心地のよい気持ち悪さ。スマホアプリでさえもキャンバスに。

はっきりとした色味の彩色と、細かく描かれたリボンや花、飴。そして全体の雰囲気に見合わぬ、老婆のような顔つき。ちぐはぐで、混ぜてはいけないものを混ぜているような感覚はあるが、妙に違和感は無い。登場するキャラクターの一種「愚少女クキータ」は、一度見てしまったら最後、なかなか忘れがたいビジュアルをしている。

彼は今回のキャラクターのデザインについて「モンストのキャラはかっこいいイメージがあったので、あえて少し気持ち悪さを入れました。一回子供が端末を置くようなゲームにしたかった」と語る。確かに、これは初めて画面を見た時に冷静になりたくなるビジュアルだ。

一番印象に残るのは、やはり「顔」。
お察しの通り、くっきー！は彼自身をモデルとして描いているという。

彼が注目され始めたのは、自身のSNSで似顔絵を上げ始めたことがきっかけ。その後、ラフォーレ原宿での個展開催などを経て、「顔」をモチーフとした作品を多く発表するようになる。2019年4月、米国ニューヨークで開催されるアートエキスポに「肉糞太郎」の名義で参加し、『肉糞乙女太郎』シリーズを含めた絵画5点を展示したのは記憶に新しい。

『肉糞乙女太郎』シリーズは、今回のキャラクターデザインに通じるものがある。なぜ花やリボンという少女的なモチーフと、自身の顔を組み合わせるのだろうか。過去の取材で、彼はこう語っている。

「もともと、チェチェナちゃんていう、自分の頭に花飾りを被ってるキャラがあるんですけど、それを平面に置き換えたっていう感じですけど。ま、汚ねえ顔にきれいなものを飾ったら、きれいに見えんちゃうのと思って飾ったら、なんとも微妙な気持ち悪さになって」

「そもそも僕の笑いが気持ち悪い笑いなんで（笑）こんななっちゃったって感じ」

引用元：くっきーこと肉糞太郎！ 『漫画って言っておけば売れるでしょ！！』 from VICE Japan

彼がコントで演じるキャラクターと同様、アート活動についても、ギリギリを狙った上で“直視できる気持ち悪さ”に落とし込んでいるのだ（くっきー！さん、すみません）。まさに「心地のよい気持ち悪さ」である。

そんな謎の中毒性がある不気味さは、ゲーム画面の背景にもしっかりと表れている。

幾重にも重なる指によって描かれるのは、なぜか『歯』という文字。見ているとだんだん「米」の部分が千手観音のように見えてくる。『歯』という文字のさらに後ろに書かれた『陸歯』『奥歯』『銀歯』も「こういう模様があってもおかしくないよな」と。（ちなみにこうやって違和感がなくなってきたら、もうくっきー！中毒の始まりだと思う）

彼はこういった“指文字”を、下書きもなくマーカーペンでスルスルと描いていく。指文字も、彼がよく用いるモチーフだ。彼が指にこだわる理由は「人間の中で1番働いているのが指」だからと語る。

「これは身体の一部だ」と理解はしつつも、筋ばった関節や質感のせいか指以外の何か……模様がついた柱のようにも見える。

それは、「顔」も然り。
「汚いもの（顔）に綺麗なものを飾る」「（指を）綺麗に飾ってあげたかった」。描く対象となる身体の一部を、自分とは関係の無い物体として捉えている。指や目を模様のように描いているのは、そういった彼自身の解釈が関係しているのだろう。

「構図はあんじょう（ちゃんと）するタイプです。バランスは大事ですから」

引用元：野性爆弾くっきーのアートが米NYで絶賛された理由 from 情熱大陸

以前、テレビの潜入取材に、くっきー！はそう答えていた。

ゲーム画面を見てわかる通り、情報は多い。だが、妙な統一感はある。
背景・キャラクター・枠、というレイヤードがあり、かつ「ゲーム」という“描いたモノが動く”世界の中で、バランスを見極め、かつ統一感を出している。色合いや揃え方に関しても「ただ素人に毛が生えたような」とは決して切り捨てられない。

本人は、そんなゲーム画面のデザインコンセプトを「一見かわいいのですが、よく見たら鬼面のような感じ」と表現する。

ちなみに、彼の絵は昨年のNYアートエキスポで、計5作品が約1,100万円で落札された。日本だけにとどまらず、世界規模で“心地の良い気持ち悪さ”を伝播させていっている。そして、近年ではイラストだけではなく、雑誌のアートディレクションにも参加。活動の幅が広がる中、どういったフォーマットであっても、自分らしいポイントを落とし込んでいる。

今回の「モンスト」も、ゲームそのもののフォーマットに引っ張られずに、自身の個性を100%前面に出した。映像と音声、そして背景。イラストを描く時よりも多重なレイヤードを用意しなければならないなか、“ただのごちゃごちゃした世界”を生み出さなかったのは、彼が「モンスト」というキャンバスを目の前にした時に「この中でどう自分を表現するか」を考え、落とし込もうとした結果だろう。