【イベントレポート】
リバースメンター カンファレンス
<Z特区>
“今”の解像度を高め、未来を見つめ直す場所

リラックスした口調で交わされる、刺激的な議論。壇上にいるのは第一線で活躍しているZ世代の実業家やクリエイターだ。客席でしきりにメモを取りながら真剣な眼差しを向けるのは、長年社会を築いてきた30代、40代以降の意思決定層。一風変わったこのイベントは、7月19日に原宿・東郷記念館にて開催された<Z特区>。「サスティナビリティ」「政治」「エンターテインメント」など6つのテーマでそれぞれ45分のトークセッションを行うというものだ。

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優秀な若い人材がメンターとなり、上司や先輩に対して助言したり相談に答える“リバースメンター”という概念に基づいて企画された本イベント。それは立場の逆転というよりは、構造的・慣習的に意見が通りにくい立場にあった下の世代と対等に向き合う機会であり、より柔軟な社会を作るための第一歩目のように感じられた。そんな<Z特区>の中から、2つのトークセッションについてのレポートをお届けする。

“語れる”だけじゃ売れない。複雑なマーケティングの今

「ストーリーだけでは売れない」「共感消費の時代は終わった」。

「マーケティング」のトークセッションで紡がれたのは、消費や価値にまつわる革新的な言葉の数々だ。これまで主流とされていたマーケティングの方法論に対して、新たな視座が次々と提示されていく痛快なひと時だった。

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登壇したのは、5つのホテルを運営するホテルプロデューサー・龍崎翔子(27)、現代アーティストのプロデュースを行う吉田勇也(28)、アンダーウェアブランドONENOVA(ワンノバ)を手がける高山泰歌(25)だ。『SHIBUYA109』のマーケティングを行う長田麻衣(31)がファシリテーターを務め、「若者がお金を払いたくなるものは、これからどう変わっていく?」というテーマで議論が交わされた。

印象に残ったのは、商品やブランドの背景にあるストーリーを語り、共感を得ることで購買につなげるという“ストーリーテリング”についての話題。マーケティングの有効な手法として用いられることが多いが、受け止められ方の実態は変容しつつあるようだ。

「もともとは『環境に優しい』とか『エシカル』みたいな文脈で下着を作っていたんです。でも、それだけでは全然売れない。いくらストーリーを語っても『ファストファッションのブランドと何が違うの?』と。ものを作るなら絶対に必要とされないといけないと学びました。それからは、今の下着が抱える悩みを解決して、とにかく気持ちいいものを作る“課題解決型”に方向転換しましたね(高山)」

「今は誰でもブランドを作れる時代ですからね。ストーリーが乱立しすぎて誰も応援する必要性を感じていないし、“自分たちの代弁者”と思われにくくなっているんです(龍崎)」

アンビバレントな需要を読み解く。これからのマーケティング

SNSの浸透によって誕生したUGC(User Generated Contentsの略:ユーザーの手によって作成され、WEB上に公開されるコンテンツ。Instagramの投稿など)という概念もトークセッションのポイントとなった。

「2年前ぐらいであれば、お客さまがいかにSNSに投稿したくなるようなサービスを設計するべきという話をしていたと思います。でも、最近はユーザーの発信が瞬間的な消費に使われてしまって、購買に繋がらないという問題がでてきて。“ホテル紹介系アカウント”の情報も間違っていたりすることが多い。当時は『投稿してくれてありがとうございます』というスタンスでしたけど、今は削除してもらうことも多くて。できるだけSNSに流通する情報量を減らしているんです(龍崎)」

Z世代が持つ“映え”や“トレンド”に対するアンビバレントな欲求をいかに掴むかも、これからのマーケティングにおける重要な要素になりそうだ。

「消費者の目が肥えてきていますよね。綺麗すぎる情報はみんな嘘だと思われていて。女子高生とかもマーケティングの裏の裏まで知っているし、よくPR案件を指す『“案件”ですよね?』と言われます。でも、その一方で“映え”の概念もまだ存在しているんですよ。Netflixさんの世界観を体験できるポップアップイベントが開催された時は、みんな“映え”てるなと思われるのが嫌だから『〇〇の作品が好きだから行きました』という言い訳をしながら楽しんでいて(長田)」

真偽のわからない情報の氾濫や、たびたび目にする投稿の炎上。そうした中に身を置くことによる“SNS疲れ”によってリアルの価値が高まっているのも、近年の傾向といえそうだ。

「リアルとデジタルの価値が逆転しましたね。リアルで話すよりもSNSやSlackといったチャットアプリを送るときの方が『切り取られていつか流出するんじゃないか』と躊躇するようになったんですよ。マーケティングをするにしても、SNSで目立たせるのはコストがかかる。最近はビラ配りの方がCPA(顧客獲得単価」)が安いみたいな話も聞いていて。以前、新大久保が“若者の街”になって、渋谷が“おじさんの街”化しているという記事を読みましたけど、SNSも“渋谷化”しているんです(吉田)」

欲望の形は世代を問わない。視聴者が求めるもの

スマートフォンやSNSとの距離が近いデジタルネイティブの世代ならではの考えが語られる一方、「エンターテインメント」のトークセッションでは“世代は関係ない”という意見も度々飛び出した。

登壇者は『ショジョ恋。-処女のしょう子さん-(以降、ショジョ恋。)』などで話題の漫画家・山科ティナ(28)、3ピースバンド・Dios(ディオス)のボーカル・たなか(25)(前職ぼくのりりっくのぼうよみ)、短編映画『純猥談』などのヒット作品を手がける映像ディレクター・YP(28)。The Breakthrough Company GO(以下、GO)のコピーライター・有田絢音(28)がファシリテーターを務め、Z世代に人気のコンテンツを手がける彼・彼女らが“欲望”を掴むための方法論を紐解く、というテーマだ。

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「性愛にまつわる体験談をテーマにした『純猥談』という短編映画シリーズをYouTubeで公開しています。1作目ではセフレに振り回された女の子の小さな復讐を描いたのですが、その動画のコメント欄では『私もこんなことがありました』という視聴者の体験談がたくさん書き込まれていて、それにも更にコメントがついてるんですよ。みんな語りたくて、共感してほしい。

『作品を見た人はどう自分を重ねて話すことができるか』という視点がそういった“共感型”のコンテンツには必須ですよね。それって居酒屋で後輩に語りたいみたいみたいな、友達に聞いてほしいとか、誰にでもある欲望の延長線上で、世代とかは関係ないのかなと。Z世代に受けたのはYouTubeの視聴者層が多く存在していたという結果的な話だと思います(YP)」

欲望と恐怖を見つける。“バズる”エンタメ作りの方法論

漫画、音楽、映画とそれぞれのフィールドで的確に人気コンテンツを作り出す。そんな彼らが新たなヒットの種となる“欲望”を見つける方法も語られた。

「2019年に手がけた、『ショジョ恋。』は初の連載漫画でした。制作するにあたり、取材を重ねて感じ取ったのが、『自分を肯定したい』という欲求。最近はSNSによって周りと比較しやすい世の中になっているじゃないですか。そこで、いい素質を持っているのに自己肯定感が低い女の子が成長していくというストーリーに仕上げました(山科)」

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「作ったコンテンツが世の中でどうコミュニケーションされるかというのが大事だと思っていて。そのパターンは2つあって、1つは『純猥談』のように『自分もそうで……』という自分語りができる“共感型”。もう1つは“突っ込まれ型”。人って矛盾を見つけたら指摘したくなるんですよ。『間違ってますよ』『それってどうなんですか?』と言われるようなものです。これは間違えると炎上商法になってしまうので、“共感型”とバランスをとることも大事で。世代関係なく、その2つがうまく共存できているコンテンツが求められると思います(YP)」

次に来るのは“縛られ”の再評価? 自由に生きることの違和感

エンターテインメント業界のみならず、近年ポジティブに語られることが多いのが、会社などの組織から離れて“好きなことで生きていく”という姿勢。しかし、それは社会や制度が長年積み上げてきた合理性の軽視につながり、フリーランスとして生きることのリスクを覆い隠しかねない。「自由って手放しに称賛していいのだろうか?」。このトークセッションの終盤では、そんな違和感が見事に言語化され、生き方そのもののヒントになりそうな一節が語られた。

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「やりたいことをして生きるという感覚にもみんな飽きてきていて。次に来るのは自分の手が届く範囲の世界で修練を積み上げていく“筋トレ”のよう感覚なのではないかと。それは他人と比べずに、昨日より今日の自分がいいと思えるような価値観で。そういう意味では、“縛られる”ことももう一度注目されるべきなのかなと思います。社会を構築してきたシステムの老朽化が進んで、綻びが生じる一方で、そのシステムが全部悪いというわけじゃなくて。システムに乗って“クンフーを積む”という概念もやっぱり必要なんじゃないかと。例えば、普通の会社に入って何十年働いて、下積みをするという考えも今後戻ってくるだろうなと思っていますね(たなか)」

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違いの中にある“同じ”と向き合う場所

スマートフォンやSNSに慣れ親しみ、目まぐるしく変化する“あたりまえ”の最先端に触れる。そんなZ世代に固定観念を何度も塗り替えられながら、同時に覚えたのは「世の中をよくしたいという意識は一緒」というある種の連帯感だった。イベント終了間際、主催者であるGO代表でクリエイティブディレクターの三浦崇宏はこう語った。「世代が違う人の話を聞くからこそ、本質的に同じものが見えてくる」と。

「世代が違うから理解できない」と拒絶するのではなく、コミュニケーションを通してお互いの共通点や、世代ごとの得意・不得意を知り、解像度を高めていく。その作業を繰り返すことによって、社会はより良いものに変わっていくのだという確信を持つことができた。その第一歩目である<Z特区>が今後も開催されることを期待したい。イベントのコンセプトにもあるように「ここが、未来」なのだ。

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取材・文/山梨幸輝
写真/Kazma Kobayashi

INFORMATION

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リバースメンター・カンファレンス『Z特区』

[開催日時]7月19日(水)11:30〜20:00
[会場]東郷記念館(リアル参加限定)
[主催]The Breakthrough Company GO

Z特区公式ページ