ここ数年、オーストラリアのR&Bシーンから新しい世代が相次いで台頭している。パニア(PANIA)、フォレスト・クローデット(Forest Claudette)、ベッカ・ハッチ(Becca Hatch)、マイナ・ドウ(Maina Doe)……。その流れを象徴するのが、シンガーソングライターのBOY SODAだ。

彼が2025年1月にリリースした“Lil’ Obsession”がバイラルヒットを記録。同曲でARIA AwardsのBest Soul/R&B Releaseを受賞すると、昨年にはデビュー・アルバム『SOULSTAR』、今年6月にはその拡張版『SOULSTAR Deluxe』を発表し、SUMMER SONICへの初出演も果たした。

シルキーな歌声とストレートかつ内省的なリリック、R&Bを 軸にヒップホップやジャズなどを横断するサウンドは、国境を越えて世界中の音楽ファンに届きつつある。

今回Qeticでは、SUMMER SONICのステージを終えたばかりのBOY SODAに取材する機会を得た。音楽やファッションにおける哲学から、『SOULSTAR』にも刻まれたサモア系のルーツ、さらには彼を含む新世代が存在感を増しているオーストラリアのR&Bシーンまで、じっくりと語ってもらった。

INTERVIEW
BOY SODA

BOY SODA──「テイストがすべてに勝る」音楽、ルーツ、ファッションから紐解く現在地 boysoda_interview_01

──昨日、SUMMER SONICのステージを終えたばかりです。日本でのライブはいかがでしたか?

大阪と東京で演奏できたのは、とても特別だったよ。素晴らしい旅だった。日本の観客は本当に最高で、反応もすごく良い。みんな明らかに音楽が好きだから、僕らの音楽を本当に愛してくれている人たちに届いている感覚があったよ。オーストラリアの観客はもっと騒がしいっていうか……どちらにも良さがあるんだけどね。

──あなたの最新作『SOULSTAR』はとてもパーソナルな作品でもあるので、オーディエンスは深く感情移入していたと思います。こうした作品を作り上げたことで、あなた自身にも変化はありましたか?

『SOULSTAR』は、自分自身について本当に多くのことを教えてくれたんだ。僕はずっと、こういうアルバムを作りたかったんだと思う。自分のアイデンティティをしっかり封じ込められたと感じられる作品をね。それを実現できると証明できたという意味でも、自分の人生をすごくカラフルな形で作品にできたという意味でも、僕にとっては一つのマイルストーンだよ。

──『SOULSTAR』にはR&Bをベースに、ソウル、ジャズ、ヒップホップ、ポップなど様々な要素があります。BOY SODAの音楽として一貫性を保つために、大切にしているものはありますか?

結局、「テイスト」がすべてに勝ると思うんだ。ジャンルをどう組み合わせても、テイストが正しければ、その融合には必ず意味が生まれる。僕から生まれてくる音楽は、僕が愛しているすべてのものに影響されている。その上で『SOULSTAR』では初めて、「自分が聴きたい音楽」を作ろうと思えた。単純にクールだとか、踊れるとか、落ち着けるとか、そういう機能を持った曲じゃなくて、「自分が聴きたい音楽」をね。

──“SELFISH”はとても感動的な曲で、弱さも含めて自分自身と向き合う真摯さがリリックから伝わってきます。曲を書くとき、自分に対して正直であるために意識していることはありますか?

嘘をついているときや、何かを薄めているときって、自分でわかるんだ。もっと良く言えるってこともわかる。壁にぶつかったとき、「なぜそのまま言わない?」って自問する。それは怖いからなんだよ。うまく言葉にできないことが怖いから。だから「不快さの刃の先端」みたいな場所に立つ。その不快さを感じるときは、本当の声に近づいている証拠なんだ。

───簡単ではないですよね。

だからこそ、たくさん曲を書くんだ。同じ曲の別バージョンを何度も書くことだってある。そして、いちばん正直に書けたときは自分でわかる。何度も同じテーマに戻ってしまうのは、まだ十分に掘れていないからで、一つのことを語るのにアルバム一枚や、たくさんの曲が必要になることもある。

でも、それが最高でもあるんだ。書いている対象との関係が変化していくから。楽になることはないけど、不快さの向こう側には音楽の可能性があって、そこでリスナーとのつながりが生まれる。

自分自身に寄り添う方法を教えてくれる授業はない

BOY SODA──「テイストがすべてに勝る」音楽、ルーツ、ファッションから紐解く現在地 boysoda_interview_02-scaled

──ちなみに、あなたはセントラル・コーストで育ったそうですが、R&Bやソウルに触れたきっかけは何だったんですか?

実は僕の周りではR&Bやソウルを聴いている人はあまりいなくて、学校でも僕だけがiPodでいろいろ聴いていたんだ。きっかけは従兄弟だった。おばさんの家に行くたびに、彼がJ. コール(J. Cole)の新しいアルバムとか、ミゲル(Miguel)やアッシャー(Usher)のアルバムのデータをくれてね。彼がダウンロードしてくれた音楽が僕をR&Bやヒップホップの世界へ導いてくれて、そういうジャンルへの愛を育ててくれたんだよ。

──音楽を始めたのはいつ頃だったんでしょう?

高校の終わり頃。17歳のときかな。でも、もっと前からいつも車の内側をタップしていたりしたよ。両親がジャンベを買ってくれて、子どもの頃はクラシックのサックスも演奏していた。ずっと音楽には惹かれていて、歌は後からだった。歌って、録音して、プロデュースし始めたのが17歳くらい。そこで、それまで積み重ねてきたものが一つになった感じだね。

──その後、シドニー工科大学に通い、音楽とサウンドデザインを学んだそうですが、アカデミックに音楽を学んだことは、あなたの表現にどのように活かされていますか?

どうしてそんなことを? 素晴らしいリサーチをありがとう(笑)。実は学位は修了していないんだ。そこで、音楽の作り方は学べないと気づいたからね。

出会えた人たちは素晴らしかったけど、紙の上で音楽について知ることはできても、それが音楽の本質ではない。音楽の本質は、実験して、よく遊んで、クラフトに集中して、自分でたくさんのことを学び、インスピレーションを見つけることだと思う。自分自身に寄り添う方法を教えてくれる授業はない。技術は芸術の一側面でしかないからね。馬を水辺に連れていくことはできても、素晴らしいアーティストにすることはできないんだ(「馬を水辺に連れていくことはできても、水を飲ませることはできない」ということわざをもじった表現)。

──では、歌は独学なんでしょうか?

ソングライティングは先生に習ったけど、歌は……もともと本当に下手で、基本的には独学で身につけていったんだ。

──特に影響を受けたシンガーは誰ですか?

例えばミゲル(Miguel)の『Wildheart』からは、声帯を絞ってザラついた質感を出す歌い方を学んだよ。あのアルバムにはすごくインスパイアされた。それにミッドレンジの声の出し方は、フランク・オーシャン(Frank Ocean)にとても影響を受けている。彼の中域の温かさや音色は、すごく参考にしているね。

それからファルセットのキングたち──マクスウェル(Maxwell)、ディアンジェロ(D’Angelo)、ほかにもたくさんいるけど……。オーストラリアではジョン・ファーナム(John Farnham)をたくさん聴いて育った。彼はオーストラリア史上最高のボーカリストだよ。ロックがベースだけど、リトル・リバー・バンド(Little River Band)というソウルバンドのリードをしていた時期もある。彼の歌は素晴らしいよ。

あとはスミノ(Smino)みたいに、声を操って、同じ人物なのに違うトーンやキャラクターを持たせること。それもすごく表現的で、楽しい部分だね。

BOY SODA──「テイストがすべてに勝る」音楽、ルーツ、ファッションから紐解く現在地 boysoda_interview_03

──親族からR&Bを教えてもらったという話がありましたが、『SOULSTAR』の“A Father’s Heart”では、サモア人であるお父様について歌っています。あなたにとってサモア系のルーツは、どのような意味を持つのでしょうか?

その曲を書いたのは、僕自身がサモアの文化に近づいていく旅の途中にいるからなんだ。サモア文化の中に埋め込まれているのに、まだアクセスできていない自分自身について、学ぶことがたくさんあるのを知っているからね。今まさに、少しずつアクセスし始めたところなんだけれど、これは終わりのない自己探求だと思う。

僕とサモア文化との今のつながりは、ある意味、切り離された世代のもので、僕の役割は、その関係性を改めて築いていくことだと思っているんだ。

──サモア系というアイデンティティは、音楽とどうつながっているのでしょう?

音楽もアイデンティティの大きな一部なんだ。僕たちの文化には語り継がれていくものが多くて、すごく音楽的だし、教会にも深く根ざしている。友達の多くは教会で演奏しながら育っていて、そのおかげで本当に素晴らしい腕前なんだよ。

それに、コミュニティという感覚がサモア文化や家族の中に深く流れていて、その中でみんなが演奏するし、音楽をシェアする。それってすごく“サモア的”なことなんだ。

──移民のコミュニティが重要な役割を果たしているんですね。

多文化的なオーストラリアの背骨だよ。ある意味、僕らはみんな訪問者(Visitor)なんだ。

──コミュニティという意味では、近年、パニア(PANIA)やベッカ・ハッチ(Becca Hatch)、マイナ・ドウ(Maina Doe)、フォレスト・クローデット(Forest Claudette)など、オーストラリアから新しい世代のR&Bアーティストが次々と出てきています。あなた自身もその流れの一部だと感じていますか? オーストラリアのR&Bに今、独自のアイデンティティが生まれつつあるのでしょうか。

もちろんだよ。挙げてくれた名前はみんな地元の友達なんだ。僕らの世代はすごく恵まれていると思う。多くの人の親世代がオーストラリアに移民してきて、すごく頑張ってくれたから、第二世代の僕らにはやってみて学ぶ機会が与えられた。その結果、今はいろいろなバックグラウンドを持つ人たちが存在感を示して、音楽を作っている。

オーストラリアは文化のるつぼで、世界中からたくさんの情報が入ってくる。でも、それをただ受け取るだけじゃなくて、ここで生まれた固有の物語として曲へと流し込まれていく。それがオーストラリアならではのものだと思う。

そして今は、僕らに似た人がスーパースターになって、テレビに出たり、広告やブランドに起用されたりするようになった。オーストラリアのクリエイティブはずっと侮られてきたけど、もう違うんだ。

──オーストラリアのシーンで、ほかにも紹介したいアーティストはいますか?

ヤスミナ・サディキ(Yasmina Sadiki)は素晴らしいボーカリストだよ。ルビー・ジャクソン(Ruby Jackson)は、シドニーでお気に入りのソングライター。他にもたくさんいるんだけど、パッと思いつくのはそのくらいかな。

壁の向こう側に、
日本のSUMMER SONICで演奏する自分がいた

BOY SODA──「テイストがすべてに勝る」音楽、ルーツ、ファッションから紐解く現在地 boysoda_interview_04-1-scaled

──今は世界へ活動を広げていますが、ここまでのキャリアで行き詰まりを感じたこともありましたか?

もちろん壁を感じることはあるよ。何かを学び始めた頃は急速に成長するけど、やがて停滞する。それはどんなプロセスでも起こることだ。曲作りなら、正しい言葉が見つからなかったり、フックが決まらなかったりね。そういう行き詰まりは何度経験しても、別に簡単になるわけじゃない。ただ、その壁を越えた先には素晴らしいものがあると知ることはできる。それはすごく大事だと思う。

すべてを成し遂げようとして、昼間は働いて、いつも疲れて苛立って、「なぜ何も変化が起きないんだ」と悩んでいた時期が僕にもあった。でも、そのときの僕には見えていなかった壁の向こう側に、日本のSUMMER SONICで演奏している自分がいたんだ。約1万人の前で30分もライブをするという、これまでで最大クラスの非現実的な体験がね。

もちろん、当時はそんな未来が待っているなんて知る術はなかった。もし壁の向こうにそれがあると知っていたら、もっと楽だっただろうね。

──今ではオーストラリアだけでなく、世界各地で演奏する機会も増えています。「オーストラリアのアーティスト」として世界で見られることについては、どう感じていますか?

とても幸運だと思う。夢見てきた人生だからね。昔は手が届かないと思っていた分、今こうしていること自体が奇跡のように感じるよ。

でも一方で、ずっと「なぜ僕じゃだめなんだ?」という気持ちもある。僕はサモアン・オーストラリアンで、アメリカや日本のような市場からは遠い。でも、可能性は無限にあると思っている。もし本気で望むなら、宇宙飛行士になる方法だって学べるし、本を書きたいなら書ける。すべては可能で、毎日を積み重ねることでそこに近づいていける。僕自身、そうやって日々を積み重ねてきたしね。

そうやって僕や地元のアーティストたちが世界に出ていくことで、僕らに似た子どもたちにも何かを示せると思うんだ。彼らは「アーティストなんて本当の仕事じゃない」と思っているかもしれない。

国際的に評価されることは、自分たちがやってきたことへの大きな肯定であり、一つの証明でもある。それを見た地元の人たちにも、自分の価値や、やりたいことをもっと強く信じてほしいんだ。僕たちにもできるんだってね。

──自分と似た人たちを代表するという意識は、活動するなかで自然に生まれてきたものなんでしょうか?

それはこうしたキャリアの副産物だと思う。それ自体を仕事の一部だとは考えていないし、そこを優先してしまったら、アートに反映されるものも違ってしまう。優先すべきなのは別のところにあるからね。僕はただ努力して、僕のような人があまりいない場所へ勇気を持って踏み込んでいく。そうすることで、結果としてそういう役割が生まれているだけなんだ。自分の背後に素晴らしい支えがあることもわかっているし、誰かを代表することが持つ力も理解しているよ。

BOY SODA──「テイストがすべてに勝る」音楽、ルーツ、ファッションから紐解く現在地 boysoda_interview_05-scaled

──ファッションもBOY SODAというアーティストの重要な要素ですよね?

僕にはずっと自分探しの旅をしているような感覚があるんだ。それはファッションも同じで。カメラロールを遡れば、ひどいフィットも、犯罪級のフィットもある。でも、それは全部プロセスの証拠なんだ。

あと自分をどう装うかは、自尊心と、好きな色や質感に関係している。音楽が好きなのと同じようにね。他者の耳をキュレートするなら、自分の身体に着せる服も、自分がいる部屋も、すべてをキュレートすべきだと思う。学校ではノートにずっとドローイングをしていたし、靴にも描いていた。今は、自分自身に描いている感じだね。

──今日のファッションのポイントは?

Vibramの五本指シューズだね。日本に来て買ったんだ。このキャップもそうで(「福」とプリントされたキャップを指して)ラッキーという意味なんだよね。買ってから教えてもらったんだけど、変な意味じゃなくてよかったよ。日本のデニムは本当に良いから、赤耳デニムも買いたいな。

──ありがとうございます。あなたの考えがよくわかりました。次に日本へ戻ってきたら、すでにやりたいことは決まっていますか?

まだ温泉に行ったことがないから、温泉に行きたいよ。それに大阪は美しかったけど、滞在が短かったから、戻ってのんびりしたいな。あと、新幹線にも乗りたい。今回は荷物が多すぎて、大阪から東京に来るのも飛行機だったからね。
日本のみんな、今回は本当に最高のショーをする機会を与えてくれてありがとう。あと100回演奏したいよ。

BOY SODA──「テイストがすべてに勝る」音楽、ルーツ、ファッションから紐解く現在地 boysoda_interview_06

Interview&Text Daiki Takaku
Photo by Kana Tarumi
Edit by Sanae Akechi

PROFILE

アーティスト名

BOY SODA

オーストラリア出身のシンガー・ソングライター。現代R&Bシーンにおける革新的なアーティストであり、ライブへの強いこだわりと、揺るぎないクリエイティブ・センスを武器に急速な躍進を遂げているシンガーソングライター。
2025年1月にリリースした「Lil' Obsession」がバイラルヒットを記録し、Muni LongやAmbréらからも支持を獲得。一気に“知る人ぞ知る存在”から、世界が注目する新鋭アーティストへとその存在感を広げた。さらに、2025年のオーストラリア・ARIA Awardsでは「Best Soul/R&B Release」を受賞。
デビュー・アルバム『SOULSTAR』では、その卓越した音楽性と表現力を証明し、同世代アーティストの中でも一歩先を行くサウンドで高い評価を獲得した。今年は『SOULSTAR Deluxe』のリリースに加え、日本最大級の音楽フェス「Summer Sonic」への初出演、さらにはUSヘッドラインツアーも控えており、オーストラリア発・最注目の新世代R&Bアーティストとして、世界的な飛躍を遂げようとしている。

RELEASE INFORMATION

Chase Your Tail

日時 2026.04.24 Release
品番 827568003348

RELEASE INFORMATION

SOULSTAR

日時 2025.10.03 Release