2013年10月14日午後9時、ニューヨーク州・クイーンズ地区の閑静な住宅街に人々が詰め寄せた。
世代も人種もバラバラの群集が持つ共通の目的、それは街角に描かれたある“落書き”を観る事だった。住宅しかないこのエリアに世界的なアーティスト、バンクシーが現れたのだ。

英国出身の覆面アーティストであるバンクシーは現在、ニューヨークのストリートを巨大なキャンバスに見立てて、1ヶ月間を通して1日1作品を発表していく「Better Out Than In」というプロジェクトを展開している。基本的にストリートにゲリラ的に出没し、夜のうちにビルの壁などに絵を描いては自身のホームページで作品を発表している。ニューヨークのファン達はその写真を頼りに、まるで宝探しを楽しむように町中を探し回っているのだ。

そしてこの夜、筆者が目の当たりにしたのは、ようやく見つけた宝の前で記念撮影を楽しむ人々の姿だった。陽気な中年男性はその落書きの前でポーズをとりながら順番待ちをする人々に語りかけていた。

「慌てなくても大丈夫だよ、まだここに本物があるから」

中年男性の言葉に周囲の人々からは笑いが起きた。しかしその直後に起きた出来事によって筆者は笑えない冗談だと言う事を実感した。