作家、イラスレーター、現代アーティスト、そしてラジオパーソナリティーと、表現者として多彩に活躍するD[diː]の個展<The DOOR 自分回帰/THE LETTER from the future, past, somewhere>がスタートした。多くファンを持つ、草花や動物をモチーフにした、繊細なタッチはそのままに、D[diː]は同展で新技法「ハーモニック・オルゴナイト・ペイント」にも挑戦している。今回の個展に込められた思い、そして、アーティストとしての「未来」について尋ねた。
作風や過去のインタビュー記事の印象から予測はしていた。しかし、実際に目の前に現れたD[diː]は想像以上に独特の雰囲気をまとった人だった。作品のガーリーさとともに、しなやかな強さのようなものを持ち合わせている。そして、キュートだ。
挨拶もそこそこに彼女は、先日、行ってきたという廃墟での写真を見せてくれた。約1年ぶりとなる個展<The DOOR 自分回帰/THE LETTER from the future, past, somewhere>(以下、<The DOOR 自分回帰>)のプロモーションビデオの撮影のために訪れ、「秘密の美術館」をイメージして、撮影を行ったという。
そこには、まさにD[diː]ならではの世界が広がっていた。ほかのアーティストが同じ場所で撮影を行っても、決して同じ世界観は成り立たないだろう。
「(撮影に行った廃墟は)低級霊だらけのかなりひどい磁場でしたが、自分の絵に守られているようなかたちで、無事撮影を終えました。丸腰で行ってたら具合が悪くなって熱出してたと思う。」
自分の絵に守られている──? 思わず聞き返す。
「そう、私の作品は設置をした場所の氣をよくする設計をしてあるんです。
かつては小説なども書いてきましたが、私が手がける作品のテーマはずっと同じ。“生きやすくするにはどうするか”ということです。置いてあるだけで絵から哲学がにじみ出て、“生きていることが楽になれるように“を、テーマにしています。自分の絵を自宅に飾ったりもしますが、自分の絵がある時とない時では流れる氣が全然違います」
作品により「氣」を入れるために太極拳も通っているという。そんなD[diː]が、今回の個展でテーマに掲げたのは、タイトルにもなっている「自分回帰」だ。
「私も長いこと活動しているので、一度、自分とは何か? と立ち戻りたいというのもあったんだと思う。実は今年の夏頃、生きていることがつまらなくなってしまった時期があったんです。この立ち戻る状況を“沐浴”というらしいんですけど。その時期は、なんとなく未来が想像できてしまって、生きなくてはいけない理由について考えてばかりいました。
積極的に死のうと思ったわけではないのですが、ここから飛び降りたら死ぬなといったことばかり考えてしまって。傍目には変わりなかったと思うのですが、自分の中では静かにパニック状態になっていました。
これはどうにか乗り越えなければいけない、とにかく心を落ち着かせようと、“瞑想”をしてみることにしたのですが、結局、毎回途中で寝てしまって(笑)。でもその寝ているときにいろいろなものが“降りて”きたんです。その時にいろいろなことがダウンロードできたというか、いわゆる、悟りみたいなものが少しだけど開けたみたいで。たとえば、死とは何かとか、人々がおかれている状況がなぜこんなにも違うのかとか、美味しいものにはいい“氣”が詰まっているといったことが腑に落ちるというか、聞いたことのある知識が、身を以て理解できたといったかんじです。これはアカシックレコードといって、いわゆる下界と涅槃の間にあるんですが、この世のすべての情報が集まっている部分、そこにアクセスしたみたいなんですよね。実際にアーティストと呼ばれる人たちはここから情報をダウンロードして作詞や作曲、作品に落とし込む能力があるからアーティストなんだと言われているんです。」
今回の個展で発表される作品は、D[diː]が語るこの「悟り」を開いたあとのもので、「ダウンロードしたことを踏まえて作っている」。
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