ビューから10年を迎えた宇治野宗輝のワンマンバンド「宇治野宗輝&ザ・ローテーターズ」が、時間と空間を統合し、劇場という新たな表現領域へと足を踏み入れた。「ザ・ローテーターズ」は、作家自身のアイデンティティを形成した20世紀後半の日本の消費社会を背景に、20世紀初頭に「工業化する世界に個人がどう向きあうのか」ということで始まった西洋の「現代美術」を参照し、現在のグローバル化された、ポスト・インダストリアル社会における工業製品の文化的文脈と技術を独自の方法で解体/再構築する。

本公演は、光/映像と物質による美術、ロックンロールの技術を使った音響システム、制御系のエレクトロニクス、それぞれが分ち難い構造で一体化した、パフォーマンス・アクトとサウンド・スカルプチャーの複合プロジェクトである。タイトルの<イナーシャ(INERTIA)>とは、モーターの回転を起こす力の慣性を意味している。

大量生産の黎明期である20世紀初頭、『バレエ・メカニック』という抽象芸術作品が誕生した。しかし「本当に抽象的なものが生まれたのは、プラスチックが生まれてからだ」と考えた宇治野は、工業製品である機械たちが実際に踊るという新たな抽象芸術、メカニック・バレエを生み出したのである。今回新たなバンドメンバーとなった、人間の文明が生んだ私達の生活に馴染みの深い工業製品たちが、人間の能力を遥かに超えたダンスを踊り、そして音楽を奏でる。そこから放たれた光が映像となり、音楽そしてパフォーマンス全てと有機的に連鎖しながらメタモルフォーゼを遂げ、宇宙と一体化して行く。

20世紀後半、敗戦国として再出発を果たした日本は、圧倒的な物質文明と消費社会を享受しながらも、戦勝国である英米が生んだ様な本物のポップを生むことができなかった。20世紀の消費社会とポップを超えた、本物の21世紀にド派手な挨拶を告げるマシーン・オペラである本公演は、西洋現代美術の文脈に真摯に向き合い続けたアーティストだからこそ到達することができた境地を見せてくれるだろう。これは見逃せない。

Event Information

宇治野宗輝&ザ・ローテーターズ
マシン・シアター「イナーシャ」

2014.12.13(土)@アサヒ・アートスクエア
START 第一部15:00、第二部17:00、第三部19:00

2014.12.14(日)@アサヒ・アートスクエア
START 第一部15:00、第二部17:00

ADV ¥1,000/DOOR ¥1,500