2026年7月23日(木)、代官山UNITで開催された、水曜日のカンパネラとBIG ROMANTIC RECORDSによる共同イベント『TOKYO SUMMER ENSEMBLE』。
中国・上海出身で現在はニューヨークを拠点に活動するFiFi Zhang、タイ・バンコクのバンドKIKI、そして水曜日のカンパネラが出演し、それぞれ異なるアプローチでアジア発のエレクトロニック・ミュージックの現在地を映し出した。
なぜこの3組だったのか。そしてこの日東京で鳴っていた音とはーー。本稿では、ライブ当日の熱気に加え、出演者・関係者へのインタビューを交えながら、この夜に交差したアジア音楽シーンの一端を振り返る。
TOKYO SUMMER ENSEMBLE@代官山UNIT

YonYon(DJ)
開演前から転換中、終演後までフロアを彩ったのは、ソウル生まれ・東京育ちのDJ/プロデューサー・YonYon。SUMIN & Slom「IN TOUCH」、HYUKOHと落日飛車「Glue」、加えてEmeraldやKan Sano、そしてYonYon自身の最新アルバムより「Old Friends (feat. SIRUP, Shin Sakiura) / Prod. Shin Sakiura 」など日本とアジアを行き来するような選曲で、この場に集ったアーティストやオーディエンスの世界観を自然につないでいく。ライブが始まる前から、本イベントが描こうとする”アジアの現在地”は、すでに鳴り始めていた。

FiFi Zhang

1組目に登場したFiFi Zhangは、上海出身で現在はニューヨークを拠点に活動するシンガーソングライターであると同時に、プロデューサー、DJ、そしてビジュアルアーティストとしても活動するマルチクリエイターだ。
FiFiは自身のロゴと白い羽が舞う幻想的な映像をスクリーンに映し出し、ステージに姿を現した。

約30分という限られた時間の中で披露したのは11曲。「WHERE U R (angel with no feathers)」から「Chasing the Moon」「petals」へと続く序盤は、まるで映像作品やインスタレーション空間へ足を踏み入れたかのようだった。透明感のある歌声と繊細なシンセサウンドが空間をゆっくりと満たし、観客は音に身を委ねるように、静かにその世界へ引き込まれていく。
「Nobody」の前には、「次の曲は悲しい曲です」と一言。その短い言葉を合図に、孤独や喪失感は浮遊感のあるサウンドへと姿を変えていく。演奏の切れ目ごとに客席からは歓声が上がり、楽曲を重ねるごとに大きくなっていった。
中盤からはよりビートが強まり、「Travel Through The Milky Way」、「So Beautiful So Lonely」では、それまでのクールな表情とは対照的な柔らかな笑顔を見せる。序盤はまるでインスタレーション作品の一部のように見えていた彼女が、表現者として身近な存在へと変わっていく。そしてラストの「Replay – Trance Mix」が鳴り終わると、会場は大きな拍手に包まれた。
映像・身体・サウンドが一体となって没入体験を生み出すライブは、彼女自身の制作哲学とも深く結びついている。作品づくりで最も大切にしているのは「音楽とビジュアルの一貫性」だという。
「曲を書いている段階から映像が頭の中にあります。映像の内容は、混沌、夢、遊び心、あるいは深く物悲しいものなどさまざまです。ストーリーボードや美術、スタイリング、編集、カラーグレーディング、フォントに至るまで、すべてが音楽の世界観を拡張するために存在しています」(FiFi)
さらに、「上海もニューヨークも、そして東京も、速いスピードで動き続ける都市であり、その中には共通する都会の孤独がある」と語った。その言葉は、この日ステージに漂っていた静かな哀愁の背景を、あらためて腑に落とさせるものだった。

影響を受けたアーティストとして、中国のフェイ・ウォンやテレサ・テン、ニューヨークのアリーヤ、そして宇多田ヒカルの名を挙げる彼女。多彩なルーツが、映像・音楽・身体表現を一つの世界観として結び付ける、FiFiならではのライブを支えているのだろう。
今回が初来日となったFiFiは、ライブ後、「代官山UNITのスタッフは驚くほどプロフェッショナルで、自分にとって最高のライブ体験の一つだった」と振り返る。さらに、「ステージから観客一人ひとりの表情がよく見えたので、サイン会では立っていた場所まで覚えていた」と笑顔で語った。観客にとって印象深い一夜となっただけでなく、FiFi自身にとっても忘れられない東京でのファーストステージとなったようだ。

【セットリスト】
1 WHERE U R (angel with no feathers)
2 Chasing the Moon
3 petals
4 Nobody
5 You Ain’t in Love
6 Run Away, My Lover
7 All the Lights Are Coming Back to Me
8 Travel Through The Milky Way
9 So Beautiful So Lonely
10 Fallen Angel (feat. Dazegxd)
11 Replay – Trance Mix (feat. swami sound)
KIKI

続いて登場したのは、タイ・バンコクを拠点とするエレクトロ・ポップ・ユニット、KIKI。これまで幾度となく来日を重ね、数日後にはFUJI ROCK FESTIVAL ’26への出演も控える彼らは、FiFi Zhangが描いた静謐な世界とは対照的に、生バンドならではの重量感でフロアの空気を一変させた。
ステージに姿を現したのは、Helen(Vo)、Boss(Gt)、Non(Gt)のオリジナルメンバーに加え、サポートメンバーのMudmee(Key & Syn)、Book(Ba)、T(Dr)、Pleng(Cho)を迎えた7人編成。厚みを増したアンサンブルが、KIKIならではのダンスグルーヴをより力強いものにしていた。

スクリーンいっぱいに広がるVJとともに幕を開けた「Get Up」から「Baby」へ。重厚なビートの上を、どこか憂いを帯びたHelenの歌声が滑る。シンセサイザーとツインギターは複雑に絡み合い、エレクトロニック・ミュージックのビートとロックバンドのダイナミズムが境界なく溶け合っていく。楽曲ごとに表情を変える映像演出も相まって、フロアは瞬く間にKIKIの世界へ引き込まれていく。序盤から、1曲が終わるごとに大きな歓声が上がっていた。
ジャムセッションを挟みながら少しずつエネルギーを積み上げていく構成も印象的だった。中盤の「Oyster」「Daisy」は音源以上にライブ映えする楽曲として強い存在感を放ち、バンドとしての表現力の高さを改めて印象づける。

終盤の「Cold Night」では、メンバーが観客へしゃがむように呼びかけ、「3, 2, 1!」のカウントとともにフロア全体が一斉にジャンプ。フロアは、さらに熱狂の渦へと飲み込まれていった。そしてラストの「Alive」を終えると、Helenは「We’ll be back again!」「Love Tokyo!」と笑顔で叫び、メンバー全員が肩を組み深々と一礼。惜しみない拍手を浴びながらステージを後にした。
Daft PunkやPhoenixなどフレンチ・エレクトロミュージックから影響を受けたというKIKI。筆者が2024年にタイ・バンセーンで観たライブと比べても、今回は電子音や低音の存在感が格段に増し、サウンド全体はよりシャープで立体的なものへと進化していた。そのサウンドの変化について尋ねると、Helenはこう語った。
「この変化はまさに意図していたものでした。これまで影響を受けてきたアーティストや電子音楽への深い愛を、自分たちなりに突き詰めてみたかったんです。ミクソロジストがさまざまな素材を組み合わせて一杯のドリンクを作るように、私たちもいろいろな要素を混ぜ合わせながら、自分たちだけのサウンドを探していました」

しかし、それは電子音楽へと舵を切ったという意味ではないという。「人は年齢を重ねるにつれて、好きなものも価値観も変わっていく。その変化こそが創作の美しさです」
この日、KIKIが鳴らしていたのは、「タイのバンド」という枠組みでは語りきれない、現在進行形のエレクトロ・ポップだった。その時々に惹かれるものを柔軟に取り込みながら音楽を更新していく。その変化の続きを、また日本で目撃したくなる。そんな期待を自然と抱かせるステージだった。

【セットリスト】
1 Get Up
2 Baby
3 XOXO
4 Oyster
5 Daisy
6 Cold Night
7 Alive
水曜日のカンパネラ

トリを飾ったのは、水曜日のカンパネラ。ケンモチヒデフミが先にステージへ姿を見せると、詩羽が客席から登場し、人気曲「怪獣島」でライブの幕を開けた。
今や、水曜日のカンパネラは説明不要の存在かもしれない。しかし、この日のラインナップの中で観る彼らは、いつもとは違った響きを伴っていた。FiFi Zhangが映像作品のような没入体験を、KIKIが生演奏による重厚なダンスグルーヴを描き出したあとに現れた水曜日のカンパネラは、日本独自のポップカルチャーをエレクトロニック・ミュージックとして鳴らすという個性が、より鮮やかに浮かび上がっていた。
「聖徳太子」から「バッキンガム」へと勢いよく駆け抜けた後、MCでは、詩羽がKIKIとの再会を喜ぶ場面も。「タイで初めてお会いした時は、クールな方かなと思っていたんだけど、明るくて可愛らしい方で。今日は東京で一緒にライブができて本当に嬉しいです」と語った。さらに「これまで水曜日のカンパネラを見たことがない方もいらっしゃると思いますが、私たちのライブは、みんなで一緒に踊ったり手を挙げたり、声を出したりして、最高のライブを創り上げていくというパフォーマンスです」と、丁寧に説明。そして「みなさん、今日楽しんでいけそうですかー?」と呼びかけると、その期待に応えるように、フロアからは歓声と拍手が巻き起こった。

続く「シャトーブリアン」では牛のコスチュームに身を包んだケンモチが観客とのコールアンドレスポンスを促し、「たまものまえ」ではバックダンサーとともに狐をモチーフにした舞い、「スキピオ」ではペンライトも登場。さらに「ウォーアイニー」ではケンモチがパンダの被り物を被ってダンスを披露した。楽曲ごとに姿を変える演出は、まるでテーマパークを歩いているかのような高揚感をもたらした。一方で、ケンモチによるトラックは決してポップ一辺倒ではなく、重厚な低音と緻密なエレクトロニック・ビートが空間を支え、その上でエンターテインメント性に富んだユーモラスな演出が違和感なく溶け込んでいく。その絶妙なバランスが、水曜日のカンパネラならではの魅力を際立たせていた。

「エジソン」に続くラストの「招き猫」では、ステージに収まりきらないほどの招き猫が登場。ステージとフロアの境界はいつしか曖昧になり、ライブは演奏を”見せる”だけのものではなく、観客とのかけあいによって完成していく。その現在の水曜日のカンパネラらしさが、この日のパフォーマンスには凝縮されていた。

今回の『TOKYO SUMMER ENSEMBLE』は、水曜日のカンパネラとBIG ROMANTIC RECORDSによる共同企画として実現した。水曜日のカンパネラのマネジメントを務めるDir.Fは、その出発点について「日本の音楽を海外へ届けたいという思いで活動してきた中で、最近は海外との距離が以前より近くなっていると感じていました。国内外のアーティストが気軽に対バンできる場を作れたらと思っていたんです」と振り返る。以前から交流のあったKIKIの来日タイミングと、BIG ROMANTIC RECORDSとの対話が重なったことが、本イベント開催のきっかけになったという。
また、ケンモチ自身も以前からアジア各地の音楽に強い関心を寄せてきたクリエイターの一人だ。「タイのサイヨーやインドネシアのジャカルタ・ダッチ、最近ではベトナムのヴィナハウスなど、アジアのローカルな音楽を聴くのが好きなんです」と語るほか、韓国『Asian Pop Festival』、台湾『浪人祭 Vagabond Festival』、香港『Clockenflap』、インドネシア『Joyland Festival』などへのフェス出演や各国でのワンマンライブを通じ、「欧米とはまた違う空気感や人々から多くの刺激を受けた」と振り返る。
その経験を経て、「いろんな国を回ると、逆に『日本の音楽も相当変だな』と改めて思うんですよね」と一言。海外のシーンに触れることで、日本独自のポップネスや実験性を再発見する──その視点こそが、現在の水曜日のカンパネラの音楽を支える土壌になっているのかもしれない。

【セットリスト】
1.怪獣島
2.聖徳太子
3.バッキンガム
4.シャトーブリアン
5.たまものまえ
6.スキピオ
7.ウォーアイニー
8.エジソン
9.招き猫
東京が示した、アジアの現在地
『TOKYO SUMMER ENSEMBLE』は、「アジアのエレクトロニック・ミュージック」という一言では決して括れない、多様な表現が東京で交差した一夜だった。
共同主催であり、アジアのアーティスト招聘を長年続けてきたBIG ROMANTIC RECORDSの寺尾氏は、「3組とも電子音楽やポップスをベースにしながら、それぞれ突出した表現を持っています。同じイベントで共演したら面白い化学反応が生まれると思いました」と語る。また、「アジア出身のアーティストを意識的にラインナップし、それぞれ異なる場所で生まれた表現が東京でクロスオーバーする景色を見せたかった」と、その狙いを明かした。
こうした意図のもと集まった3組に共通していたのは、ライブを単なる「演奏」ではなく、一つの「体験」として設計していたことだ。
Dir.Fは今回のイベントについて、「来場者には新しい音楽やアーティストとの出会いを持ち帰ってもらえたと思います。ただ、今後の期待も含め達成度としては50%くらい。こうした機会を継続していくことで、より認知されていく」と振り返る。さらに、「共感性の高いテーマはそれだけでヒット曲になり得る。ただ、これからは日本だけではなく、アジア全体で共感されるテーマや視点を考えながら、コンテンツやサービスそのものもアップデートしていく必要がある」と展望を語った。
この夜は、日本、タイ、中国という異なるルーツを持つアーティストたちが、「東京」という都市で交差した一日だった。しかし、それは単なる国際交流イベントではない。互いが積み重ねてきた音楽があるからこそ、新しい景色が生まれる。その瞬間を、『TOKYO SUMMER ENSEMBLE』は確かに描いていた。
