バリアフリーなオンライン劇場、THEATRE for ALLが、5月~6月の期間、作家が身体表現の翻訳を考え、作品へのアクセシビリティを「ALL=あらゆる人」に向けてひらく実験的フェスティバル<TRANSLATION for ALL トランスレーション フォー オール>を東京・オンラインにて開催。
第1弾アーティストラインナップとして、「contact Gonzo(パフォーマンス集団) × やんツー(美術家)」による公演、「蓮沼執太(音楽家) × 梅原徹(音楽家・美術家) × 宮坂遼太郎(パーカッション奏者)」による参加型演奏会、「AR三兄弟(開発ユニット)・小林幸子(歌手)・鎮座DOPENESS(ラッパー)・ヨネダ2000」らによるアプリ配信&イベント、「オル太(アーティスト集団)、 Dance Base Yokohama(ダンスハウス)」による配信コンテンツなどが発表された。
新作3作品とそれらの創作過程を追ったオリジナルドキュメンタリー映像作品公開
2021年2月より開始したTHEATRE for ALLは、障害や疾患、育児や介護中で劇場に行きにくい方、日本語が母語ではない方に対して開かれた劇場を目指してきた。SDGsの機運醸成や多様性社会に対する意識も高まる中、2022年5月、共生社会の実現に向けて障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法案が施行。これは、障害者による情報の取得利用・意思疎通に係る施策を総合的に推進することで、全ての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく、人格と個性を尊重し合いながらを目指す法律だ。
しかし、現在、日本での映画のバリアフリー対応例は全体の16.3%にとどまり、90%以上の映画に音声ガイドやバリアフリー字幕が付いているアメリカと比較しても、情報保障が行き届いているとは言い難く、他国に大きく遅れをとっているデータも。(*2022年NPO法人メディア・アクセス・サポートセンター調査より)
THEATRE for ALLでは、これまで2年間、「バリアフリー字幕」「音声ガイド」に対応した動画を約150種制作・配信してきたが、演劇等の制作会社の知見を生かした独自の取り組みとして、標準的なバリアフリーだけでなく、作品コンセプトやその実験性に基づいて創作する「作家オリジナルのバリアフリー」の模索も取り組んできた。本フェスティバルでは、そのような取り組みを集めて紹介。新作3作品とそれらの創作過程を追ったオリジナルドキュメンタリー映像作品(河合宏樹監督)の発表をはじめ、アーティストや当事者の方々と共に新たに追求する様々なアプローチが体験できる内容に。
「歌:小林幸子・鎮座DOPENESS 作詞:川田十夢 作曲:蓮沼執太」新曲初公開
<TRANSLATION for ALL トランスレーションフォーオール>とは、視覚・聴覚の障害、言語の違い、移動に対しての障壁など、作品を届けるにあたって横たわる様々なバリアをアーティストや作品が各々の手法で乗り越え、アクセシビリティをALL=あらゆる人に向けてひらく挑戦を行うフェスティバル。
contact Gonzo × やんツーの公演では、人工知能が目の前のパフォーマンスを言語化し、AIによる視覚情報解説音声という新たな試みに挑戦。また蓮沼執太 × 梅原徹 × 宮坂遼太郎による参加型演奏会では、肢体不自由の方、聞こえづらい方、楽器の演奏ができずとも、誰でも参加できる演奏会とはなにか? という問いに向き合い、演奏会の時間の組み立てや参加/演奏方法を構築する。加えて、AR三兄弟は、いつでもどこでも再生できるARという形式を活かしながら、初公開となる新曲(歌:小林幸子・鎮座DOPENESS 作詞:川田十夢 作曲:蓮沼執太)を立体的にデジタル空間から発表する。
また、オル太が2017年から展開しているプロジェクト『超衆芸術スタンドプレー』が今回英語字幕が新たに配信開始となる。日常の中で出会う笑いを引き起こす現象を調査し、都市生活の中で生まれる無意識の身体の動きや人為的に仮設された街頭のオブジェがもたらす無作為の状況について明らかにしていく作品だ。そして、Dance Base Yokohamaで創作し、2021年に愛知県芸術劇場で初演を迎えた「ダンスの系譜学」より、酒井はなによる『瀕死の白鳥』オリジナル版、そして白鳥が自身の死因を踊りながら語る岡田利規演出、酒井はなと四家卯大のチェロによる『瀕死の白鳥 その死の真相』の2つの公演記録映像も英語字幕を新たに開始する。
さらに創作の段階から、アクセシビリティとコミュニケーションについてアーティストや障害当事者等と向き合いながら試作・クリエーションを重ね、そのトライ&エラーの様子もワークショップや記事、動画などで公開されることが決定。作家性に注目の集まる、幅広いジャンルの名うての表現者たちがつくり出すコンテンツ、そしてそれらの様々なアプローチをぜひ体感していただきたい。詳細はHPまで。
【ドキュメンタリー映像】河合宏樹(映画監督)
「Translation for All」におけるそれぞれのクリエーションの現場にて、個々のアーティストが障害に向き合うプロセスを追う、ドキュメンタリー映像プロジェクト。監督の河合宏樹は、これまでにも古川日出男、飴屋法水、七尾旅人など、独自の表現を追求するアーティスト達の姿を追いかけてきた。また、“ろう”の写真家、齋藤陽道の子育てを通じコミュニケーションのあり方にフォーカスしたドキュメンタリー映画『うたのはじまり』では、「絵字幕」という手法で聴覚以外の手法で音を届ける試みが話題を呼んだ。本プロジェクトでは「障害当事者とアーティストの対話を追いかけ、アーティストの試行錯誤や、障害当事者の方々の言葉をありのままにま映し出したい。テクノロジーやアートが障害にどういう影響をもたらすのか、果たして課題の解決になり得るのか、という視点を持って問いかけていきたい。」と意気込みを語る。
【全体統括】金森香(プロデューサー)よりコメント ーアクセシビリティへの挑戦ー
アクセシビリティ(Accessibility) とは、多様な利用者を前提に「サービスを円滑に利用できること」という意味に使われる「近づやすさ」「利用のしやすさ」という意味を持つ英単語です。THEATRE for ALLではサービス開始当時から、そもそも情報保障が行き届いていないという社会全体の課題を前に、個々の利用者に対していかに作品視聴の回路を切り開いていくか、必要とする利用者に情報を届けるか、事業運営を通して向き合い続けてきました。その中で、我々独自の取り組みとして、アーティストとの協働による、その創造的なアプローチにも挑戦してきました。この実験はまだ試行錯誤の途上です。今回のフェスティバルでぜひ様々な立場の方にご参加いただき、新たな議論が重ねられることを願っております。ご来場をお待ちしております。
INFORMATION
TRANSLATION for ALL トランスレーション フォー オール
内容:“身体表現の翻訳”をかんがえ、アクセシビリティを「ALL=あらゆる人」に向けてひらく実験的フェスティバル
【公演】contact Gonzo × やんツー「jactynogg zontaanaco ジャkuティー乃愚・存taアkoコ」
2023年5月19日(金)-21日(日)
会場:ANOMALY(東京都品川区東品川 1-33-10)
【参加型演奏会】蓮沼執太 × 梅原徹× 宮坂遼太郎「PLAY ?ーあそぶ?おとをだす?」
2023年5月27日(土) 14:30~15:30
会場:渋谷パルコ 10F 「ComMunE」および屋外
【アプリ配信・イベント】AR三兄弟「文明単位のラブソング」
2023年5月27日(土) 会場:渋谷パルコ(変更可能性有、詳細後日発表)
【配信】オル太「超衆芸術スタンドプレー」
2023年3月24日(金)~ 配信:THEATRE for ALL
【配信】酒井はな、岡田利規、四家卯大、Dance Base Yokohama
「瀕死の白鳥」、「瀕死の白鳥その死の真相」
2023年3月31日(金)~ 配信:THEATRE for ALL
主催:株式会社precog
助成: 公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京【芸術文化魅力創出助成】