青山礼満(アオヤマレマン)
CLUB OPUST代表
1993年3月15日
東京都世田谷区下北沢出身

ホストクラブにおいて、「No.1」とはその月一番価値があった男の子のことを指す。
入店して数ヶ月でNo.1になれる子もいれば、数年かけても一番になれず、やめていく子もいる。自身で勝ち取る1番がなによりも嬉しいが、可愛い後輩が1番になることも嬉しいもんだ。
今回はそんな僕が大好きな後輩の話をしよう。

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4年半前、4回目のコラムで話したお客様のおかげで僕も少し売れだしていたころ、
一人の男の子が体験入店に来てくれた。
少し人見知りの男の子で、かなりオドオドしていた。
第一印象は勇気を持って歌舞伎町に来たのかなぁって感じ。
その男の子は、まだ高校生のような顔立ちで中学生くらいの身長。
茶色のハットを被り、バーバリーのトレンチコートを着て、アディダスのスニーカーを履いていた。
面接前にサッカーをしてきたのかなと思うくらい、靴が汚かったのを覚えている。
年齢を聞くと、18歳とのことだ。
ハキハキした感じもあまりなかったので、売れるまで少し時間がかかりそうだなと思った。
このときは、まさか自分の一番かわいい後輩になるなんて思ってもみなかった。

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入ってすぐの印象は、
声が小さい、滑舌が悪い、人見知り。
ホストに必要なトークスキルが皆無だ。
でも無理もないと思う。まだ18歳でギラギラした歌舞伎町に来たのだから。
僕が16歳で初めて夜の六本木に遊びに行ったときのことを思い出した。
眩しいネオン街がこれから起こるであろう楽しみに誘惑し、一歩踏み外せば二度と家には帰れないであろう不安で手が汗ばんだ。
場所は違えど、きっとあのときの二人の表情は一緒だったんじゃないかな。

正直、いつ仲良くなったとかいつからよく遊ぶようになったとか全く覚えてない。
でも、気づいたら毎日ご飯を一緒に食べて、頑張ったときにはご褒美をあげて、彼が落ち込んでいるときは元気づけたり、めちゃくちゃ怒ったり。
ただ思い返せば僕のお客様のアフターにしょっちゅう付き合ってくれた。
いや付き合わせていた。

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彼は、僕のお客様の心を掴むのが上手かった。
なにか特別なスキルがあるわけでもない。
アフターにめんどくさそうに来るわけではなく、仕事だからとか僕のためだからとかそういうのじゃなく、楽しませるとか癒やすとかそういうんでもない。
人に寄り添うのが自然とできる人だ。
これってすごく才能で、なにか特別な技術で懐に入るわけではない。
着飾らない彼の性格が僕や他の人達を惹きつけた。

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そんな素敵な彼でも売れるのには時間がかかった。
ホストには、瞬発力が重要だ。初回接客の数分間で自分の印象を残さなきゃいけない。
初回では、ホストが10名前後入れ代わり立ち代わり席につく。
一人ひとり、短い時間の間でお客様にアピールをする。
顔がかっこいい子、雰囲気、トーク力、フィーリングが合うなど、お客様の選ぶ基準は人それぞれだ。
人見知りだからなんて言ってられないし、何を話したらいいかわからないなんて言葉も言ってられない。
僕らのお給料は時給じゃない。
初回できてくれたお客様が気に入って指名してくれて、初めてお給料が発生する。
だからこそ、従業員みんながあの手この手で初回のお客様を掴みにいく。

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ホストという職業は、通知表オール3の男の子は売れにくい。
たとえその男の子のほとんどが1や2であっても、誰にも負けない5があればそれはホストとしては魅力的でオール3の男の子よりも勝算がある。
なにか一つでもいいから、自分の長所を理解して最大限発揮するのが僕らの仕事ではとても大事だ。
もちろん、オール3の男の子が悪いわけではない。
重要なのは初回の接客時間が短い所だ。
これが僕の言う『瞬発力』
指名を取るまでは100m走で、指名をもらってからはマラソンというイメージ。
どうしても数分間ではいいところが目につく。逆にどんなに性格が悪くてもそういう部分を出さなければ見えにくい。

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彼は初回が苦手だった。自分の良さに気づいてもらうのに時間がかかるタイプ。
通知表でいうとオール3。
僕らが知っている彼の良さは、仲間思いなこと、多方面に気遣いができるとこ、ただこの部分はお客様から指名をもらうことにあまり直結しない長所だ。
一番イケメンなわけではないし、一番しゃべれるわけでもない。雰囲気はちょっぴりちんちくりんだし、フィーリング自分だけじゃ決められない。

でもオール3の彼でも売れないわけではない。
人より時間がかかるだけで、マラソンは得意だった。
思い返しても彼のお客様は指名してからの期間が長い。
分母は少ないが、一度掴んだお客様を離さない魅力がある。

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でも人間的に完璧なわけではない。
少しだらしない部分も当時はあった。
何回か仕事をバックレた事がある。
初めてバックレたのは、浴衣イベントのとき。
当日着てくる浴衣を買うお金がなくて、飛んだ。
数日連絡が取れなかったが、まだこのお店で働きたいと帰ってきた。
浴衣を買えずに仕事をバックレる。どんな理由だよ。
今ではテーブルトークの一つのネタだ。

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お酒を飲みすぎて、翌日気分が落ち込む性質の彼は無断欠勤して衝動的に実家に帰ることが多かった。
従業員にレンタカーを出してもらって実家まで迎えに行ったのは今ではいい思い出だ。
彼が駐車場に歩いて来るときの申し訳無さそうな顔は絶対に演技だったと思う。
帰りの道中も口数が少なく痺れを切らした僕らは
「めんどくさいから演技やめろ」と言ったら少し明るい顔になった。
無断欠勤した従業員を実家まで迎えに行くなんて我ながら愛情深いと思う。

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彼にとって心の拠り所は家族だ。
僕の心を掴んだ印象的なエピソードがある。
3人兄妹の長男で末っ子の妹を溺愛している彼はある日、ビーズのブレスレットを身に着けてきた。従業員からは「何そのダサいブレスレット」とバカにされていた。
でも頑なにブレスレットを外さない。
僕がどこで買ったのかを聞いたら、「妹が作ったんすよ」と恥ずかしそうに答え、
「給料入ったら自転車買ってあげたいんですよね」と言っていた。
そのとき、純粋になんてかわいい奴なんだろう、なんて家族思いなんだろう。
僕の中で彼の見方が変わった。
おそらくだけど、このときくらいから彼の人柄の良さに気づき始めたんだと思う。

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話は逸れたが、彼がなぜ「No.1」になれたのか

ホストクラブには「枝」という言葉がある。指名できてくれているお客様が友達を連れてきてくれることがある。この友達を僕らの業界では「枝」と呼ぶ。
既存のお客様が「幹」そのお友達が「枝」だ。

従業員からの信頼が厚かったり、お客様と仲が良いと「枝」を振ってもらうことがある。
初回のお客様よりも「枝」で来てくれるお客様のほうがリピートしてくれる可能性が高い。
ホストやお客様からの「この子仲いいから指名してあげてよ」というプッシュで指名が決まることも僕らの世界では日常茶飯事だ。
初回は瞬発力が大事と言ったが、「枝」に関しては信頼が大事になる。
もちろん瞬発力も大事なのだけれど……

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彼は枝を掴むのが得意だった。日頃のホストとお客様とのコミュニケーションにも長けている。
初回のお客様から指名をもらえなくても「枝」のお客様から確実に指名をいただけるのは信頼が厚いからだ。
彼にとっての転機となるお客様は僕のお客様の「枝」だった。

どんな子だとか、いくら使ったとか細かいことはここには書かないでおこう。
ただ、本当にありがとうを伝えたい。

あなたにとっては初めてのホストクラブで、すごく緊張していたのを覚えている。
普通に考えて、ホストクラブって行くのに勇気がいるよね。
彼のバースデーイベントの日、お店に行きたいけど行きたくないと不安なあなたと一緒にお店まで歩いたのはいい思い出です。
最初のころは2人が喧嘩したときよく間に入って2人の話を聞いたりしたよね。
今では2人の問題は2人で解決するようになって少し寂しいです。
3人で一緒に行った焼肉で延々と食べ続けるあなたにお会計が少し不安になったことや毎年誕生日であげているロンTをよくお店に着てきてくれること。思い出したらキリがないです。
あなたが口には決して出さない「好き」という言葉を行動や年月で証明していく姿勢。
僕の大好きな人を大好きって何年も想ってくれるあなたは僕にとっても大好きな人です。
これからもよろしくどうぞ。

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彼とは腹がちぎれるくらい笑った瞬間や楽しい時間もたくさん共有した。
人に言えないような恥ずかしい事件もあった。
そういう時間も確かにいい思い出。
だが、人が辛いとき、悲しいときにそばにいてくれる彼のほうが僕にとって記憶に多く残っている。

僕が素敵だなと感じる人はみんな、自分がマイナスに追い込まれたときに駆け寄ってくれる人だ。
たぶん、僕だけじゃなくみんなにとっても。

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君はみんなに必要とされている。
仲間からも、お客様からも。
悩んでいる後輩がいれば、朝が来るまで話を聞いていた。
泣いている女の子がいれば、隣に座って涙を拭いていた。

あの汚い靴を履いた少年だった君との時間も5年経ち、君は初めて「No.1」になった。
隣には、かつて君のバースデーイベントに行きたいけど行きたくないと言っていた彼女がいた。
何度も何度も見た2人の姿を思い出し、あのときよりも大人になった2人を目の前にして僕は涙を堪えることができなかった。
5年も経ったんだ……

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僕の人生で初めて少年が大人に変わっていく瞬間を見た。
弟のいない僕にとって君は弟のような存在。
このコラムを書いている最中もご飯の約束をバックレられ、最近は少し付き合いも悪くなった君だが、懲りずにこれからも誘おうと思う。
今回は僕から君に向けたラブレターだ。
人生初のラブレターが男の子に向けてなんて思ってもみなかった。
伝えたい想いが強すぎてまとまらないのがラブレター。愛なんてそんなもんだ。
君が面接に来たあの日、こんな未来が待っているなんて想像できたのだろうか。
5年越しの想いを君に贈りたい。

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実家から歌舞伎町へ向かう途中に“なんとなく考えて付けた”と言っていた源氏名。
きっとぼんやりとヒーローになりたかったんだろう
気付けば僕や僕の周りの人達にとってのヒーローになった。
期待と不安とほんの少しの勇気を持って、船橋から黄色い電車総武線に乗り込み
どんぶらこどんぶらこと揺られてやってきた。

そんな君の名前は
「桃太郎」

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「ホストの輪郭」~シティーボーイの現在地~

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青山礼満(アオヤマ レマン)

歌舞伎町ホストクラブSmappa!Groupのフラッグシップショップ「OPUST」代表。
お酒を飲めないながら軽快なトークと接客スキルを武器に最年少で店舗代表に抜擢。
業界最大級の大箱でNo.1を務める。
SNSやイベントプロデュースを通じた活動で歌舞伎町から新しい遊びの提案を行う。

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