Qeticでは『アートブックノススメ』として、毎月編集部がピックアップしたアートブックを紹介しています。
今回は年末年始特別版として、アーティストやクリエイターがオススメする書籍をご紹介! アーティストたちの本棚にはどんな本が並んでいるのか、中でもオススメの一冊とは!? リアルな本棚の写真や、お気に入り書籍の紹介コメントも。2022年に向け、新たなインスピレーションを与えてくれる一冊をぜひ見つけてほしい!
今回は、アンダーグラウンドなクラブカルチャーに基盤を置きながら、UNDERCOVERの19/20 AWメンズコレクションのランウェイショーのサウンドを手掛けるなど、唯一無二の存在感を放つDJ/ComposerのMars89が『レイヴ・カルチャー─エクスタシー文化とアシッド・ハウスの物語』/マシュー・コリンをピックアップ!
Mars89 -『レイヴ・カルチャー─エクスタシー文化とアシッド・ハウスの物語』
週末の夜になれば自転車に跨って街へ下り、轟音の鳴り響く暗い地下室で薄い酸素に喘ぎながら自分の体の形に空いた隙間を探す。そして汗や嘔吐や、つけすぎたパフュームの匂いを吸い込み、見知らぬ顔(いや、知っているのかも)と10cmの距離で、数分後には忘れているような内容の会話をかわす。掴みようのない何かを求めて。そんな日々が4インチの画面を通して見る数十メガバイトのメモリになっておよそ2年。満たされない日々と、絶え間なく流れ込んでくるバッドニュース。
社会や政治の腐臭を嗅ぎながらNO FUTUREと嘆き、あの頃は良かったと自分のものではない記憶に癒しを求める。あの特別な時代、倉庫の中で抱き合った人々に思いを馳せながらページをめくる。『レイヴ・カルチャー──エクスタシー文化とアシッド・ハウスの物語』。
しかしそこに書き現されていたのは、今の私たちが置かれた状態とそう変わらない状態の人々の姿だった。今だってあの頃だって待ち受ける未来はクソだった。しかしオルタナティヴなカルチャーに生きる者たちが常に未来を想像/創造してきた。いつだって都市生活者には都市生活者のブルースがあった。重低音の波の中でそのブルースが真っ赤に燃えるとき、私たちは生を実感し祝福してきた。聞いてくれ! 勢いを感じるんだ、ハイパーになろうぜ! ワルなボーイズ&ガールズ、赤い目をこすってる連中、勝手なことをやってる奴ら、イカれた連中、そのみんなに告ぐ……なんてこったい! 元気を出せよ! 息を吹き返せ!
レイヴ・カルチャー─エクスタシー文化とアシッド・ハウスの物語-マシュー・コリン
PROFILE
Mars89
妥協のないエレクトロニック・ミュージックで、東京のアンダーグラウンド・クラブシーンで最もユニークでエキサイティングな存在として知られている。UKダブステップ全盛期のサブベースや、ブリストルの特徴的なベースミュージックシーンの突然変異したリズムなどの音楽的な影響に加え、Stanley KubrickやDavid Lynchなどの映画監督、特に不気味で忌まわしいものに対する彼らの比類ない才能からも大きな影響を受けている。
クラブの群衆の潜在的なエネルギーに即座に火をつけるトラックや、ディストピアやバイオテクノロジーの崩壊を連想させる不穏な風景にリスナーを連れて行くアンビエントトラックが彼の武器であり、この2つをシームレスに織り成す能力こそが、自分の感性を使って世界全体をデザインするアーティストとしての彼の特徴である。このことは、Bokeh Versionsとの境界を超えたVRの探求や、Patrick Savileとのコラボレーションにも反映されている。
音楽以外では、UNDERCOVERの高橋盾とのコラボレーションプロジェクトでミリタリーウェアを解体し、真のパンク精神で反戦を訴えるコレクションを発表したほか、同ブランドからレコードもリリース。後者は、UNDERCOVERのAW19コレクションのために制作したショーのサウンドトラックをベースにしたもので、Virgil Ablohが主催するクラブナイト「Sound Design」で高橋がキュレーションした際に共演したThom Yorke、Zomby、Low Jackのリミックスが収録されてる。
なお、〈Bedouin Records〉より初のMix Tape『Cold Concrete, Wet Asphalt』をリリース。A面のみレーベルのサウンドクラウドで公開中だ。
さらに、2月11日、2月18日、2月25日と3週連続でContact TokyoにてPartyを開催。詳細は彼の公式Instagramで随時更新されるのでチェックしてほしい。
RELEASE INFORMATION
Cold Concrete, Wet Asphalt
Bedouin Records