――東陽一監督の作品『やさしいにっぽん人』(71年)挿入歌で緑魔子さんの歌った“やさしいにっぽん人”は渡邊浩一郎(ウルトラ・ビデ、マヘル・シャラル・ハシュ・バズ)さんも憧れていた女優さんとのことですが。
あの当時、女性でアンダーグラウンドに理解のあるアーティストやミュージシャンはほとんどいなかったんですよ。せいぜい海外だったらニコとか日本だったら森田童子や山崎ハコくらいで。その中でも緑魔子さんは僕らの中でもカルトスターであって、特にTVドラマの『傷だらけの天使』に出ていた時の印象が強烈でして、後追いで歌を歌っているのを知りまして。あの頃「guts」というフォークの雑誌があって、そこに“やさしいにっぽん人”のコード譜と映画のワンシーンの写真が載っててそれを切り取りファイルの下敷きの中に入れたりして(笑)。後に浩一郎くんと出会ってウルトラ・ビデを結成するにあたって、彼が緑魔子をすごく好きだったのでそのファイルをプレゼントしたらもの凄く喜んでくれたんですよね。
初音ミクも女性ですので、女の子ボーカルの曲を今回はやろうと思ってたんですよ。今の人に分かりやすいのは椎名林檎や戸川純かも知れないけど、もう一つルーツではある緑魔子を持って来たんですね。
――この曲は昨年の11月に〈テイチク〉からリリースされたJOJOさんの2枚組ベスト『死神に出会う時のように~JOJO’S WORLD~』に日野繭子さんとの共演でも収録されていますね。
そうですね。ベスト盤に収録した時は今回の『初音階段』の曲は上がっていなかったので予定していたわけではないんですけどね。あれも日野繭子さんとレコーディングが出来るということで僕の中では夢叶ったりですよね。この曲の“あなたが歌と思っているものはやっぱり歌かも知れない”という歌詞も良いじゃないですか。初音ミクというものに関して色んな意見を持ってるわけですよ。むしろ否定的な意見もあるわけで、それに対して一つの答えのような歌詞だなと思うんです。どんなに批難しようが、どんなに面白いと思おうが、けっきょく歌なのでそこは覆せない。この曲の根本はちっとも揺らがないんです。そういう意味でもこの曲を選んで良かったと思ってます。
――JOJOさんは以前にも、沢口みき、DOODLES、とうめいロボ、オムニバス『日曜日のうた』、その中に収録されているSHIHOなど、沢山の女性アーティストをプロデュースされてきていますし、ご自身でも所謂「歌もの」もお好きでいらっしゃると思いますが、そもそもノイズという音楽と比較した時に「歌もの」というのは対極に位置するものとして存在しますが、そういった趣味と実働のバランスはどうして取られているのでしょうか?
渚にての雅子ちゃんに「広重くんがプロデュースしたり良いと言ってる音楽って全然変わらへんなぁ」とか「趣味が全く変わらへんから呆れるわぁ」って言われたことがあるですよ(笑)。僕の中で基本ラインは変わらないんですよ。儚げで暗くて透き通るような声で壊れそうな、でも力強いというのはルーツであり根っこの部分は変わってない。そうした自分の一番正しいと思っているラインに引っかかってくる若い人達を順番にプロデュースしている形ですね。先程の話でもありましたけど、そういった音楽とノイズは相性が良いと思っているので、僕の中では違和感はないんですよね。今でも毎日ほとんど同じような音楽、70年代に聴いてたプログレとかばっかり聴いてるんですよ。家で全然ノイズなんか聴いてない(笑)。占いの店で流しているBGMもテリー・ライリーとブライアン・イーノとタンジェリン・ドリームと…5年位ずっと一緒(笑)。
――じゃがたらの“タンゴ”のカバーですが、この際、初音ミクは置いといて非常階段がじゃがたらのカバーをするということが凄く嬉しいと言いますか、それだけでも十分に意義があると言いますか、この曲の為だけでも買って損はないと断言できます。
『君と踊りあかそう日の出を見るまで』(85年)に入っている精神病院に入る直前の“タンゴ”のテイクがすごく好きで、僕自身ソロのライヴであの語りも入っているテイクのまんまカバーしていた時期があったんですよ。曲が長いのと内容も重いのでJOJO広重がやる中では異色になってしまうので今はレパートリーからは外していますけど、もし今後『初音階段』の続編があるのであれば、あのバージョンでやりたいとは思いますね。あとは世の中的に復刻が進んでいる中で、じゃがたらはあまり評価されていないというか出てきていないので、ここで一つスポットがあってもよいかなという気持ちもあって。
――“不完全な絵画”では初音ミクによるポエトリーリーディングから、じわじわと侵食し、最終的にはノイズに吸収してしまうという展開。そしてラストの“hatsune-kaidan”に続いていく流れが圧巻でしたが、この2曲はJOJOさんの中で連続しているものでしょうか?
今回は非常階段starring初音ミクということもあり、まず最初に連想したところで女性がボーカルで入るプログレッシブロックというとアシュ・ラ・テンペルの『Starring Rosi』(73年)。ポエトリーリーディングという観点でいうとアシュ・ラ・テンペルの『Join Inn』(73年)にロジ・ミュラーが静かなシンセサイザーの音の洪水の上で詩を朗読する曲があるんですよ。今回ノイズの中で女性が詩を朗読しているのはその再現ですね。あの歌詞は十代の頃、それこそアシュ・ラ・テンペルを一生懸命聴いていた頃に書いたもので、70年代のイメージを持ち込めたらなと思って。
ジャケットの初音ミクの後ろに水玉模様があるんですけど『Starring Rosi』も丸い絵柄がデザインされているジャケットなので、ちょうどいいなぁと思って。あとはTVドラマの『怪奇大作戦』シリーズの中に「恐怖の電話」という話があって、桜井浩子が電話をかけている時に変な周波音がして父親が死んでしまうんですけど、それを確かめる為に岸田森が桜井浩子に「こんな音ですか!?」キュィーン! 「この音ですか?」キュィーン! と無響室のようなところでマッドサイエンティストばりに聞かせまくるシーンがあって、そんな小学生の時に見たトラウマも今回のジャケットやサウンドのイメージになっていて非常に満足してます(笑)。
――凄まじいですね(笑)。今回の企画自体もそうですが全てにおいてコンセプチュアルな作品になっているとは。
もう一瞬で思い付くんですよね。引き出しがたくさんあるのでやりたいことは一杯あって、思い付いているのは10代の頃なんですけど今なら大人のイタズラというか大人買いみたいなもんですよ。
――以前のインタビューやご自身のtwitterでも「今のCD業界を支えているのはアイドルとアニメとボーカロイドで、そのお陰で日本は世界で一番CDが売れている国なわけだから胸を張っていいことだし、それを否定してどうする」と発言されていたのを見て、レコードショップで働く自分にとって凄く響く言葉でしたし、同時にその柔軟な姿勢の根源はどこから来るものなのかなと?
元々根源的な部分は社会的なことに対して思うところがあるということですよね。例えば自殺者が3万人切って本当に良かったという話がありますけど、逆に言えば今まで毎年3万人出るような国だったということですよね。それって心の弱い人達を間違っているとか否定して切り捨ててきた罪だと思うんです。その中で辞めていった人も20代前半で散々見てたし、そういうマイノリティが切り捨てられていくのは耐えられない。僕達が正しいと思っている音楽だって世の中から見たらゴミみたいな音楽かもしれないけど、せめて記録は残していきたいという思いもあって〈アルケミーレコード〉を作った経緯もありますし。
社会全体から見れば、オタク文化やノイズやライブハウス、はっきり言えばレコード屋さんだって無くなってもダウンロードすれば困らない。でも僕らは違うじゃないですか。小さいところに価値や喜びを見つけて今まできたわけじゃないですか。それを否定されるのは堪らないし、抗いたいですね。いわゆるマイノリティが僕ら側だとすればそこは守っていきたいと思うし、間違っていない。君達がもし一言も言えないようだったら僕が代わりに言うよ、なぜなら30年間やってきているから、と。ここまで来たら政治家になりたいですよ(笑)。さすがにリーマンショック以降減りましたけど、それでも海外は文化や音楽に対して国の助成金はケタ違いですし日本はそこが厳しいですよね。そもそも子供が芸術家や音楽家を目指すと言ったら親は反対するでしょう。貧しい家庭だったり親が離婚しているとかそういった環境からしかアーティストが出てこない現状の中から先鋭的な人達が出てきて欲しいなと思うし。こんなに面白いミュージシャン人生なかなかないよというのはもっともっと示していく必要があると思いますね。そうなれば若い子達の気持ちが豊かになっていくし、自殺者も減っていくんじゃないかなと。僕なんかは突拍子もないことやったり、アホだなぁと思うようなことをやっていく役割だと思いますし、それで皆さんに元気になってもらえれば。
――ここ最近ですと<東京BOREDOM>に参加されていたり、若い世代のミュージシャンとの交流が活発ですが、そのオープンな姿勢も含めてJOJOさんの空気感が周りを呼びこんでいるんでしょうね。
若い子達がやってることの方が圧倒的に面白いんですよ。もちろん未熟な部分もあるけれども、可能性をすごく感じるし、逆に僕らも負けてられないと思うし刺激は受けますよ。僕らや僕達の先輩の影響を明らかに受けている子達からまた一緒にやってくださいと言われるのはすごく嬉しいですし。そうじゃないと遅れていくんですよね。今何が起こっているのか、知らない世界を知りたいと思うし、広く深く知りたいと思いますしね。この前もツイート見てたら「オレの股間は大王イカ」とか瞬間に思い付いてる若い子の才能最高やなとか思うわけですよ(笑)。思わずリツイートしかけたけど、せっかく増えたフォロワーが減ってしまうと思いとどまったんですけど(笑)。
――最後に『初音階段』のレコ発ライブが2月2日(土)秋葉原GOODMANで開催されますが、一体どのようなライブになるのでしょうか。
基本的に『初音階段』発売記念の非常階段ワンマン・ライブになるんですけど、実は東京で非常階段のワンマンはやったことがないんですね。去年、非常階段featuring坂田明を出したんですけど、あれがここ10年位の間で僕らの中では最高傑作だと思っていて、こんな音楽は世界のどこ探してもないと自信を持って言えます。それをライブで再現したいと思っていて、本当はそれがメインなんですよ。ただ『初音階段』が直近でリリースとなったので、じゃあ場所は秋葉原だろうと。内容は『初音階段』を全編でやるわけではなく、セッションもやり、非常階段featuring坂田明をやるという形です。坂田さんにカツラ被せたらどうかとか、メンバー全員がカツラ被ったらぐうの音も出ないだろうとか(笑)色々考えてますけど、この前初めてまんだらけに行って取りあえず1セットだけ衣装を購入しました(笑)。初音ミクは登場しますのでお楽しみに。
interview&text by 南 友和[ディスクユニオン]
all photo by 横山マサト
Event Information
「初音階段」発売記念・非常階段ワンマンライブ
2013.02.02(土)@秋葉原GOODMAN
OPEN 18:30/START 19:00
ADV ¥2,500/DOOR ¥3,000(共に1ドリンク別)
LINE UP:非常階段
GUEST:坂田明、白波多カミン
TICKET
ローソン(Lコード:73098)、クラブグッドマン(メール予約)
Release Information
Now on sale! Artist:非常階段starring初音ミク Title:初音階段(はつねかいだん) U-Rythmix/YOUTH INC. URMX-017 ¥2,300(tax incl.) Track List ※ジャケット画師:haji |