女子力の高い「餓鬼」
地獄を表現した、というとおどろおどろしく恐ろしい作品をイメージする方が多いかもしれない。しかし今回並ぶ作品に恐ろしさはひとつもない。逆にポップでカワイイ。これこそキモカワ、というものだと思う。それは独観子さんが作品に使う生地によるところが大きい。
例えば、背景には花柄の真っ赤なレースが使用された、餓鬼を表現した作品。炎にはスパンコールが散りばめられている。餓鬼の肌はサテン、長―い舌はビロード。およそ地獄とはかけ離れた女子力の高い装飾によって、ポップさが1万倍くらいに増え、サテンとビロードで表現された餓鬼の存在感はハンパない。
裸の女性モチーフも多用されているが、これも地獄寺からインスピレーションを得たもの。神話などのストーリーが付くと、裸の女性を描いたり作ったりするのが不思議とエロいものではなくなるという。枝にたわわに実った女性をオーナメント風に仕上げた作品は、刺繍により温かみとキュートさを増している。
全裸の女性が絡み合うような額縁は、オーガンジーの布を纏う事で優しいラインを描いている。
独観子さんがチョイスした表現の手法である「手芸」と、テーマの「地獄と世俗」が、驚くほどマッチし、会場に一体感を出していたのは間違いなかった。
会場には掛け軸型の大きな作品の他に、早稲田大学院でタイの地獄寺について研究しているという末恐ろしい若者・椋橋彩香さんの写真の展示も。
街で身につけていたら、良い意味でも悪い意味でも目立ちそうな、独観子さんお手製の 衣料品も並ぶ。
さらに学校や会社で、いろんな意味で注目を浴びそうな文房具や雑貨の販売、夫の独観さんの書籍の販売が行われていた。
ちなみに以前の企画展で、私は珍寺・珍スポットがコラージュされたノートを購入。かなり真面目な打合せシーンでもそれを頑なに愛用していたところ、クライアントの仲間内で「あの人のノートすごいよね」と陰口……いや、話題になっていたことがあった。今回も激しい品ぞろえで、訪れる人々が恐る恐る手に取っていた。
「おもしろければそれでいいじゃん、と思えるようになった。賢いと思われなくてもいい、と吹っ切れるようになったのは年の功。20歳では、今回のものは作れなかったと思う。」
そう言い切る独観子さんはかっこよかった。長年誰よりも多くの珍寺を訪れ、得たインスピレーションというのは計り知れない量だろう。それが彼女のひらめきによってこれからも次々と作品になっていくのを、我々珍寺フリークは心から待ち望んでいる。
森嶋千春/イベニア