一般社団法人・渋谷未来デザインによるソーシャルイノベーションの祭典<SOCIAL INNOVATION WEEK 2023>が11月6日(月)から12日(日)まで開催された。150を超えるプログラムと、総勢260名以上のスピーカーが参加。メイン会場であるヒカリエホールを中心に、渋谷を突き動かすためのアイデアが飛び交う一週間となった。

今回はその中でも、2024年に渋谷区にて開催されるテクノロジー×アートのイベント<DIG SHIBUYA(ディグシブヤ)>を深掘りするトークセッションに焦点を当てる。登壇したのはアートギャラリー・NANZUKA代表の南塚真史氏、アーティストの村本剛毅氏、渋谷区産業観光文化部で部長を務める宮本安芸子氏、indigo株式会社の代表取締役社長である寺西藍子氏の4名だ。クリエイティブやアートを街とリンクさせ、アップデートを図るには。それぞれの視点から見える“渋谷”を軸に行われたトークセッションを振り返る。

EVENT REPORT:
<SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA 2023>
テクノロジー×渋谷カルチャーで、新たなアートを体験 – DIG SHIBUYA 2024開催に向けて

アートプラットフォームとしての渋谷の“特異性”——<DIG SHIBUYA 2024>開催に向けた<SIW 2023>トークセッションをレポート art231121-siw2023-01
(L→R)宮本安芸子氏、南塚真史氏、村本剛毅氏、寺西藍子氏
アートプラットフォームとしての渋谷の“特異性”——<DIG SHIBUYA 2024>開催に向けた<SIW 2023>トークセッションをレポート art231121-siw2023-010
DIG SHIBUYA 2024 とは
 
2024年1月12日(金)から1月14日(日)の3日間に開催される、テクノロジーとアートを掛け合わせた最新カルチャーの体験イベント。
主催のSHIBUYA CREATIVE TECH実行委員会が、渋谷区とともに連携プロジェクトを公募し、採択された13団体を招聘。
渋谷公園通り周辺エリア、代々木公園ケヤキ並木、渋谷区立北谷公園、などの公共スペースや周辺のギャラリースペース、Spotify O-EASTなどで国内外のアーティストの作品が展開される。
南塚氏は本プロジェクトの公募プログラムの審査を務め、
村本氏は公募プログラムに採択されたLived Montage Projectのメンバーである。

“既存のルールからいかに逸脱できるか”
渋谷という街が内包するコンテクスト

渋谷における文化の新たな波をフックアップすべく立ち上げられたプロジェクト・SHIBUYA CREATIVE TECH 実行委員会。当プロジェクトについて、立ち上げのメンバーである宮本氏は「渋谷の文化を守り活性化させるためのビジョンを、パンデミックによって静かになった街で途方に暮れながらも考えた」ことが原体験だと語る。同時に、渋谷の文化産業への視線が海外から集まっていることも、宮本氏は実感していた。

それらの観点を掛け合わせ、SHIBUYA CREATIVE TECH 実行委員会はWeb3やAIテクノロジーといった注目度の高いクリエイティブテックにフォーカスしたイベントを招致。そして、その技術を街中で気軽に体験できる機会を創出すべく企画されたのが、来年1月に開催される<DIG SHIBUYA>なのだ。

渋谷駅前から代々木公園のけやき並木まで、点在するベニューを回遊するような形で展示が行われる<DIG SHIBUYA>。公募プロジェクトで採択された13団体について、選考委員を担当した南塚氏は、新しいアートの形を模索したアーティストたちが並んでいることを強調した。

南塚基本的に僕がギャラリーとして扱うアートは“ビジュアルアート”なので、ペインティングやスカルプチャーなど、既存のアートとしてのメディアを扱っており、古典的な美術のヒストリーに基づいている表現なんですが、<DIG SHIBUYA>に参加するアーティストたちはそこにハマらないというのがミソだと思います。広義でのアート、“新しいアートのかたちを模索する”という意味で、僕も目から鱗のアプローチがあったので、興味深いなと思いました

既存の業界にはない枠組みを採用し、それをアートとして提示する。南塚氏は、その逸脱への欲望と渋谷のカオティックな雰囲気との親和性を指摘した。

南塚そもそも“アート”というもので語りだすと、アートの概念自体がものすごく保守的に捉えなければいけないという世界ですので。僕が渋谷でギャラリーをやっていて、すごく大事にしていることは、既存の“アートはこうでなくちゃいけない”というルールの中からいかに逸脱できるかということ。それ自体、渋谷という街が持っているコンテクストであり利点になる

アートプラットフォームとしての渋谷の“特異性”——<DIG SHIBUYA 2024>開催に向けた<SIW 2023>トークセッションをレポート art231121-siw2023-02

アーティストとして、渋谷区がやっているこということがポイントになった

では具体的に、どのような展示が<DIG SHIBUYA>で行われるのか。

南塚の携わった採択団体の一つであるLived Montage Projectのメンバーである村本氏は、「何が何を見ているのか」という疑問——“見る”という行為において主語と目的語を扱う難しさに興味を持ったことが、プロジェクトのインスピレーションであると語る。

この展示ではカメラとディスプレイを合わせたゴーグルを装着した参加者たちの視覚がそれぞれスイッチし、各々のゴーグルに自身と同じ光景を見た他者の視点が投影される。

Lived Montage(series)

村本場を共有している全員の網膜が私の“見る”ということに映画的に入ってくる。言い方を変えると、 “ここにいる全員分の網膜を映画みたいに切り貼りした景色を見ながら生活する”。そういう架空の知覚の景色を実現したものです

さらに発想に至るまでについて、村本氏は「“アート”の話でいうと古典的な気持ちで作ったというか、(ポール・)セザンヌから(マルセル・)デュシャンにいたる“まなざし”の研究の自然な繋がりで作っていたので、(審査時に)そういった点も評価していただいたことが面白いと思いました」と話した。また応募の動機について、「渋谷区がやっている」「渋谷の街でできる」ということがポイントになったともコメントした。

上京時に感じた、渋谷の街に混在する視点同士の交錯。ディスカッションゾーンで、村本氏が渋谷という街の特異性について言及すると、南塚氏は「文化に対する寛容さとある種の無関心が、新しいものが生まれる土壌を育んだ」と考察した。

それを受け、寺西氏はSHIBUYA CREATIVE TECHが着目した文化産業に関連するスタートアップ事業をはじめ、様々なものを包含できる渋谷の懐の深さを指摘。「自分が何かをする場所ってみんな思っている」という宮本氏の評は、渋谷らしさを端的に表したものだ。

アートプラットフォームとしての渋谷の“特異性”——<DIG SHIBUYA 2024>開催に向けた<SIW 2023>トークセッションをレポート art231121-siw2023-03

最後に、登壇者たちはこれからの展望として「プラットフォームとして街を捉えること」を強調した。

宮本今回はまずプラットフォーム作り、仕組みを作りたいと思っていました。パブリックスペースはいろんな規制やルールがあるので、渋谷とはいえ簡単に発表の場には持っていけない。渋谷区や街の人々と一緒にオープンに場を作ろうというのが今回の取り組みなので、いろんなパブリックスペースがアートなどを披露できる場に発展できればと思っています

南塚みんな自由に参加できるイベントにしようということが共通認識になって、世界中から集まってきて面白いことが起こっていって、それが情報発信されて広がっていくってことが理想形なんだと思っています

時代の変化を経て滞った渋谷の文化の対流。新たな試みをきっかけに、インタラクティブな体験から生まれるカルチャーを提示する。街のポテンシャルを引き延ばすための実験は、まだ始まったばかりだ。

テクノロジー×渋谷カルチャーで、新たなアートを体験 – DIG SHIBUYA 2024開催に向けて|SIW2023 ARCHIVES

Text:風間一慶
Edit:Yuto Nakamura

INFORMATION

アートプラットフォームとしての渋谷の“特異性”——<DIG SHIBUYA 2024>開催に向けた<SIW 2023>トークセッションをレポート art231121-siw2023-06

SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA 2023

2023年11月6日(月)~11月12日(日) 
会場:渋谷ヒカリエホールほか渋谷区内施設
入場料:無料(一部有料プログラムあり)
開催方法:会場観覧、オンライン配信(一部プログラムを除く)
コンテンツ:Conference、Idea Session、Experience、Networking、Award、SIW CONNECT
プロデューサー:金山淳吾(一般財団法人渋谷区観光協会代表理事) / 長田新子(一般社団法人渋谷未来デザイン理事・事務局長)
主催:一般社団法人渋谷未来デザイン
共催:渋谷区
後援:アイスランド大使館、フィンランド大使館、国土交通省、文部科学省、東京都、渋谷区商店会連合会、一般財団法人渋谷区観光協会
特別パートナー:公益財団法人日本財団
企画制作:SOCIAL INNOVATION WEEK 実行委員会
詳細はこちら

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DIG SHIBUYA 2024

2024年1月12日(金)から1月14日(日)の3日間
開催場所:渋谷公園通り周辺エリア、代々木公園ケヤキ並木、渋谷区立北谷公園、などの公共スペースや周辺のギャラリースペース、Spotify O-EAST他
参加費用:無料(ただし、一部のプログラムは有料)
主催:SHIBUYA CREATIVE TECH実行委員会
共催:渋谷区
後援:一般財団法人渋谷区観光協会、一般社団法人渋谷未来デザイン
助成:令和5年度日本博2.0事業(補助型)(独立行政法人日本芸術文化振興会/文化庁)
アート企画・回遊施策企画(FUN FAN NFT提供):スタートバーン株式会社

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