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<Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2018>は、3年に一度、横浜で開催される、バレエ、コンテンポラリー、ストリートなどオールジャンルを対象とした、日本最大級のダンスの祭典だ。今年は8月4日から9月30日まで約2ヵ月の開催期間中に、大小約200プログラムを実施。

その演目のひとつとして、赤レンガ倉庫で、森山未來とノルウェーの振付師でダンサーのヨン・フィリップ・ファウストロム、そして、作曲家で音響作家の及川潤耶の共作『SONAR(ソナー)』世界初演された。

Report:『SONAR』
森山未來、ヨン・フィリップ・ファウストロム、及川潤耶
Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2018

『SONAR』は、森山とファウストロムが振付・出演し、及川潤耶が音楽を手がけた、ダンスパフォーマンス作品だ。公演を見終わった後だと、ダンスパフォーマンスという表現がふさわしいのか甚だ心もとない。ダンスを主体に見せる公演であるは確かだが、もっとこのパフォーマンスにふさわしい言葉があるのではないだろうか。帰路、同行者に「インスタレーションみたいな公演だったね」と話している人がいて、なるほどそれも一理あるなと思った。

そもそも「SONAR」とは、超音波を意味し、“水中を伝播する音波によって、水中や水底の物体に関する情報を得る水中音波探知機”をさすこともあるそうだ。クジラは「SONAR」を使い数キロ先の相手ともコミュニケーションが取れ、お互いの距離感をつかみながら回遊できるそうだ。同時に、船から出ている「SONAR」のせいで迷い込んで(沖に)打ち上げられることもあるという。森山は、「日本とノルウェーの共通点を考えていく中で、捕鯨文化に思い至った」とあるインタビューで語っている。『SONAR』は、そんな「言語を飛び越えたコミュニケーション」をテーマにした作品だ。

上演時間は約60分。あえて前情報を入れずに会場に足を運んだため、入場の際、「オールスタンディングです」と言われた際には自分の体力に少し不安を覚えた。

会場となるホールのドアが開かれたのは開演の数分前だった。どこが正面かはわからない。どこでどんな風に始まるのだろうか。観客はがらんとした会場に、所在なげに佇むしかなく、自然にホールのセンターへと集まる。しかし、すでにこの公演を見ているのであろう一部の観客は迷いなく確固たる立ち位置を決めているようだ。

森山未來、ヨン・フィリップ・ファウストロム、及川潤耶の3名による振動。ダンス作品『SONAR』を写真付きでレポート art_sonar_MAX_55-7-1200x800

自分の立ち位置を決め、会場を見渡すと会場の壁の付近にはすでに森山が、その対角線上の壁にはファウストロムが存在していて二人は壁沿いを歩いている。やがて二人は音を発する。言葉ではない、あくまでも音である。ムーム? ムーン? 文字にするのは難しいが、生きものの魂の叫びのような、波動のような、振動を感じる音だ。二人が発する音のピッチは少しずれていて、もしかしたらこれが「SONAR」なのだろうか。

そして二人は動き出す。その速度は次第に増し、やがて走りだす。最初はお互いを認識しないかのようにすれ違っていた二人だが、次第に交差するときには、肩や体をぶつけあうようになる。会場の空気が動き出し始めた——。

二人は音を発しながら観客という雑踏のなかを “回遊”しはじめ、今度は言葉を発する。

「そこに誰かいる?」
「Anybody there?」

そんな言葉を口にしながら、観客の間をすり抜けるように泳ぐ。クジラは波動を確かめあい、お互いを確認して、生きているのかもしれない。

しばらくするとダンスが始まった。二頭のクジラはそれぞれ別の場所で踊ることもあれば、片方が静止し、片方が激しく踊ることもある。ダンスをしながらぐるぐると場所を変えていくこともあった。踊りながら、観客との間に道を切り開いて行く表現がまた面白い。

このあたりでスタンディングがそうつらくないことに気づいた。観客も二人の出演者のパフォーマンスに合わせて、自由に“回遊”できるのだ。演者と触れあうくらい間近にパフォーマンスを見ることができるという事実にも高揚する。森山やファウストロムから滴り落ちる汗を踏みながら、観客はクジラとは別の種類の魚のように、海藻のように思いのままに動きまわる。そして、その場に身を置いているうちに自分も作品を構成する一部になっていることを認識する。森山、ファウストロムの動きに合わせ、観客が移動するシーンは、まるで魚の群れの移動のようだ。

森山未來、ヨン・フィリップ・ファウストロム、及川潤耶の3名による振動。ダンス作品『SONAR』を写真付きでレポート art_sonar_MAX_55-18-1200x800

ようやく対面を果たした二人は、正面に対峙し口を覆った両手で一つにながった。そして、お互い息を吐き出すように音を発する。呼気と吸気がぶつかり合う音、とでも表現すればいいのだろうか。それを見ながら、こちらも呼吸が苦しくなり、時に唾を飲むのもはばかられるような緊張感にさいなまれる。また時には癒されることもあった。なんだろう、この不思議は——。後から聞いたところによると、意識的にレム睡眠の波動に近い音を出していたという。

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二人は離れ、またそれぞれ動きだし、再び出会い、最後は光の中で踊り始める。

約60分の上演時間のうち、いわゆるダンスをしている時間はごくわずかだ。音、動きなど、体全体を使った身体表現と、及川のギターとプログラムが司る、生命を持っているかのような音が融合し、“振動”を作り出す。聞けば、及川が複数のダンサーと「共同」で音を作ったのは今回が初めて。日々アドリブ的な動きがあるため、それに呼応するかたちで、音を作り、演者二人の音をサンプリングするなど、非常にインタラクティブな試みだったという。

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パフォーマンスの解釈は人それぞれだ。たとえば、筆者は視覚化された「SONAR」を見た、そんな感覚だった。身体表現、音はもちろんのこと、シンプルだけれど雄弁な衣裳、演者との境界がない観客の動き、会場、照明、息づかい——すべてを用いて観客を深海に誘い、「SONAR」を表現しているのだろう。これまで体感したことのない、パフォーマンスだった。

会場を出たとき、異次元から戻ってきたような、そんな感覚に包まれ、意識して大きく息を吸った。

公演オフィシャルサイト

text by 長谷川あや

Qetic編集部

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