ものをつくりたい人の自由な発想と、ものを自由につくれる燕三条の技術をつなぐ『EkiLabものづくりAWARD』。「グランプリ受賞アイデアを商品化!」という画期的な特典で大注目されたアイデアコンテストが、2020年の第1回に続き今年も開催される。今回のテーマは「箱」。いかようにも解釈できるこのお題をもとに、芸人/パフォーマー/アーティストのぼく脳さんが「本気の応募を見据えた」作品構想を展開。独特な物事の捉え方とともに、奇妙で絶妙なアイデアの数々を紹介する。
どの作品も“俺の”ではなく“僕の脳”によるもの
「突き詰めていけば、既成概念という箱を壊せってことなんじゃないですか?」
これがぼく脳さんの、『EkiLabものづくりAWARD2021』のテーマに向けた見解だ。「そう考えちゃえば何でもこじつけられますよね」
人は他人に肩書を求めたがる。聞き覚えのある職業や立場から相手の在り様を推測し、型にはめることで自分なりの理解を得たいからだ。それに沿う形でぼく脳さんを「芸人/パフォーマー/アーティスト」と紹介してみたが、どうにも実像に届かない気がする。
先輩に誘われ高校卒業後にお笑いの養成所に入ったそうなので、少なくともキャリアがもっとも長いのは芸人だろう。一方でここ数年は、TwitterやInstagramで発表される作品に注目が集まっている。なおかつ2021年3月末には原宿のギャラリーで、『JOINT ART BOX POP HAPPENING アートを笑うな by ぼく脳』を開催。この流れを外野が汲み取った結果が肩書の拡張だ。思い当たる節を記しておけば間違いはないという、一種の保険として。その逆側には、本当は何をしている人なのかわからない疑念が転がっているのも事実。そんなふうに見られがちな“多岐に渡る活動”を、ぼく脳さん自身はどう捉えているのだろうか。
「どの作品も“俺の”ではなく“僕の脳”によるものという考えがあるんです。たとえば、ふいに曲が浮かぶとしますよね。あるいは漫画でもいいんですけれど、それを自分が芸人だからと言って単なるネタに変換するのではなく、曲なら曲に。漫画なら漫画にしたほうがいい。元のアイデアに対しても失礼だし。なぜそう思うかというと、元々の発想に従ったほうが確実におもしろいから。自分が定職についていないからというのもありますが、それが様々な表現をやっている理由です。お笑いもまた同じところがあって、劇場で披露するだけのパターンに縛られず、みんなもっと自由にやれたらいいですよね」
では、表現したい根本にあるものとは?
「楽しませたい。ウケたい(笑)。美術展では毎回、文字数の多さが異例と驚かれますが、それはちゃんと説明してしっかりウケたい気持ちから来ています。『アートって捉え方次第』ってよく聞きますけれど、僕はそれ、できない。ショートコントを始める前にタイトルを告げるのと同じで、これはそういうもの、俺の考えている意味しかないと押し付けていくことで笑いを取る。結果、文字が増えていく。困りものですよね(笑)」
となると、スピリットの根っこはお笑い芸人?
「そもそも芸人って、これといった職種でもないですよね。常にアイデアがあるだけで。そう言えば燕三条と同じ新潟県生まれの父親がダウンタウンのファンで、それが僕のお笑い好きを育てたんですけれど、松本さんもいろいろやっていますよね。なら僕も、もっといろいろやっていい。売れてるほうと売れてないほうの違いがあったとしても」
ぼく脳式「箱」テーマのアイデア集
ここからは、インタビューの現場でスケッチブックに描かれていった、ぼく脳さんの“応募予定作品”を紹介していく。本人の前置きはこうだ。「2020年のEkiLabものづくりAWARDをチェックしたら、ザ・発明というような応募作品が多かったので、僕の作品が通るとなると賞の流れが変わるかもしれない」。
確かに、その可能性が否めないアイデアばかりが飛び出した。しかし「箱」というテーマに対しては、ぼく脳さんならではの独創的な解釈が存分に感じ取れた。
●バラン型のアクリルパーテーション
「お弁当で使われるバランを大きくして、駅の構内で駅弁を売っている店のパーテーションにします。駅という箱の中の仕切りとして。これ、ありそうでない、応募本命のキラーアイデアです」
●メッセージ付きラーメン丼
「ラーメン丼の底に、『最後まで飲み干すなよ!』という文字を。側面にも『そろそろ』とか『何度言ったら!』と書いてもいいですね。健康を守るのが目的です。人間の体は命の箱だから(笑)。この文字を見たくてスープを飲み干したら元も子もないですが。燕三条ってラーメンが有名ですよね。アリですね」
●円/ドル箸置き
「食卓は家という箱の中にあるものということで、食器シリーズを。箸を置くと、円とドルの記号になる箸置きはどうでしょう。燕三条でつくる意味があるのか? そこは最高級の金属加工技術で!」
●名刺を持っている名刺入れ
「これはまさしく箱。調べたら燕三条はステンレス加工でも有名らしいので、賞にふさわしい作品になるでしょう。アイデアとしては一番自分っぽいです」
●ダイエット用食器セット
「フォークとナイフがごちそうさまを示す状態で取り付けられているお皿。最初から食べないことになるのでダイエットに向くかと。命の箱カテゴリーに分類してもいいですね」
●マイつり革対応車両
「命の箱を預ける電車という箱には、お客さん各自が好きなつり革を提げられる突起付きレールを備えます。もっとも規模が大きいアイデア」
「脳ミソというアイデアの箱からとっておきを……」
このアイデア出し、最初は『EkiLabものづくりAWARD』を体験するものとしてぼく脳さんに提案したが、スケッチに落とし込む段階に至り、本気で応募する意欲が芽生えてきたようだ。それにしてもぼく脳さんの箱に向けた解釈は大喜利的で楽しかった。他方、これらアイデアに目を通す審査員の対応にも俄然興味が沸いてくる。ところで、ぼく脳さんの活動において審査が前提の賞にはどんな考えを持っているのだろうか。
「SNSでバズれば商品化も夢じゃなくなったこの時代、自分のアイデアをあえて審査してもらうのは、とてもありがたいことだと思います。僕の場合、アイデアが浮かんだら鮮度命でひとまず形にして発表するパターンが多いけれど、ちゃんとした方々がつくり込んでくれたら、まずうれしい。そして、それが世間にどうウケるかはぜひ知りたいです。いやもう、応募する気満々ですよ」
そこでこんな妄想をした。今回のアイデアとは別に、ぼく脳さんが本名で応募した作品が賞を獲り、授賞式でインタビューする場面が訪れたら相当におもしろいだろうと。
『EkiLabものづくりAWARD2021』の応募締め切りは、WEBが9月15日(水)24:00。郵送は同日中必着。審査結果の発表は 2021年11月中旬を予定。再々お伝えしているように、今回のテーマは「箱」。最後にぼく脳さんから、あるいはライバルになるかもしれない応募希望者に向けてメッセージをもらった。
「皆さん、脳ミソというアイデアの箱からとっておきを引っ張り出し、スマホや郵便という情報伝達の箱を利用して、賞に応募するという、応募という……。あ、失速。上手いこと言いたかったのに……(笑)」
Text by 田村 十七男
Photos by Toshimura
INFORMATION
EkiLabものづくりAWARD 2021
応募期間 2021年7月1日(木)〜9月15日(水)
応募方法 公式サイトより
EkiLab帯織
〒959-1117 新潟県三条市帯織 2342番地2
利用時間10:00-22:00(年中無休)
※スタッフ駐在時間 平日10:00-17:00
TEL 050-1744-3814