コネチカット州出身で、現在はシカゴのコロンビア大学で哲学を学んでいる20歳の大学生ビート・メイカー、ニック・ザンカによるプロジェクト、それがミスター・ライズである。彼は大学入学後の寮生活で慢性的な不眠に陥り眠れぬ夜を過ごす中、トラック制作を始める。そして2012年にセルフ・リリースにて発表した音源が注目を集め、Pitchforkの「BEST NEW MUSIC」に2度に渡り選出。さらには動画サイトにアップした“False Astronomy”のミュージック・ビデオが話題となり、今日までに100万を超える再生回数を記録。例えばジェイムス・ブレイクが“CMYK”で、ケリスやアリーヤのをサンプリングしたように、ミスター・ライズはこのトラックでジョニ・ミッチェルのヴォーカルをサンプリングし、絶妙のインパクトを与えてみせた。やがて彼はポスト・ダブステップ以降のビート・ミュージック・シーンの中心人物のひとりとして注目を集めていく。
再生回数100万超えしているMister Lies – “False Astronomy”(アルバム未収録)
『モーグリ』は遂にリリースされるフル・アルバムである。最も影響を受けたというトリップホップやダブステップをはじめ、アンビエント、ノイズ、ハウスなど、様々なエッセンスを吸収・昇華している。ヴァーモント州の湖畔のキャビンに籠り制作したという本作は、うねるような図太いベース音を低層に拡散させ、スネアの音をクリック&スナップで巧みに処理した変則的且つリズミックなビートを注ぎ、ヴァリエーション豊かに揺らぐシンセと、ピッチを自在に操るヴォイス~サンプリングや、哀愁に満ちたピアノやサックスの音色などを絡めて、緩急の効いた構成のイマジネティヴでドリーミーなビート・ミュージックを生成。彼のサウンドは先にも述べたジェイムス・ブレイクやブリアル、さらにはフライング・ロータスなどとも比較されているが、この『モーグリ』を聴く限り、もちろんそれらに通ずるエッセンスを感じさせるものの、いずれとも異なる特異で個性的なサウンドをみせている。これで20歳とは本当に末恐ろしい才能だ。続々と登場している若手のビート・メイカーの中でも頭ひとつ抜けたセンスを感じさせるミスター・ライズに、是非今後とも注目していただきたい。
(text by クラッシャー後泊)
Mister Lies – “Dionysian”(アルバム収録曲)
Release Information
2013.02.06 on sale! Artist:Mister Lies(ミスター・ライズ) Title:Mowgli(モーグリ) Plancha ARTPL-033 ¥1,980(tax incl.) Track List ※日本盤のみのボーナストラック |