1. スペースシャワーTVの映像作品「STATION ID」って?

ペースシャワーTVはなぜ面白いのか? その理由のひとつは様々なアイディアや手法を駆使して常に新しい音楽やカルチャーを果敢に紹介し続けてきたからだと思う。ミュージック・ビデオを垂れ流すだけの単なるプロモーション・メディアではなく、彼らはポップ・フィールドから“超”アンダーグラウンドまで幅広い視野を持ち、本当に良い音楽をいち早く察知し、視聴者に伝えていこうという努力を怠らない。こんな音楽への“愛”と“クリエイティヴ”溢れたメディアがこの国に存在していることを僕たちはもっと誇りに思ってもいいかもしれない。実際に彼らの功績はメディア業界における世界的なプロモーション/デザイン・アワード<2012 PromaxBDA Asia Awards>で金賞/銀賞を受賞するなど国外でも高い評価を得ているのだ(先日もスペースシャワーTV制作の2作品が映像カンファレンス<PromaxBDA Awards>で銀賞、銅賞を受賞!)。

そんな彼らの姿勢やヴィジョンを非常にわかりやく伝えてくれるのが、彼らがこだわり続けている「STATION ID」である。STATION IDとは番組間で放送されるステーション(放送局)のアイデンティティやメッセージを伝えるイメージSPOT映像のこと。以前、Qeticでも紹介したキャンペーン<MUSIC SAVES TOMORROW>のSTATION IDでは辻川幸一郎(サウンドはコーネリアス)、川村真司&清水幹太、中村剛といった気鋭の映像クリエイターを起用して大きな話題となったことも記憶に新しい。このようにスペースシャワーTVのSTATION IDは、彼の活動を体現するかの如く、新しい才能やクリエイティヴを世に発信する装置にもなっているのだ。この度、彼らが新たに打ち出したSTATION IDプロジェクト「SYNC.」がこれまた実に面白い試みなので、ぜひとも注目していただきたい。

2. STATION IDの新プロジェクト「SYNC.」ってなあに?

【特集】Google Chromeが一瞬でVJミキサーに! スペースシャワーTVがおくるSYNC.(THINK MIXER)がスゴい! feature130628_sync_logo

よく「iPodとiTunesをシンクさせる」なんて言うが、その場合のシンクは同期=重ね合せるという意味で使われている(シンクロニシティの略)。スペースシャワーTVの新プロジェクト「SYNC.」もこの“同期”がテーマとなったプロジェクトのようだ。つまり音と映像が何らかの形でシンクしているというのが今回の見どころだ。具体的に音やリズムを可視化したようなものも手法のひとつとしてあり得るだろうし、歌詞、世界観、グルーヴ、音の質感……いろいろなところにシンクさせるポイントはありそうだ。各ディレクターがサウンドやコンセプトをどのように解釈したのか、そのあたりにもぜひ注目していただきたい。またサブテーマとして今回は「様々な音楽がオンエアされるステーション」を体現するため、各映像ディレクターがそれぞれエレクトロニカ、ハードコアパンク、ジャズなど特定の音楽ジャンルをテーマに作品を制作している。制作する映像で使用する音楽のBPMを120に縛り(ちなみにBPMとは、1分間に刻む拍を示す単位のこと(Beat Per Minute)。時報の「ピッ、ピッ、ピッ」は1分間に60個並んでいるので60bpm。ヒップホップは80~90BPMくらいが平均で、ハウスがちょうど120BPMくらい。120BPMは心臓の音にも近いなんてよく言われている)、各映像ディレクターはそれぞれエレクトロニカ、ハードコアパンク、ジャズなど特定の音楽ジャンルをテーマに作品を制作している。それぞれのディレクターが音楽ジャンルをどのように解釈し、作品に落とし込んでいるのか、あなたも一緒にシンク=Thinkしていただきたい。

さらにこのための特設ウェブサイトを立ち上げると、自分のパソコンのブラウザがVJミキサー『THINK MIXER』に早変わり(これ、ヤバいです)! STATION ID全5作品の映像、メロディ、リズムなどを独自に組み合わせたり、ワイプやタイルなどのエフェクトを加えたり、あの手この手で映像と音をシンクさせて遊ぶことができるのだ。僕はこの手の機材を触ったことがなかったけど、簡単に遊ぶことができた(超面白い!)。これで遊んで自分でも映像や音楽を作ってみたいと思う人がでてきても不思議じゃない。そこまで考え抜かれたスペースシャワーTVの新プロジェクト「SYNC.」、ぜひあなたもいますぐチェックしてみていただきたい!

3. 実際に音と映像の“SYNC.”を体感してみよう!

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SYNC.『THINK MIXER』

これが『THINK MIXER』!自分のパソコンのモニターにこの画面が現れる。難しそうだけど、超簡単。直感で操作可能! 左の縦長のバーで楽曲を選ぶとその楽曲のリズムが流れ、右の縦長のバーで楽曲を選ぶとその曲のメロディが流れる。真ん中のモニターにはそれぞれの映像がミックスされて映し出され、下のバーでエフェクトを選ぶとまるでVJのようにいろいろな技が使える!! 映像も音も120BPMで統一されているので、気持ちいいくらい自然にシンクします。これは楽しいぞー!

<SYNC. 映像作品一覧>
1. ELECTRONICA

Director/Illustration:YKBX / Music:evala / Programming:平川紀道

ATAK所属に所属し、先鋭的な電子音楽を発表し続けるevalaのトリッキーなエレクトロニック・ビーツに、amazarashiのミュージック・ビデオなど独創的な世界観とアニメーションが国内外で高い評価を得ているYKBXがアニメーションをシンクさせている。エレクトロニカと呼ばれるサウンドの攻撃性、内向性、緻密さなど、いろいろな側面が凝縮されたシンボリックな映像作品。

2. JAZZ
Director:上山 亮二 (artico inc.) / Music:BudaMunk (Soul Jugglerz / Sick Team / Jazzy Sport)×金子 巧

ジャスはセクシーな音楽である。そうセクシーなのである。BudaMunkによるドープでジャジーな変則ブレイクビーツに、名だたるヒップホップ・アーティストたちのミュージック・ビデオを手掛けてきた奇才、上山亮二はスカッシュをして汗をかくブロンド美女たちの胸元やパンチラ=セクシーな映像をシンクさせている。ジャズの即興性、躍動感、そしてエロティシズムを見事に表現!

3. MINIMAL MUSIC
Director:maxilla inc. / Music:Kyoka

「ミニマル・ミュージック」をテーマにしたこの作品は、音楽をKyoka、映像をMaxillaが手掛ける。ループする何気ない日常で起こったあるアクシデント。その瞬間の時を静止させ、静止した時間の中を何かが動き回る。この映像はその何かの視点によって構築されている。Kyokaによるアーティーなミニマル・テクノも秀逸。この曲をミキサーでリズムとして使用すると、どの曲にもばっちりハマります。

4. CLASSIC
Director/Animation:水尻自子 / Sound:とくさしけんご

ユーモラスで可愛らしく、しかし強烈な中毒性を持ったこのアニメーションは手描きやコマ撮りアニメーションを得意とする注目の新鋭、水尻自子によるもの。音楽は作曲家のとくさしけんご。シンプルなようでいて、微妙な質感やニュアンスまで音と映像がしっかりシンクされている。「クラシック」をどこかコミカルに愛らしく表現しているのが面白い。

5. HARDCORE PUNK
Creative Director:Sk8ightTing / Producer:石浦 克 (TGB design.) / Sound:SELF COM

こちらのテーマは「ハードコアパンク」。エッシャーを思わせる螺旋状の階段が地下深くまで続いている。ミステリアスなその空間にデイスト―ションがかかりまくったアシッド・ベースが鳴り響く。作品を手掛けたのはストリートのキング、SK8THING。コアなパンク好きとしても知られる成海璃子を起用しているのもツボをついている。アンダーグランドで危険な臭いがプンプン漂ってくる。

これらの映像はすべて「SYNC.」特設サイトにてオンエアされているので、『THINK MIXER』とあわせてぜひチェックして欲しい! あなたも音と映像を “シンク”させることの楽しさに開眼してしまうかも!?

(text by Naohiro Kato)