Qetic編集部が気になるあの人の本棚から、オススメの一冊を紹介してもらうオリジナルコラム企画『アートブックノススメ』。これまでにも多くのアーティストやクリエイターが愛読書を紹介してくれました。
話題の文庫本から写真集、マンガに純文学まで…。リアルな本棚の写真と共に、アーティストやクリエイターのルーツやインスピレーションの源を垣間見れるような連載となっています。あなたの生活にひと匙の彩りを与えてくれる、そんな素敵な一冊に出会えるかも。
今回は東京を拠点に活動する4人組バンド・新東京より、ベーシストの大倉倫太郎が『深夜特急』/沢木耕太郎をピックアップ!
現役大学生ながら<SUMMER SONIC 2022>や<Local Green Festival’22>に出演し、10月7日(金)に発売する初の全国流通版『新東京#123』がタワレコメンに選出されるなど、そのスムースで捻りのあるポップス感覚と類い稀なるスキルに裏打ちされた抗い難い中毒性を、いよいよ東京から日本中へと拡散しつつある彼ら。そんな新東京のボトムスを支えるベーシストの本棚とは一体?
大倉倫太郎(新東京)ー『深夜特急』/沢木耕太郎
あなたにとって本棚って何でしょうか。自分を映す鏡?知識の集積? 人生史? 僕の場合、それは本を入れる棚です。なぜこんなつまらないことを言うのかというと、もしそのようなものだったとすれば、僕という人間性が乱雑で整理されていないものであるということについて強固に肯定されてしまうからです。
写真をご覧になりましたでしょうか。ともかく僕の本棚は、決して品の良い棚ではありませんね。なぜこんな状態なのかと問われれば、それは僕の人間性が乱雑で整理されていないものであるからです。もっと様々な種類の本がもっと沢山散らかっていれば、あるいは人間性に問題のある芸術家の如き雰囲気でも出るのかもしれませんが、貸し借りが多かったり(返さなかったり、返ってこなかったり)、どこまで読んだか忘れてしまったり、結果的に僕の本棚はコンパクトで雑然としています。量に関しては実家に置いてきた部分を含めれば少し増えるかもしれません。その場合、散らかり方は同じか、もう少し過激になります。
本を紹介します。とはいえこのように知的で探究心にあふれたwebメディアの、さらに本についての記事を読まれるような素敵な皆様であれば語るに及ばずかもしれません。沢木耕太郎さんの『深夜特急』です。孤独で聡明な(加えて少し人間性に問題のある)主人公の、その体と僅かな金銭のみで東京からロンドンを目指す道程が紀行文的に描かれます。カジノに気を取られ、熊に追いかけられ、その他大小様々な経験を通して主人公は多くに気付き、そして学んでいきます。
なぜこの本を今回選んだのか、まずこの主人公が少し変です。時には大いに共感できる、しかし時には全く理解不能な思考で彼が進んでいくおかげか、感情移入するというよりも彼を俯瞰的に観察しているような意識で読むことになります。またそうして我々が彼を見るように、彼は世界の風景を見ています。主人公を取り囲む世界中の人間や街並みは、彼の目を通して鮮明かつ淡々と描写されていきます。
そしてそれは、単に彼はそういう人間で、街はそういう街であるというだけなのです。それらは我々の一部ではないですし、語りかけても来ません、けれど我々のとても近くに存在しています。この世のほとんどはそういったもので構成されており、もちろん本棚だって例外ではありません。
彼や、街の景色や、あるいはただ本を入れる棚に我々は何を見ることが出来るのでしょうか。その答えはまさしく人間の数だけあるのではないかと思います。そしてよく目を凝らせば、そこに僕の人間性も見えなくはないのかもしれません。
PROFILE
新東京
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RELEASE INFORMATION
新東京#123
2022.10.07(金)
新東京
NTM-123
¥3,800(in tax)
〈新東京合同会社/ArtLed〉