ず、驚いた。これはほとんどの人が初めて耳にした際にこぼれる感想ではないだろうか。ジェイミー・リデルというイギリス出身のアーティストについて親しみがあるならば、彼が作品ごとにイメージを更新していくようなタイプであることは承知しているだろう。しかし、そうした了解を遥かに凌駕するエナジーが、この新作『ジェイミー・リデル』に貫かれている。

ベックやグリズリー・ベアのクリス・テイラーらと熱くぶつかりあった前作『コンパス』から一転、今回はエレクトロニックなサウンドが支配的だ。それも、80年代のそれ。彼が上げるキーワードは、エムトゥーメイ、ザ・タイム、ジャム&ルイス、ジャネット・ジャクソン、キャミオ、ボビー・ブラウン、リサ・リサ&カルト・ジャム……実に分かりやすい。そして何より重要なのは、彼が幼い頃より夢中になったアイドル=プリンス。元々はハウスやテクノなど“エレクトロな人”としてシーンに登場したジェイミーの原点はプリンスにある。1973年生まれの彼は、多感な時期にプリンス黄金期の栄華を浴び、プリンスの音楽がきっかけとなってエレクトロ方面への興味を持ったと明言する。今回彼は、エレクトロを鍵として、自身の青春を時間を逆行するような形で、彼は80年代にR&B~ソウル、ファンクと出会ったとき初めて味わった快感と興奮でこの作品を彩った。バラードは一切なし。「今回のアルバムにおける、パーティのようなテンションを下げたくはなかった」からだ。思わず身体が揺れてしまう、グルーヴの衝動というべきもので作品全体を貫き通したのだ。

そして、彼にもうひとつの初期衝動を与えたのが、ナッシュビル。前作でニューヨークに移った彼が、今回はナッシュビルに居を移したのは広々とした空間が手にできたからだそうだが、おかげで生まれたホーム・スタジオには、「ポーラ・アブドゥル“Opposite Attract”に使われていたのと同じミキシング・ボード」や、ヴィンテージなシンセサイザーなどを置く余裕ができた。そして彼はこう言う。「今回のアルバムでやりたかったことは、音でもっと遊ぶということ」なのだと。彼はこの実験室で、初めて音を創造したときのように思う存分に遊んだのだ。だからこそ、本作がただの懐古趣味な何かに終わらない、みずみずしくもヒリヒリするようなエナジーと現代性を持った作品なったのだろう。

収録曲“What A Shame” / ピッチフォークのBEST NEW TRACKにも選出された

ジェイミーが、プリンスや先に上げたキーワードの模倣に終わらないのは、リード・シングルの“What A Shame”でも分かるとおりだ。オーソドックスでシンプルなメロディでありながら、そのビートは、TNGHTなどのエレクトロ・トラップ・サウンドと共振する ようなフレッシュさを湛えている。“So Cold”では、エレクトロ・ハウスのイントロのような序盤から電化ファンクへと変貌し、最後にはトラップのようなバウンシーなビートとなっていく。

収録曲“why_ya_why” ミュージック・ビデオ

その“遊び”のきわみは、“why_ya_why”だろう。鈍重なベースとビートがノシノシと進み、ブルージーなトランペットが響くかと思えば、サイレンのようなシンセがブンブン鳴る……彼が思うままに好きな音をコラージュしたかのようだ。そして、まるでシー・ローかと聞き違うような、これまでになく強烈な彼のヴォーカルがフリーキーに動きまわる。“What A Shame”にしろ、彼のヴォーカルは今まで以上にソウルフルに熱を帯びる。“why_ya_why”を「ティンバランド+ジョージ・クリントン」と評する彼は、そのジョージ・クリントンの“Atomic Dog”を絶賛し、こう語っている。「あのトラックには全てが入っている。もし自分の音楽もあれに少しでも近づけられたら……」。80年代に覚えた初期衝動に突き動かされながら、ソウルとエレクトロの融合を現代に応用するクレイジーなサイエンティスト。それこそが、『ジェイミー・リデル』なのだ。

(text by Hiroyuki Suezaki[bmr])

★収録曲“You Naked”のミュージック・ビデオが新たに解禁!

Release Information

Now on sale!
Artist:Jamie Lidell(ジェイミー・リデル)
Title:Jamie Lidell(ジェイミー・リデル)
Warp Records / Beat Records
BRC-361
¥2,000(tax incl.)
※解説付き・国内盤ボーナストラック収録

Track List
01. I’m Selfish
02. Big Love
03. What A Shame
04. Do Yourself A Faver
05. You Naked
06. why_ya_why
07. Blaming Something
08. You Know My Name
09. So Cold
10. Don’t You Love Me
11. In Your Mind
+ Bonus Track for Japan