Qeticでは『アートブックノススメ』として、毎月編集部がピックアップしたアートブックを紹介しています。
今回は年末年始特別版として、アーティストやクリエイターがオススメする書籍をご紹介! アーティストたちの本棚にはどんな本が並んでいるのか、中でもオススメの一冊とは!? リアルな本棚の写真や、お気に入り書籍の紹介コメントも。2022年に向け、新たなインスピレーションを与えてくれる一冊をぜひ見つけてほしい!
今回は編集者の西山萌が『Rooted』/Henk Wildschutをピックアップ!
西山萌 | Moe Nishiyama
『Rooted』(2019)/Henk Wildschut
“Roots(ルーツ)”とはなんだろうか。
自分の起源は?と聞かれたら、私はどこで生まれ育ったのかあたりまえのように再び戻ることのできる自分の故郷について答えるかもしれない。けれど、故郷を離れ見知らぬ地、逃れてきた人々が灼熱の砂漠の真ん中、仮設キャンプで作った「小さな庭」を見た時、“Roots(根)”について考えさせられた。
本書はパキスタン、チュニジア、イラン、ヨルダン、レバノン…そして今はなき「ジャングル」と呼ばれたフランス・カレー港における難民キャンプについて研究しているオランダの写真家・Henk Wildschut(ヘンク・ヴィルスフート)の自費出版による写真集『Rooted』。
ペットボトルの囲いの中の小さな花
ブリキ缶に植えられた数本の苗
簡易テントで守るように育てられる芽
根を下ろすことすら叶わず難民となった人たちが、それでも“根”を下ろすようにわずかな土に種を植え、植物を育てる。本書に掲載されているのは、「小さな庭」と、育てる人たちの言葉の記録だ。あなたにとって、庭はどんな存在なのか。著者は訪れるキャンプで聞いて回る。
故郷という言葉を離れた時、私たちはどのように“Roots”を作っていけるのだろうか。今でも難民問題は解決されていない。国境を越えた話だけではなく、2011年以降、日本でも仮設住宅で暮らす人たちが未だ多くいる。環境問題が進んだ先に火星移住計画なども話される。私個人が意見できることではないかもしれない。しかし背景を知らずに書店で写真集を手にとった私は、豊かさと明らかにかけ離れた状況下、訪れたことのない土地にある、その「小さな庭」の圧倒的な存在感に惹きつけられた。そしてなぜか、フリーランスになりたての頃、どこにも所属せず拠り所がなかったあの頃の感覚を思い出した。
根を下ろすこと。それはある種、ここで生きると環境を受け入れる覚悟にも似ているように思う。そして庭を耕す行為の積み重ねがやがて“起源”と呼ばれるものになっていくのかもしれない。「根を下ろす」ということ、そして「庭」の存在についてあらためて考えたいと思った1冊です。
PROFILE
西山萌 | Moe Nishiyama
編集者。多摩美術大学卒業後、出版社入社。雑誌『PERK』のエディター、デザイナーを経て独立。『TOKION』のリニューアル創刊に携わるほか、本と編集の総合企業SPBSでは編集的遊び場「SPBS THE SCHOOL」の立ち上げに参画。企画立案、取材執筆、キュレーションや場所作りなど。フィールドを横断し人や物事、空間や価値観の交わりを、束ねたり編んだり解いたり、雑誌的な編集から生まれる新たなクリエイションの形を模索中。