――プロデューサーにニック・ローネイを起用した理由は?
彼が僕らとやることを強く希望してくれたんだ。ベンも僕もサムも――アレックスはまだその時点ではいなかったんだが――これまで一度も仕事をしたことがない誰かにプロデュースを頼みたいということで意見が一致したんだ。最初はスプーンのプロデューサーだったマイク・マッカーシーに声をかけることを考えていたんだが、やはり新しいスタートが切るべきだと思ったんだ。なんといってもニックの経歴が素晴らしくて! でも相手はニック・ケイヴやアーケイド・ファイアとかビッグな人達ばかりを手掛けてきている。僕らみたいなどこの馬の骨ともわからぬ、売れるかもわからない新人をプロデュースしたいなんて、思ってくれるとは想像してなかった。それでもデモを送ったところ、すごく気に入ってくれて、ぜひやりたいと熱望してくれたんだ。ニックからのそんな熱い気持ち、そして彼がこれまで手掛けたレコードがどれも僕らの大好きなレコードだったということ。その2つの理由さ。
――そのニックがプロデュースしたバースデー・パーティのローランド・S・ハワードの “Shivers”のカバーが収録されていますよね。
まったくの偶然だったんだよ。“Shivers”はバンドが出来た最初の週にはカバーしていた。ニック・ローネイのことを知ったのは、もっとあとのことだ。奇妙な偶然だ。
――あれを選んだのはなぜ?
僕が好きだったんだ。他にも何曲かある候補の中で、あの曲だけがうまく行ったんだ。カバーって不思議なもので、カバーしたい名曲、すごい曲は世の中にはいっぱいあるけれど、なんらかの理由で出来ないことってあるんだよ。曲が有名すぎるとか、自分達なりの解釈でアレンジすることが許されないというか。でも“Shivers”は自分達のアレンジを加えることが可能だったんだ。雰囲気はオリジナルとはかなり違う感じになっていると思う。でもだからこそ、僕らしいヴォーカルで歌うことも出来る曲だったんだ。でもなんといっても素晴らしい曲だから、選んだというのが一番の理由だよ。(ローランド・S・ハワードが)16歳であの歌詞を書いただなんて、信じられないよね。
――今後予定しているカバー曲のリストはありますか?
まだわからないけどいろいろやりたいよ。ライヴではしばらくローリング・ストーンズの“Sway”とか、フランク・オーシャンの“Lost”とか、ワイパーの曲とかトム・ペティとかをカバーしているよ。
――ちなみに、レコーディングの現場ではサウンドに関してメンバーの間でどんな会話がやり取りされていたのでしょうか? レコーディングで印象に残っているエピソードなどはありますか?
う~ん、ちょっと考えさせて。(考える)特にこれという会話は思い出せないんだけど、しょっちゅうジョークばかり言い合ってたことは覚えているよ。ただひとつ気に留めていたのは「オーガニックでありたい」ということかな。というか、当初、僕たちが目指していたんだろうとニックが予想していたものよりも、実際はオーガニックなサウンドを目指すようになっていたんだ。というのも、シンセベースラインを使ったり、ドラムマシンで書いた曲は多くあって、ヒューマンなサウンドの楽器や要素が排除される道を選ぶのがある意味、楽だったわけだ。でもそうではないものにしたい、ということだけはこだわって、ニックにも伝えるようにしていたよ。
――曲ごとにあなたとダンの作家性というかカラーがきれいに別れたかたちで打ち出されている印象を受けますが、一方で“What Gets You Alone”や“Would That Not Be Nice”は、ふたりの個性が絶妙に混じり合ったナンバーという印象を受けました。いかがでしょうか?
うん、そうだね。うまくブレンドしていると思う。当然、僕らは違う個性を持っているわけで、そんな初めてやる相手とちゃんとしたバンドを組んで落ち着くのって怖くない? とか聞かれることもあるけど、答えはノー! だよ。ダンの声も好きだし、彼の書く曲も好きだし。すごくいいアルバムが出来た、って自分でも思っているよ。
――ちなみに、プレスシートによればアルバムのテーマは「真実の愛の死、ヒッチハイク、感情的な距離……」と、一種のロードムービー的な光景を想像させるものでしたが。あれはレーベルが書いたものなのか、翻訳されたものなのかはわからないんですが・・・
ああ、あれね。あの部分は僕ら自身で書いたんだよ。レコードを売ってくれる人達に、僕らの音楽を「言葉で」説明しなきゃならないわけだから。ちょっとだけファニーな感じで書いてみたんだ。でも案外、そう的外れでもないんだよ。「真実の愛の終わり」を歌った曲も実際にあるし。でも僕自身は最初から「これはどういうアルバムだ」と分かっているわけじゃないし、「こういうアルバムにしたいからこういう曲を書く」ということはないんだ。ただ、その時は曲を書くだけ。書き終えたあとで、「この曲も、この曲も、こういうことを歌っている曲だったな」「ということは、もしかすると、これがテーマだったのかな」と自分自身、気づかされるという、そんな感じなんだ。曲を書く時っていうのは、曲を書く。それだけさ。するとそこから何かが自然に起こるんだ。
――それでもソングライティングの際、リリックや曲そのもののモチーフになったもの、リファレンスとなった作品やアーティスト、音楽以外でも小説や映画やアートなどあれば教えてください。
僕はAC/DCをよく聴いていたよ。もしかすると1~2曲でそれが表れているんじゃないかな。ダンは映画『ドライブ』のサントラをよく聴いていた。あのサントラに入っている何曲かで使われているシンセコンプみたいなのが“Baby Get Worse”や“For Your Heart”でも使われている。
――ところで、ファンとしては気になるところなのですが、スプーンの今後、ニュー・アルバムの予定などは?
スプーンは続くよ。レコードもいずれ出るよ。
――それはいつ?
いつになるのか、それは分からない。僕が曲を書いたら…ってことかな。ツアーがこれからしばらく続くので、それが終わって曲が書けたら、レコーディングをすることになるってことしか言えないけど。スプーンの現状に関してはそういうことなんだ。
――並行してディヴァイン・フィッツとしても続けていくということですか? パーマネントなプロジェクトと期待していいのでしょうか?
ああ、一度やったら、それでどこかへ消えてしまうというものではないよ。ディヴァイン・フィッツは今までやったどのバンドとも全然違うバンドだし、プレイヤーも全然違う。だからこそ、気に入ってるんだ。アルバムもすごくいい。全曲、僕が歌わなくてもいい! というところもクールだね。
――ありがとうございました。
Interviewed by JUNNOSUKE AMAI
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