今年3月にリリースしたCOMPLEX「恋をとめないで」のロカビリー・カバーが大きな話題を呼び、布袋寅泰本人からも賛辞が寄せられたThe Biscats。2019年の結成以来、「ロカビリーを次の世代へ届ける」という一貫した信念のもと、YouTubeや全国各地でのライブを重ね、ジャンルの垣根を越えてファンを増やしてきた。
そんな3人が完成させた最新作『BLACK or PINK?』は、怒りや葛藤を描く“BLACK”と、愛らしさや温もりを映す“PINK”という二つの表情を軸に、喜怒哀楽を詰め込んだ意欲作だ。ロカビリーをルーツに据えながらも、歌謡曲やポップス、オールディーズまでを自在に飲み込み、「The Biscatsがやればロカビリー」という独自のスタイルをさらに更新した一枚でもある。なぜ彼らは既存のロカビリーを守るのではなく、壊しながら未来へ繋ごうとするのか。アルバム制作の裏側と、その先に見据える夢について、3人にじっくりと話を聞いた。
INTERVIEW:The Biscats

名曲は、ロカビリーでもっと自由になる
──まず今年の大きなトピックとして、3月にリリースしたCOMPLEX「恋をとめないで」のMUSIC VIDEOが非常に話題になりましたよね。
Misaki:以前からカバーはさせていただいたんですけども、改めて配信したら想像以上の反響をいただいて。原曲の力も改めて感じましたし、布袋さんから直接お褒めの言葉をいただいたのも本当に嬉しかったです。自分たちらしいロカビリー・アレンジもできましたし、カバー冥利に尽きるというか。
──布袋さんからのリアクションが来た時、バンド内でのリアクションはいかがだったのでしょうか?
Kenji:朝起きたら、グループラインが大変なことになっていました。「布袋さん、ヤバい!」って(笑)。
──それまで布袋さんと直接の交流はあったのでしょうか?
Misaki:ソロ時代に、アルバムの中で布袋さんの「バンビーナ」をカバーさせていただいたのですが、その時にCDをインスタに載せてくださったり、ライブに招待してくださったりと、何回か交流はありました。
──「バンビーナ」のMV撮影がThe Biscatsの3人の初対面だったんですよね。キャリアの節目にはいつも布袋さんが関わっているというか。
Misaki:そうですね、大事な時にいつもお世話になっています。一方的に(笑)。
──「恋をとめないで」のカバーをはじめ、YouTubeやライブでは数多くの楽曲をロカビリー・アレンジでカバーしていますよね。選曲の基準はあるのでしょうか?
Misaki:ズバリ、私が歌いたい曲です。ロカビリーのシンガーとしてデビューするまでは、昔の歌謡曲や流行っているポップスをひたすら聴いていたので、その趣味を活かしています。「この曲歌いたいんだけど、ロカビリーでアレンジできる?」って投げて……。
Kenji:やります。
Suke:やります。
Misaki:ハハッ(笑)。主にKenjiがアレンジを担当しているんですけど、何でもロカビリーにできちゃうんですよね。

──Kenjiさんにとっての自信作はありますか?
Kenji:「天城越え」ですね。演歌をロカビリーのフィールドに寄せるということが成功した例かなと。
Suke:確かに。「天城越えでロカビリーしてたよね?」ってよく言われます。
Kenji:常に「これ、ロカビリーにしたらどうなんるだろう?」って考えているんです。街中で流れてきた曲を聴いて「シャッフルのリズムにしたらどうなるかな?」とか。そういう風にロカビリー・アレンジのアイデアを溜めておくんですよね。
──すごい、特殊能力ですね(笑)。
Suke:この前はお店で「ひな祭り」の歌が流れてきて、急に「これロカビリーにできると思う」って言い出したんです。
Kenji:そう、あれはイケる。来年あたりに出るかもしれません(笑)。
その”怒り”が、新しいロカビリーを生んだ
──YouTubeやライブの本数を重ねることは、The Biscatsの活動にどのような影響を与えたのでしょうか?
Misaki:バンドとして7年間活動してきて、ロカビリーがあまり好きじゃない方にもたくさん知ってもらえるようになったと思います。どの街に行ってもお客さんがいて、一切手を抜かずに演奏してきた甲斐があったなって思います。
Suke:The Biscatsでロカビリーを初めて知ったから行こう、みたいな人が増えたとは思います。半分くらいはそうなんじゃないかな。
Misaki:うん、ジャンルとか一切関係なく来てくれる方がすごい増えた。そのお陰もあって、自分たちの知らない場所に出演してもいつも来てくれる皆さんが盛り上げてくれるので、それを観た別のお客さんが「ちょっと楽しそう!」っていうノリで集まってきてくれたりとかして。そういう連鎖が起こりはじめてるとは思います。
──The Biscatsをきっかけにロカビリーの魅力を知る方も多いと思います。ロックやヒップホップなど、他ジャンルのライブと比べたときに、ロカビリーならではの魅力はどんなところにあると感じていますか?
Kenji:例えば僕がロカビリーに衝撃を受けた時は、何も考えずに聴いた瞬間に体が動き出したくなるようなビートに感動したんですよね。聴いた瞬間に「あ、なんか楽しいな」って思えるというか。
Suke:そう、ダンス・ミュージックなんです。だから楽しくないはずがない。それと自分がロカビリーを始めるきっかけになったストレイ・キャッツは不良っぽさがあるというか、今だったらヒップホップをやるようなワルい子たちが昔に戻ってカッコいい不良をやっているような雰囲気があるんです。
Kenji:まさにストレイ・キャッツのブライアン・セッツァーは凄いライブをしていましたね。声だけじゃなく、ギターも歌ってるように弾くんですよ。ほぼ手元も見ず、全身が一体化しているというか。それに衝撃を受けて自分もギターを弾いているんです。
──Misakiさんはお父様の影響でロカビリーが身近にあったのですよね。
Misaki:そうです、生まれた時から家でずっとロカビリーが流れていて。ただ当たり前の存在すぎて、実はライブは一回も観たことがなかったんです。それからギャルモデルやアイドルなどいろいろやってみても、どれも自分にしっくりこなくて。そこからロカビリーの跳ねるリズムが自分に染み付いていることにようやく気づいたんです。好きで始めたというより、自分の中に染み込んでいるものから始まったんです
なので今はロカビリーという音楽自体を広めるために3人で頑張っていて。同世代や下の世代には「ロカビリー」という言葉すら知らない子もいるので、「こんなに楽しい音楽があるのに火が消えてしまうのはもったいない」という想いでYouTubeにも力を入れているんです。ロカビリーブームが最後に日本で起きたのは80年代なので、次は自分たちが入り口になれたらなと思っています。

──昨年リリースの「がんばロカビリー」はまさにそういった楽曲でしたよね。ロカビリーへの応援歌というか。
Misaki:わたしがずっと言い続けてた言葉なんです、「がんばロカビリー」って。
Kenji:そうですね。バンドのテーマソングを作ろうと思って、結果的に自分たちがロカビリーを広めたいっていう思いとマッチした楽曲に仕上がりました。
──そのリリースを経た上で最新作『BLACK or PINK?』に繋がるのですが、どのようなコンセプトで制作を進めたのでしょうか?
Misaki:最初に先行シングルの「ざけんな!」と「よそ見はNO!」の2曲が完成していて、そこからアルバムについてお風呂に入りながら考えていた時に「ブラックとピンクに分けて全然違うものを一つにまとめたら面白いかな?」って思いついたんです。なので最初の3曲はブラック、後半3曲はピンクという風に分けて、7曲目にボーナス・トラックとして「恋をとめないで」を収録しました。
──以前からあったという「ざけんな!」は歌詞も含めパンチのあるナンバーですよね。
Kenji:今までThe Biscatsって楽しいものばかりで、怒りに関する曲ってなかったんですよ。ただバンドとして色んなことを経験してきた中で、怒りが原動力になることもあるというか。それでギターを弾きながらこ「ざけんな!」というフレーズを思いついたので、何とか形にしてからMisakiちゃんに「あとはよろしく!」って投げました(笑)。
Misaki:そうそう、「キター!」って思いました。いつも歌詞を書く時は日々考えていることをまとめたスマホのメモから引っ張ってくるんですけど、その中にもムカついたこととかはあって。でも、その怒りを作品にするタイミングが今まで全くなかったんですよ。なので何年分かの怒りが溜まってて……なので「あ、ついに時が来たな」というか。
──ちなみに、どんな怒りが溜まっていたんですか?
Misaki:そうですね……10代から活動を続けていると、上から目線で言われることも多いというか(苦笑)。それこそ「こんなのロカビリーじゃねぇ!」って言われることもありますし。
──えっ、そうなんですか?
Misaki:全然言われますよ。「よく聞けよ!」と思うんですけど、やっぱりオーセンティックなロカビリーが好きな人には受け入れられないというか。ただ、昔からあるロカビリーのスタイルをやりたいわけじゃないんです。The Biscatsの初期からのテーマで、ロカビリーが好きだから今までのバンドを真似した普通のロカビリーをやるんじゃなくて、それを良い意味でぶっ壊していって「The Biscatsのロカビリーはこれだ!」というものを提示していきたいんです。なのでたまに昔からロカビリーが好きな人に怒られちゃったりもするんですけど……まぁ「ざけんな!」が出来たので、その気持ちは成仏したということで(笑)。
──なるほど(笑)。その流れで「BAD CAT」と「Hi-Hi」もブラックな側面として作っていったんですね。
Misaki:「BAD CAT」は悪い女をテーマにしています。愛とか優しさとか信じない、でもどこかで誰かに期待している……そんなクールな女性をイメージしました。
Kenji:「Hi-Hi」は僕がアイデアを出したんです。元々大阪で活動をしていたんですけど、その頃の「音楽で食っていけるんだろうか?」みたいな不安を思い出して、その気持ちを書いて続きはよろしくという感じで渡したんです。
Misaki:「いつも元気な人だって、たまには落ち込む夜があるよね」っていう人間のリアルな部分を歌ったのが「Hi-Hi」ですね。
最高傑作は、武道館への第一歩
──『BLACK or PINK?』はアーティストとしての主張がありありと見えるというか、人の切実な側面を歌っていますよね。例えば次の「よそ見はNO!」も、表向きは独占欲の強い女性を歌っているようでありながら、「他のバンドじゃなくて私たちを見て!」というメッセージにも聞こえるというか。
Misaki:(拍手)天才! そう、そうなんです。キャッさん(The Biscatsのファンネーム)に向けて「よそ見はNO!」というか、「The Biscatsを見ていたら良いことあるよ」っていう裏テーマがあったんです。メンバーにもそれは言ってないんですよ。
Suke:知らんかった……。「そういう女性なんだな」としか思ってなかったです(笑)。
──「よそ見はNO!」のMVにはモグライダーの芝さんも出演していましたよね。
Misaki:ロカビリー芸人さんのTAIGAさんとのご縁で芝さんと初めてお会いして、その時にストレイ・キャッツの話で盛り上がったんですよね。しかもリーゼントですし、「よそ見はNO!」のMVの彼氏役は芝さん以外思いつかないというか。それで決め打ちでお願いしたら奇跡的にスケジュールが合ったんです。2時間だけだったよね?
Suke:そう。
Misaki:もう車の中で着替えてすぐに撮影、みたいな。ご縁に感謝しています。

──キュートな「よそ見はNO!」から「きゅるるんSummer」ではオールディーズを意識したレトロなポップスが展開されます。どのようなアイデアから作っていったのでしょうか?
Kenji:これはサウンド・プロデューサーの真崎修さんに作っていただいたんです。個人的にはオールディーズの皮を被った現代風のポップスというか、細かく聴くと物凄い数のギターが重ねられていて。考え抜かれた、真崎さんにしかできない芸当だなっていう。
──提供曲という点では「がんばれロカビリー」と同時にリリースされた「Right Now!!」も一聴するとロカビリーの範疇から外れたポップスのようにも聴こえますが、そうした新しい試みに挑戦している意識はあるのでしょうか?
Misaki:そうですね。「魂さえロカビリーだったら好きなところまでジャンルを広げても大丈夫」っていうテーマがありまして。なのでギリギリを攻めています。
Kenji:ロカビリーが好きな人だったら、「Right Now!!」とか「きゅるるんSummer」を聴いても、「この人たちはロカビリーが好きなんだろうな」っておそらく気づくと思うんです。細かいギターやベースの奏法であったり、独特の跳ねるリズムは失っていないというか。
Misaki:美味しいところは抑えてるよね、ロカビリーが好きな方がピンとくるポイントは外さないようにしているというか。根本まで理解できないとその余裕って生まれないので、最初は王道を踏まえつつ練習して、今では「The Biscatsがやればロカビリーでしょ!」って自信を持って言えるようにはなりました。
Suke:あと、「ウッドベースは元気いっぱいにロカビリーしないとダメだ」っていう持論があって。それは継続しています。とにかく派手に、元気に飛び跳ねるというか。
──『BLACK or PINK?』のピンクの側面を担う最後の曲は「もう一度会いたくて」、こちらはかねてからYouTubeでカバーしている昭和の歌謡曲のような風格を感じました。
Kenji:一昨年に自分の父親が他界しまして、その報せを仙台のライブへ行く前に受け取ったんです。その時の「もう一度会いたいな」っていう気持ちを歌にして発散しようとしたらメロディを思いついたので、自分の好きなロカビリーだったりオールディーズのスタイルに寄せてMisakiちゃんに渡したんです。「自分では続きの歌詞が書けないから、代わりに書いてもらっていい?」って。
Misaki:私も今年の1月に猫ちゃんを亡くしたので、その想いを重ねて書きました。生きている中で大切な人を失うこともあるけど、そんな中でも寄り添えたらなっていう歌です。
──ここまでのお話を伺って、『BLACK or PINK?』はあらゆる意味でThe Biscatsにしか作れない作品になったのではないかと。
Misaki:『BLACK or PINK?』は今までにないぐらい喜怒哀楽が表現されてるというか、「感情のジェットコースター」って私たちは呼んでるんです。人間に欠かすことのできない感情を全部詰め込むことができたから、個人的にも大好きなアルバムというか。最高傑作です!
Kenji:うん。自分が生きてきた中で、表現したいものがストレートに表現できたアルバムになったと思います。
Suke:色んなタイプのロカビリーが混ざってるんですけど、そこまでロカビリーにこだわらなくてもスッと入って来れるような楽曲がいっぱい揃ってると思うんで、気楽に聴いてほしいですね。こう、部屋でジッと聴くんじゃなくて……ラフに踊りながら(笑)。
──まさにダンス・ミュージックというか。
Suke:あ、そうです。もう頭空っぽにしてね、って感じです。
──Sukeさんってとてもフィジカルへの意識が強いですよね(笑)。
Kenji:確かに、超フィジカル(笑)。
Misaki:武闘派、肉体派(笑)。
Suke:ハハッ、野球部だったんで。
──(笑)。では最後に、『BLACK or PINK?』を引っ提げて回る<The Biscats TOUR 2026「BLACK or PINK?」>への意気込みを教えてください。
Misaki:2年前に目標としていた渋谷公会堂(現LINE CUBE SHIBUYA)でのライブを成功させることができて、次の目標として日本武道館を掲げたんです。そのためにも今回のツアーがかなり重要になると思うので、ぜひ生のロカビリーを体感してもらって「また次も来たいな」って思ってもらえるように、一本一本「がんばロカビリー」してきたいなって思います!
Kenji:武道館でのライブを宣言したので、ここから来てくれた人は一人残らず、全力で抱え込んでいこうと思います(笑)。
Suke:僕らは武道館に向かって、ライブをドーン!とやって、バーン!とやってみんなでイェーイ!って盛り上げていくんで!
Misaki:フィジカル!(笑)

Photo:Koichiro Funatsu
Text:Ikkei Kazama
Edit:Ranji Tanaka
The Biscats

Vo.Misaki、Kenji (Gt).Suke (W.ba)のハイブリッドロカビリーバンドとして2019年に結成。初ライブをラスベガスで敢行。
2020年YouTube Channelを開設し、現在(2026年7月)の登録者数は13万人。
2022年から2月8日ロカビリーの日に主催イベント「ROCKABILLY FESTIVAL」を開催し多彩なゲストや海外からもバンドを招聘し毎年盛り上がりを見せている。
2024年ロカビリーバンドとして30年振りに渋谷公会堂(LINE CUBE SHIBUYA)にて単独ライブを開催。
2025年リリースのシングル『Right Now!!』はUSEN推し活リクエスト1位を記録。
今年3月にCOMPLEXの『恋をとめないで』をカバーしスマッシュヒット、7月には2ndアルバム『BLACK or PINK?』をリリース。
9月からツアー『BLACK or PINK?』を全国8ヶ所で開催。
INFORMATION

DARKな【BLACK SIDE】と POPな【PINK SIDE】
The Biscats が魅せる究極の二面性。
これが令和のハイブリッド・ロカビリーの最高到達点!
7月29日 RELEASE
『BLACK or PINK?』
TME-21023
¥2,500-
収録曲
1.ざけんな!
2.BAD CAT
3.Hi-Hi
4.よそ見はNO!
5.きゅるるん Summer
6.もう一度会いたくて
7.恋をとめないで(Bonus Track)