テクノ・デジタルレイヴカルチャーをベースにしたグラフィックで活躍するアートディレクター、GraphersRock/岩屋民穂

その最新ワークとして、ハーレーダビッドソンとのコラボレーションバイクが10台のみの完全限定生産で発売された。フュエルタンクにオリジナルのグラフィックがペイントされた〈STREET ROD® “FREEDOM” EDITION design by GraphersRock〉は、これまでのハーレーのイメージを刷新するデザインに仕上がっている。

なぜGraphersRockとハーレーダビッドソンが出会うことになったのか。
コラボレーションに至るまでの多様なデザインワークを紹介しながら、その軌跡を辿っていこう。

GraphersRockの根幹をなす音楽のデザイン

まずは音楽シーンにおけるデザインに注目してみたい。岩屋にとって、音楽の仕事は特別なものだという。

「中高生のころから音楽が生活の中心にあって、漠然とそれに関わる仕事がしたいと思っていました。デザインに興味を持ったきっかけも信藤三雄やデザイナーズ・リパブリック、ピーター・サヴィルなど、音楽と密接なデザイナーへの憧れが強かったので、音楽ありきでこの仕事についたと思っています。」

ネットレーベル、Maltine Recordsが2010年にリリースした『MP3 killed the CD star?』は、音源のダウンロードコードと空のCD-Rが付属するという、ネットレーベルにとってのCDのあり方を問いかけた一枚だ。刺激的なアルバムタイトルを、遊び心あるタイポグラフィで表現した。

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「2000年代、通信速度の向上やプラットフォームの進化をきっかけに個々のアーティストたちがWeb上に音源をアップし始めていて、それを発掘していくことが楽しみでした。」

その中で活動し始めたばかりのMaltine Recordsを知り、まだ高校生だったtomadtofubeatsと出会ったという。

「マルチネがCDという形で全国流通するにあたって、単なるコンピCDを作るなんてありえない。20歳前後が集まっていたマルチネメンバーたちの若さや悪ふざけ感も出したいという意図を込めました。」

2013年、tofubeatsのメジャーデビュー作『Don’t Stop The Music』は、イラストレーターの山根慶丈によるイラストを前面に打ち出し、懐かしさと新鮮さを両立させながらポップに仕上げた。以降、tofubeatsのジャケットの多くはこのメンバーで制作されているが、岩屋から見た2人の共通点について聞くと「時代性があるものをフラットに捉えているところ」だという。

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「イラストレーターや写真家の作品を中心に据えてデザインする際は、作品をどう盛り付けるかに徹します。細かくディレクションすると発想に制限がかかってしまうような気がして、基本的にはイメージの大枠だけを伝えてお任せしていますね。僕は上がってきたものを最良の形でしっかりデザインに落とし込む役割です。」

「聖闘士星矢のクロスのおもちゃで遊んでいた記憶がギミックの元ネタ」と語るのは、でんぱ組.inc『サクラあっぱれーしょん』(2014)のメンバー盤ジャケット。ケースを開け、グラフィックが印刷された透明フィルムを外すとメンバーの写真だけが見える仕掛けだ。
メンバーにカオスなグラフィックを纏わせる大胆なデザインは、アイドルのセオリーを覆していくでんぱ組.incの姿勢ともマッチしている。

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最後はサンプリングしたようなビジュアルが印象的な、あっこゴリラ『TOKYO BANANA 2018』の配信ジャケット。

「自主制作盤の『TOKYO BANANA』をセルフオマージュした楽曲ということもあって、元ジャケットの素材を使ってリファインしたいと本人から提案されました。元がガーリーなコラージュだったので、それを僕なりにやり直したら……というのがデザインの大枠です。自分にはない行動力やまわりを惹きつける熱量が、彼女の最大の魅力だと思います。」

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リスナーとしても、上で取り上げたような若手アーティストのシーンには普段から注目しているという。

「何か新しい音楽が生まれる瞬間に立ち会いたい。今後シーンを騒がせるようなアーティストをいち早く発見したいという単純なファン心理からです。野球ファンが高校野球をチェックするような感覚かもしれないですね。」

PUMAとのコラボ、独自の視点による表現の追求

もちろん、GraphersRockのデザインは音楽だけにとどまらない。続けてファッションやアートへの広がりについてもその一部を取り上げたい。

近年、特に注目されたのはPUMAとのコラボレーションだろう。2016年の第一弾では、PUMAの90年代を象徴するランニングシューズ「DISC BLAZE」と「R698」をベースに、グラフィックとの融合を試みた。細かいマーキングでガジェット感が強調された外見と、インナーに敷かれた賑やかなグラフィックのギャップが楽しい。

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「商品開発の話をいただいてからドイツ本社の承認が下りるまで1年ほどの期間があり、その間、自分でもマニアの視点に立ってみようと実際に買い漁ってWebで最新情報を追い、スニーカーカルチャーに没頭しました。スニーカーが他のアパレルと決定的に違う部分は“自立”している点だと思っていて、そこが観賞性やコレクト性を高めていると考えています。そのため、身につけていなくても彫刻的、フィギュア的にイケているかという部分を強く意識しました。」

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さらには、クライアントワーク以外の作品制作にも取り組んでいる。
2017年には赤坂のWIRED Lab.で個展「GROUP SHOT」を開催した。会場に置かれていたのは、シリアルやジャンクフードの空き箱、日用品のパッケージに植えられた植物たち。人工的な照明のなか、量産品と生ける草花が視覚的に心地よいリズムで配置され、それらの写真とともに展示された。

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「一時期、狂ったように事務所内で植物を育てていたんです。その記録写真を撮り始めた際に、事務所に転がっているおもちゃやパッケージと一緒に並べてみると、なんとも言えない雰囲気が浮き上がり、この作品を作るきっかけとなりました。」

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作品に使われた各国のスーパーやドラッグストアに並んでいるようなパッケージは、自身がデザインの参考資料として日々収集しているものだ。「普通はゴミとして捨てられてしまうパッケージでも、集まることによって何かしらの体系が見えてきたり、意図して作られたものではない価値が生み出されていくことが非常に楽しい」という。

GraphersRockのクリエイティブは、既存の文脈を揺さぶり、ときに異質ともとれる力強いビジュアルを提案する。しかし、その異質さは見る人やファンに背を向けてしまうようなものではない。それはカルチャーを愛し、日々あらゆるデザインに興味を向け、それらがもたらす価値を真摯に考えながら取り組んでいるためだろう。
その姿勢は、次なるフィールドとしてハーレーダビッドソンとのコラボレーションにつながっていく。

ハーレーダビッドソンの歴史と新たなシーンを接続する

ハーレーダビッドソンとGraphersRockのコラボモデルは、2019年のプロジェクト、〈SEEK for FREEDOM〉で制作されたアイアン1200に遡る。昨年は「テクノロジー&ワイルディ」をテーマに、カスタム可能なあらゆるパーツにペイントを施した1台限りのコンセプトモデルを完成させた。

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このプロジェクトが目指したのは、ただアートピースを作り上げることではなく、ハーレーが持つ歴史と新たなシーンとの接続だ。
映画「イージーライダー」に代表されるような1960年代アメリカの自由を求める気風、1970年代のカスタム文化を色濃く受け継ぐアイアン1200を、GraphersRockのグラフィックが彩る。さらにお披露目では、tofubeatsや長谷川白紙をゲストに招いたエキシビジョンイベントを開催し、クラブミュージックや現代の若い感性とのリンクを印象づけた。

そして両者のコラボレーションは、2020年〈RE_SEEK for FREEDOM〉として再始動。冒頭でも触れた完全限定生産モデル〈STREET ROD® “FREEDOM” EDITION design by GraphersRock〉へと展開された。ハーレーの車種の中でも、スポーティで機動性に優れたストリートロッド。ブラックを基調としたダークカスタムの車体に、GraphersRockデザインのフュエルタンクが鮮やかに浮かび上がり、視線を引きつける。

岩屋によると、パワーの可視化に焦点を当てたテーマ「テクノロジー&ワイルディ」は踏襲しつつ、昨年のヒョウ柄に対して、人体の毛細血管をモチーフに選んだという。
デザインの意図や制作背景については〈RE_SEEK for FREEDOM〉特設サイトのインタビューでより詳しく語られている。ぜひそちらもお目通しいただきたい。

平面のグラフィックを越えて、ファッションからバイクまで――次々に新たなフィールドへと活動を広げるGraphersRock。未知の分野へ挑戦するとき、どのようなことを大事にしているのだろうか。

「なぜ、挑戦したことのない分野のクライアントがオファーをしてくれたのか、その意味と意図を考えます。そして徹底的なリサーチと対象を愛すること。また矛盾するようですが、リサーチし過ぎないこと。知りすぎると発想の伸びしろが薄くなると感じています。」

最後に改めて、〈RE_SEEK for FREEDOM〉特設サイトではGraphersRockがデザインした〈STREET ROD® “FREEDOM” EDITION design by GraphersRock〉の詳細なルックが見られるほか、実物を注文することも可能だ。販売期間は5月19日(火)まで。歴史に残る一台を、その目に焼き付けてほしい。

Text by 野口尚子[PRINTGEEK]

INFORMATION

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現在、公式サイトで、GraphersRockオリジナルデザインの壁紙とWeb ZINEが無料でダウンロード可能。

詳細はこちら
RE_SEEK_for_FREEDOM 公式サイト