ブラジルの「Bruma Festival」、ルーマニアの「Waha Festival」、ポルトガルの「Waking Life」といった海外フェスへの出演や、パリのレコードショップ「Yoyaku Records」でのインストアDJが話題を呼ぶなど、世界各地を飛び回るQue Sakamoto。特定の拠点を持たず、常に移動しながら活動を続ける彼は、現在もツアーの真っ只中にいる。自由な生き方に憧れを抱く一方で、順風満帆に見えるその歩みは、決して平坦なものではなかったという。

今年8月、ベルリンの「Kimchi Records」で再会を果たしたことをきっかけに、長年の空白を埋めるように、これまでの活動から現在に至るまで話を聞いた。本インタビューでは、新作EP「Bruma」の制作背景をはじめ、洗礼を受けたブラジル、人生の転機となった海外での経験など、Que Sakamotoの軌跡と“今”に迫る。

 

Paulo Santosの生音を生かした
オーガニックでオリエンタルな4曲

スピリチュアルな日本人スピリットで世界を廻るQue Sakamoto kana-miyazawa_quesakamoto_01-scaled
「Kimchi Records」

今年8月、ベルリンのノイケルン地区にあるレコードショップ「Kimchi Records」で、インストアイベントが開催された。これは、同店が新たに立ち上げたサブレーベル「Planet Mushroom」の第1弾EPとして、Que SakamotoとNTことNoriyuki Takagiによる共作「Bruma」がリリースされたことを記念するものだ。

スピリチュアルな日本人スピリットで世界を廻るQue Sakamoto kana-miyazawa_quesakamoto_02-scaled-e1791948870211
Que Sakamoto(左)、NT(右)

フィーチャリングには、ブラジルを代表する実験音楽グループUaktiのメンバーとしても知られるマルチインストゥルメンタリスト、パーカッショニストのPaulo Santosを迎えている。独自に開発した創作楽器で演奏することで知られており、本作でも生音をそのまま生かし、フィールド・レコーディングと組み合わせた浮遊感漂う瞑想的な作品に仕上がっている。

“クラブミュージックではなく、自然と大地が結びつくような、オーガニックでオリエンタルな曲を作りたかった”とSakamotoは語る。

「Paulo が演奏した音源をそのまま生かしたオーガニックでオリエンタルな楽曲にしたいという思いがありました。最初の段階からパートナーのNTにも、クラブミュージックではない作品にしたいと相談していました。神秘、自然、愛、絆をしっかりと感じられる、自然や大地とつながるような4曲を制作することにしたんです。8月のリリース以来、Jane FitzやMarco Shuttleをはじめ、さまざまなアーティストから好意的なフィードバックをもらえて、とても光栄です。今年のDEKMANTELでも、早速Kondukuがプレイしてくれました。Kondukuとは『Waking Life』で出会いましたが、こうしたサポートも嬉しいですね。」

本作のリリースを機に、新たなサブレーベル「Planet Mushroom」を立ち上げた背景について、「Kimchi Records」のオーナー兼DJのKim Bruunは次のように語る。

スピリチュアルな日本人スピリットで世界を廻るQue Sakamoto kana-miyazawa_quesakamoto_03
「Kimchi Records」オーナー兼DJ、Kim Bruun

「『Bruma』は、クラブでプレイできるディープなエレクトロニック・サウンドを軸にしながらも、よりオーガニックな作品に仕上がりました。Que Sakamoto、NT、そしてPaulo Santosとともに制作を進めるなかで、これまでレーベルとして築いてきたアイデンティティにとらわれず、異なるサウンドやエネルギー、方向性を探求できると感じたんです。新たな枝分かれとなるレーベルを立ち上げるには、絶好のタイミングでした。そうして生まれたのが、新レーベル『Planet Mushroom』です。

Sakamotoとは長い付き合いで、本当に親しい友人でもあります。彼はとてもspontaneous(自由で自然体)な人で、独特の魂を持っています。それがアーティストとしての個性的なサウンドやアイデンティティに自然とつながっていて、音楽へのアプローチも非常に本能的です。だからこそ、彼の作品はとても興味深いのだと思います。SakamotoやNTと一緒に仕事ができたことは本当に楽しかったですし、このプロジェクトを通して、3人の感性がとても自然に結びついていくのを見られたことを嬉しく思います」

本作は、密度の高いジャングルのような音のテクスチャーに、荒々しいブレイクビートのエネルギーと温かみのあるハウス・グルーヴを融合させ、オーガニックなパーカッションや反復するリズムパターンが瞑想的でスピリチュアルな世界に引き込まれる。ダンスフロアでの躍動感と内省的な余白を併せ持ち、既存の枠にとらわれない「Planet Mushroom」の新たな方向性を示す作品だ。

人生を変えた海外フェスの存在

Que Sakamotoの名前をヨーロッパで耳にしたのは、かなり前のことで、媒体名は忘れてしまったが、海外ツアーについて執筆した記事が印象に残っている。アーティストならではのあふれる個性と、現場のリアルな空気が伝わってくる内容だった。近年はブラジルでの活躍も目立ち、海外で着実に実績とキャリアを積み重ねていると思っていた。しかし、コロナ禍に加え、所属エージェンシーを離れてセルフマネジメントに切り替えるなど、苦しい時期も経験してきたという。

スピリチュアルな日本人スピリットで世界を廻るQue Sakamoto kana-miyazawa_quesakamoto_04
Jane Fitz(左)

「2022年からブラジルのリオデジャネイロで開催されていた『Bruma Festival』に、Jane Fitz、DJ Ram、BFDM(Oko DJ / Simo Cell / Judaah)とともにヘッドライナーとして出演させてもらいました。日本人は自分ひとりでしたが、竹林に囲まれた山奥の幻想的なステージで、Jane Fitzとの10時間にわたるクロージングセットを経験しました。あの時の感動は、今でも心に深く刻まれています。

この経験をきっかけに、オーガニックなトランスやテクノ、ダブ、ブレイクビーツ、ダブステップへの興味がさらに深まり、自分の音楽にも取り入れるようになりました。ブラジルと日本の要素を融合させた音楽を作りたいと思うようになったのも、『Bruma Festival』がきっかけです。ブラジルの人たちは、みんなオープンマインド。ユニークで温かく、バイブスもものすごい。かけがえのない経験をさせてもらいました。

翌年にも出演しましたが、その時に初めてPaulo Santosのライブを観て衝撃を受けました。そこから生まれた縁が、今回の『Bruma』のリリースに繋がっています。」

昨年には、ポルトガルの「Waking Life」にも初出演を果たした。アレンテージョ地方の町、クラトの湖畔で毎年6月に開催される同フェスティバルは、近年、国際的な注目を集めているが、Sakamotoにとって、人生の転機となったフェスだという。

「2023年、2024年と2年連続で出演し、2024年にはクロージングを努めたルーマニアの「Waha Festival」も転機をくれたフェスですが、2024年のステージマネージャーのEllenが『Waking Life』のブッキング担当だったことをあとから知りました。その時のプレイが目に止まり、翌年の『Waking Life』出演に繋がりました。それを機にブッキングのオファーが増え始め、以前から目標にしていたギグも実現するようになりました。だから、自分にとって『Waking Life』は人生を変えてくれたフェスであり、感謝しかありません。Jane FitzのあとRhadooの前というタイムテーブルでしたが『Bruma Festival』から『Waha Festival』へと続いてきた縁や愛が、ドラマチックに繋がっていくようで、なぜか導かれているような感覚がありました。音楽人生ってドラマだな、と思いましたね。2人は自分にとって神のような存在ですし、『Waha Festival』でのRhadooのクロージングセットは衝撃的で忘れられない経験になりました。」

様々なアーティストとの出会いから受ける影響

フェスに出演する度に、次なるフェーズへと進むチャンスを得ているが、同時に、先述したような様々なアーティストとの出会い、そして、多大なる影響を受けていると語るSakamoto。

「海外だけでなく、日本でも貴重な出会いを経験しています。UK拠点のDesynとは彼がWombに初出演した時に出会いました。その後、Desyn,Omid 16B,DemiのSOS CollectiveとしてWombのカウントダウンにも出演した時に更に仲良くなり、沢山の音源をもらったり、マイアミのWMCにも一緒に行きました。彼はヴァイナルオンリーのDJですが、常に進化しています。いろんな音楽を教えてもらい、今でも勉強させてもらってます。」

「Bruma Festival」で出会ったMarco Shuttleのテクノは独自のスタイルで個性的ですし、KondukuとはInstagramで繋がって、今年の「Waking Life」で直接会うことができました。ベルリン拠点のYoshitacaとKatsuya Sanoの2人も絶対欠かせないですね。CD-Jからヴァイナルでプレイするようになったのも2人のアドバイスがあったからです。Yoshitacaのレーベル「Phonik」からは、NTとの共作でHoodoo Fushimiをフィーチャリングに迎えたEP「Biwauta」をリリースしています。常に良きクルーとして、お互い高め合える仲間ですし、「Kimchi Records」のKimを紹介してくれたのも2人です。

Sakamotoにとって、ベルリンは世界中のDJを肌で感じられて、質の高いパーティーが数多く開催されている音楽天国のような街という印象だという。一方で、コロナ禍以降、経営不振、ジェントリフィケーションによる家賃の高騰や立ち退き、戦争に伴うエネルギー価格の上昇など、多大な影響を受けている。2019年に「Kimchi Records」を設立する以前からレコードショップ「Bikini Wax」を運営し、DJとしても長年ベルリンを拠点に活動してきたKimは、こうした変化をどのように感じているのだろうか。

「もうかなり長い間ベルリンにいます。この街とクラブシーンが変化していくのを見てきましたが、僕は昔から、変化することは悪いことではなく、むしろ良いことだと思っています。もちろん、自分が好きだったクラブやイベントスペースが次々と閉鎖していくのを見るのは寂しいですし、街自体もかなり変わりました。でも、ベルリンはこれまでも常に、新しいサウンドや新しい潮流を生み出し、それを形にしていく方法を見つけてきました。それは、これからも変わらないと思っています。ベルリンを特別な街にしてきたアンダーグラウンドカルチャーと自由な精神が、これからもずっと残っていくことを願っています。」

スピリチュアルな日本人スピリットで世界を廻るQue Sakamoto kana-miyazawa_quesakamoto_05-scaled-e1791948987307
「Kimchi Records」

日本人として世界の舞台に立ち続けるために

多様なエレクトロニック・ミュージックをベースに、ヴィンテージ機材や楽器を取り入れたオーガニックなサウンドを得意とするSakamotoは、日本人アーティストであることを常に意識しているという。訪れる国ごとに、その場のオーディエンスの雰囲気に合わせて、ディスコ、ガラージ、ダブ、トランス、エクスペリメンタル、ブレイクビートなどを自在に組み合わせていく。予測不可能なプレイは、時に奇妙でありながら、気づけば深い音楽の世界へと引き込まれている。

「日本人として、日本の音楽と文化を世界に伝えたいといつも思っています。いろいろな国でDJをしてきましたが、日本に興味を持っている人は本当に多いです。だから、もっと日本のテイストを感じられる音楽を届けることで、日本にさらに興味を持ってもらいたいと思いながらプレイしています。楽曲に関しても同じですね。
海外で活動するには、リリースを重ねることや、誰もが知っているフェスやクラブでベストなプレイをすることはもちろん大事ですが、そう簡単に理想的なブッキングはもらえません。だから、自分に負けず、自分の目標や夢に向かっていくために、常にアクションを起こすことがとても重要です。これが正解かどうかも分からないし、自分が言える立場にないとも思っています。常に不安と戦いながら、活動し続けています。
世界中のクラブで日本のダンスミュージックが聴けるようになることを目標に、パートナーのNTとともに、世界に向けた音楽をリリースしていきたいです。心から感動した世界各地のアーティストともコラボレーションしたいですね。あと、これはかなり大きな夢ですが、ブラジルのバイーアに家を建てたいです。」

10月には、ニューヨークのThe Lot Radioを皮切りにUSツアー、その後、イギリスを周り、そして、11月には、オーストラリアにて「SUB SONIC Festival 2026」を含む3つのフェスへの出演が決まっている。

Interview & Text by 宮沢香奈y

PROFILE

Que Sakamoto

アーティスト名

Que Sakamoto

東京出身。境界のない電子音楽を紡ぐアーティスト。ジャンルの垣根を軽やかに越えながら、エクレクティックで有機的なサウンドスケープを描き出す。作品の核となるのは、Kimchi Recordsの新レーベル「Planet Mushroom」。ブラジルの音楽集団Uaktiのパウロ・サントスを迎えた「Bruma EP」、そして自らが敬愛する80年代エレクトロファンクのアーティストHoodoo Fushimiとの共演を果たした『Biwa Uta EP』(Yoyaku / Phonik)——世代も国境も超えたコラボレーションを通じて、自身のルーツと現在地を静かに交差させている。Cartulis 15周年記念コンピレーションに寄せた「Kokowadoko」もまた、高い評価を集めた一曲。2025年、ブラジル、ポルトガルのWaking Lifeフェスティバルへの出演、そしてパリのYoyaku Record Storeでのインストアセッションが大きな反響を呼んだ。2026年はブラジル、リオのカーニバルのBug PixelでJane Fitzと共演、ブリュッセルのKiosk Radio × Crevette Records Open Airへ。フロアからフロアへ、彼のサウンドは旅を続けている。