大事なんです。最初の映画を作った時に、「ミュージックビデオの監督だから」と言われたことがあって。だったら映画の中でミュージックビデオをやってやろう、くらいに振り切った。そういうロック的な反骨心は、自分の作風の中にあった気がします。

──この映画を通じて、観客にどんなことを受け取ってもらいたいですか?

木村:まず、女性を応援する映画であることは大前提です。ただ、実は作っている時に意識していたのは男性なんです。富士子は当時、“シングルマザー”という社会的に少数派の立場に置かれていた人物なので、そうしたマイノリティー性を描いた話であり、マジョリティに理解してもらえない話でもある。だからこそ、マジョリティ側にも届くものにしなければいけないと思っていました。

女性が置かれている状況の大変さを理解していない男性がいたとして、その人たちが『FUJIKO』を観て「この映画、面白いな」と思ってくれたら、少し社会が変わるかもしれない。だから音楽をかっこよくしたり、アニメーションを入れたり、普段こういう映画を観ない人にとっても入口になるような要素は意識していました。

もうひとつは、富士子という人物には、明確な大きな目標があるわけではないということです。もちろん子育てという目標はあります。でも、ボクシングのチャンピオンになるとか、地球を救うとか、そういうわかりやすい目的がある主人公ではない。漠然と自由をつかみたいと思っている人なんです。

──そこが、ある意味ではとても現実的ですよね。

木村:そうですね。僕は12歳でイギリスに行って、10歳ぐらいから映画監督になりたいと思っていたので、最初から目標があった人間なんです。だから、夢がない人の感覚がわからなかった。でも母と話した時に、「普通の人は、それを探すのが人生なんだ」と言われたんです。何かをやりたいということは、そんなに早く見つかるものではない。目の前にあることを一生懸命コツコツ頑張っていくことで、道が開けるんだと。

それは素晴らしい考えだと思いました。富士子も、目の前で起きることにとにかく一生懸命向き合っていく。そうやって生きた結果、最後に自分で選択する権利を手にする。だから、何か無駄なことをやっているんじゃないかと思っている人がいたら、この映画を観て、そんなことはない、全部つながっているんだと感じてもらえたら嬉しいです。

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Interview&Text:Takanori Kuroda
Photo:Hinata Ishihara

INFORMATION

1970年代の音響が体現する、自由への渇望 ── 映画『FUJIKO』木村太一×ポパルダウド明×佐久麻瞬太郎×ハタヤテツヤ インタビュー fujiko
FUJIKO
2026年6月5日(金)よりTOHO シネマズ日比谷ほか全国公開
 
原案・監督:木村太一
脚本:我人祥太、國吉咲貴
企画・プロデュース:MEGUMI
出演:片山友希
渡辺友那 寺田楓 諏訪珠理 橋本淳 MEGUMI
馬場園梓 瀬戸さおり ミズモトカナコ 成松修 関口アナン
YOU リリー・フランキー うじきつよし 竹下景子
イッセー尾形 岸本加世子
 
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