また『バトル・オブ・ロスアンジェルス』という作品は、その当時の主流メディアであったラジオをモチーフにしたもの。新聞やラジオを使ったオブジェクトに加え、ラジオからは事件当日の実際のラジオ放送が流れるようになっている。
『バトル・オブ・ロスアンジェルス』
このようなラジオ放送が流れるようになっていた。The Real Battle of Los Angeles 1942 CBS News Report (Attacking UFO)
『ストレンジャー(謎の男)』という作品は、今回のエキシビジョンのコンセプトに合わせ、ロッテルダム在住のファッション・デザイナー、ユルエン・フォン・トゥイルがデザインしたタキシード。一見すると、普通のタキシードに見えるかもしれないが、実はディティールは宇宙服のようになっており、この日、本邦初公開となった楽器『ビジター(訪問者)』を演奏するときに着用するということらしい。
『ストレンジャー(謎の男)』
そして今回のエキシビジョンの目玉のひとつとなったのが、前述の『ビジター(訪問者)』という作品。これは実はジェフ・ミルズの代名詞と言っても過言ではない──彼の数々の名曲やパフォーマンスを生み出してきたドラムマシーン──ローランド社のTR-909を解体し、プロダクト・デザイナーのスズキユウリのデザインによって、新しい楽器として生まれ変わったもの。ダイヤモンド型の形状で、青いライトが円形に光っていたという未確認飛行物体の目撃証言をヒントにデザインが施されている。さらに驚くべきことに、このマシーンにはオーディオのアウトプットしかなく(つまりMIDIなどで他の機材やコンピュータに同期することができない)、リアルタイムで演奏するための楽器なのだそう。これは前日の相対性理論とのライヴでも使用され、圧倒的な存在感を放っていた。
『ビジター(訪問者)』
今回、ジェフ・ミルズが我々に提示したものは、決して単なる昔話ではない。1942年当時のアメリカを覆っていた緊張感と陰鬱なムードは、混迷を極める世界情勢や不安としか言いようのない国内の状況に接している我われにとっても、非常にリアリティのあるものに感じられた。このようにジェフ・ミルズの作品は、もうすでに音楽という枠組みを超えて、むしろコンテンポラリー・アートのようなものに近づいているような印象すら受ける。25年以上におよぶ活動を経て、いままた新たな次元で発信を続けるジェフ・ミルズの活動にこれからも大いに注目していきたい。
ちなみにいまジェフ・ミルズはあの世界的なヒットを記録した名作『エキシビジョニスト』の続編の制作に着手していおり、今年の秋ころに発表される予定になっているそうだ。これも大いに期待したい。
text by Naohiro Kato
photo by 葛西龍