ルウェイヴ・シーンで注目を集める、トム・クレルによるローファイR&Bプロジェクト、ハウ・トゥ・ドレス・ウェル。彼が2011年12月以来となる2度目の来日公演を3月13日(水)渋谷O-Nestにて行った。

昨年セカンド・アルバム『トータル・ロス』をリリースした後初となる来日公演は、ファン待望のものであり、筆者もその来日公演を今か今かと期待していたファンの一人である。ノイズの要素を入れつつも、トムの美しい声が混ざり合った楽曲の数々をライブでどのように表現するのかと興味津々で会場へと向かった。

当日、ライブは静かにスタートとした。気がつくとトムの歌声に心を奪われ、心地良い感覚包み込まれていったのである。そこまで引き込まれるのはハウ・トゥ・ドレス・ウェルという世界観があることはもちろん、今回ライブでVJを担当したニックの尽力も大きかっただろう。ニックが次々送り出す映像は耽美かつ色鮮やかで、トムの歌声に合わさることによって、ライブでしか味わえない幸福感を感じることができた。

聴き惚れていたらあっという間に時間が過ぎてしまったという感覚は、会場の観客の多くが感じていたことではないだろうか。今回、ライブでは『トータル・ロス』の曲以外にもアカペラで披露されたり、以前より評判の高いマイクを2本使ってのスタイルでライブを行うなど、充実した内容であった。

Qeticでは今回、帰国間近のトム・クレルことハウ・トゥ・ドレス・ウェルにインタビューを敢行。ライブの事についてはもちろん、セカンド・アルバム『トータル・ロス』についてもインタビューしてみたので、じっくりと読んでほしい。

Interview:How To Dress Well

How to Dress Well – “& It Was U”

――2011年ぶりの来日ですが、久しぶりの日本はどうですか??

今回は東京だけの滞在だから、残念ながら日本全体を廻っているわけではないんだ。でも、東京はとても好きだし楽しんでいるよ!

――昨日のライブ拝見しました。二年前のライブと比べて、オーディエンスの変化はありましたか?

ん~正直、二年前の事は覚えてないね(笑)。前回の方が会場も、オーディエンスの数も少なかったけど、前列の方に10人ぐらい熱心なファンがいることは覚えているよ。今回はセカンド・アルバムも出して、認知度が上がったってことで、ライブで感動してくれるオーディエンスの数も多くなったなって感じたよ。

――今回もマイク2本を使ってのフォーマンスでしたが、そもそもなぜ、2本使いなのでしょう? 普段は他の楽器を入れてでのツアーなどはされるんですか?

アルバムで表現されていることをしっかりライブでもやれる一つの手段として2本使っているよ。一つはエフェクトがすごいかかったものなんだ。ライブでは、色々なアイディアや、やりたいことは沢山あるんだ! 実は、ピアニストと、弦楽器を演奏する2人連れてやりたいんだけど、3人連れてくるだけで、余分に経費がかかってしまう。僕の中では、ライブでやりたい事が沢山あるんだけど、音楽やアートの夢を実現するにはそれなりの経費を払っていくっていう経済力が必要になっていくからね。

――次回の来日公演ではあなたの夢が叶ったライブスタイルになることを願っています! 今回のライブでは、二曲、アカペラを披露してくれましたね。一曲目のアカペラの曲は何ですか?

Beatcafeをやっているカトマンが今回、僕を日本に呼んでくれたんだ。彼と食事をしている時に次の作品に収録予定の「“love you down”をやろうとしたことはないの?」と言われて、「いやないよ。」と言ったんだ。でもせっかく、カトマンが新曲のことを話に出してくれたから、今回やろうと思ったんだ。

――では二曲目も次のアルバムに収録予定の曲なんですか??

そうだよ。メドレーになっているんだよ。

――サードアルバムの曲を発売前に曲を生で聴けたことはファンとしても嬉しいです! ではセカンドアルバムの『トータル・ロス』ですが、曲調から、Total Loss(海難)なだけあって、落ち込んだときや、じっくり考えたいときに聴きたい曲ばかりだなという印象ですが、どのような意図でこのタイトルにしたのですが?

実は自分が初めてした経験(友人の死)に基づいているんだ。ただの別れでもない、誰か大事なものを失う、死によって失うってことは本当にそれで終わりなんだっていうことを今回感じたんだ。そういった自分が初めて経験したものを表現しているものが『トータル・ロス』という作品だよ。

――そんな経験の基に歌われてたんですね。『トータル・ロス』をリリースする際に、ミックステープやアルバムから無料配信をしていましたが、今後このような機会は増えていく予定ですか?

ミックステープに関しては、ファンの人たちに、自分がこういう音楽が今好きで、こういう影響を受けているって伝えるために無料で配信しているよ。他人の曲をミックスしたものだから、お金はとれないよ(笑)。昔は自分の曲も無料で配信してたけど、今はレーベルにも所属したから自分の判断だけではできないものもあるからね。でも、できるんだったら無料配信っていう機会は増やしていきたいね。

――あなたの楽曲はもちろんミュージックビデオも素敵ですよね。特に“& It Was U”のミュージックビデオは、歌詞の世界観とも合っていて、一度見たら頭から離れない不思議な感覚になると思いました! 普段、ミュージックビデオなどはどのように作られるのですか??

曲によって違うんだけど、10曲目“Set it Right”のミュージックビデオを今作っているんだけど、ものすごく音が大きい、スケール感がある曲なんだ。これをいかに映像に訳すか、音で伝えていることを意識しているよ。曲の映像を作るってことは、違う表現形態に訳す、違う言語に置き換えるってことだよね。音楽の中でつたえている様々な要素っていうものをいかに映像に翻訳するかっていうものをいつも心がけているよ。

――今回のライブでVJを担当しているニックがミュージックビデオを制作する際にも翻訳する立場にいるんですか?

彼は編集をしてくれる立場で、映像、映画の知識が豊富なんだよ。デレクションとかアイディアを出して、翻訳の作業をするのは僕だけど、それに基づいて映像をつなぎ合わせるのがニックなんだ。例えば、今回のライブでは、「こういう女性の顔が欲しい」と聞いただけで、彼の知識の中から色々十種類ぐらいの中から女性の映像の部分をひっぱりだしてきて、その中から良いものを僕が選ぶんだよ。

――ニックが担う役割は大きいわけですね。あなたはR&Bに影響を受けているとピッチフォークのインタビューで答えているのを読んだのですが、ザ・ウィークエンドや〈オッド・フューチャー〉のフランク・オーシャンなど、新しい世代のR&Bのアーティストが出てきています。彼らが、何かあなたに与える影響はありますか??

特に影響は受けてないよ。ジェレマイやマックスウェルなどに影響は受けているね。ザ・ウィークエンドは、声は好きなんだけど、彼が歌っている内容は、ほとんど内容が女性蔑視で共感はできないんだ。フランク・オーシャンに関しては、30年、40年のR&Bがやってきてきたことをそのまま継承してだけじゃないかな。新しいことをやっているってことは、批評家たちが作り上げた神話だと思っている。だからジェレマイやマックスウェルの方が共感するよ。

――最後に、今後フェスティバルが多くなるシーズンで、ご自身も多く出演されると思いますが、何か楽しみなフェスはありますか?

<ロスキルド・フェスティバル>は以前出たことがあるけど、すごいよかったからもう一度やるのを楽しみにしてるよ。今年は結構初めてでるものが多いから、楽しみにしてるのは<プリマヴェーラ>とノルウェーのローブっていうところでやるフェスかな。やはりフェスティバルは、何がいいかっていうと、世界中の友達と会えて、友達の音楽を聞けるのがいいね。

――ありがとうございました。また日本に来てください!!

(text&interview by Naomi Ise)

Release Information

Now on sale!
Artist:How To Dress Well(ハウ・トゥ・ドレス・ウェル)
Title:Total Loss(トータル・ロス)
Weird World / Hostess Entertainment
HSE-10128
¥2,100(tax incl.)

Track List
01. WHEN I WAS IN TROUBLE
02. COLD NITES
03. SAY MY NAME OR SAY WHATEVER
04. RUNNING BACK
05. & IT WAS U
06. WORLD I NEED YOU,WON’T BE WITHOUT YOU (PROEM)
07. STRUGGLE
08. HOW MANY?
09. TALKING TO YOU
10. SET IT RIGHT
11. OCEAN FLOOR FOR EVERYTHING