エイジアン・ダブ・ファウンデイション(Asian Dub Foundation :通称・ADF)が活動30周年を記念して、イギー・ポップやパブリック・エナミーのチャックDなどとのコラボレーションをコンパイルしたアルバム『94-Now: Collaborations』をリリース。さらには2025年1月には11年ぶりの来日公演が開催されることが決定した。
アップリフティングなジャングル/ドラムンベースにバングラを融合したブレイクビーツ、タフなダブのベースライン、ワイルドなギターに戦闘的なラップを重ねるエキサイティングなスタイルで90年代初頭より確固たる存在感を築いたADF。活動初期よりDJをメンバーに配していることもあり、ブリットポップに対するカウンターとしての“ミクスチャー・バンド”の先駆として知られるようになったが、バンドのギタリストである中心人物のチャンドラソニックは近年のインタビューで「伝統的なロックはあまり好きではなかったが、ティナリウェンやエムドゥ・モクターのようなマリ、ニジェールのギターバンドは例外だった」と明かしており、編成やジャンルとしてのカテゴライズよりも、パンク的なDIY精神と社会的リアリズムを追求するその姿勢こそが重要だったと思われる。来年の1月には、20年以上にわたり定期的に行っている企画として、マチュー・カソヴィッツ監督の映画『憎しみ』(1995)の上映に合わせてライブでサウンドトラックを演奏するパフォーマンスを行う予定であり、自らのルーツとコミュニティーを大切に、メンバーチェンジを続けながら現在まで精力的な活動を続けている。
Asian Dub Foundation – La Haine (Official Audio)
今回リリースされる結成30周年記念アルバム『94-Now : Collaborations』はベストアルバムと呼んでもさしつかえない選曲。全11曲ともにリマスターまたはリワークが施されており、アルバムトータルとしての統一感も申し分ない。そのなかで唯一の新曲となるのが、若きMCであるチャワーマンをフィーチャーした“Broken Britain”だ。バンドは今年7月のイギリス下院議会総選挙で反移民政策を掲げるナイジェル・ファラージの政党「リフォームUK」が支持率を伸ばしたことに危機感を抱き、彼らの活動の出発点となったイースト・ロンドンの「コミュニティ・ミュージック」で制作された。《移民を非難 それがあいつらの方針/小船が来るせいで国民の半分が貧困だと言う/ヘマをやらかせば隠蔽 謝罪する気もない》と政府を痛烈に批判するリリックと怒涛のパンキッシュなグルーヴは、うわべだけの理想ではなく、常に現実の社会問題にヴィヴィッドに反応し実践していくADFの面目躍如たる仕上がりとなっている。
ASIAN DUB FOUNDATION – Broken Britain ft. Chowerman (UK Election Special)
本作にはADFの行動力のもっとも顕著な例である、プライマル・スクリームとの“Free Satpal Ram”も収録されている。彼らは97年頃より、正当防衛で白人を殺害し投獄されていたUKエイジアンの労働者であるサトパル・ラムの釈放のためのキャンペーンを展開。内務省への投稿などを呼びかけ、英国内外の多くの人々による支援により投獄から15年後の2002年に仮釈放を実現させた。ADFのメッセージを届けることに大きな貢献を果たしたプライマル・スクリームもまた、ポリティカルな新作『Come Ahead』を今年リリースしたのは偶然ではないだろう。
Asian Dub Fondation – Free Satpal Ram (Primal Scream And Brendan Lynch Mix)
またエイドリアン・シャーウッドのプロデュースのもと、シネイド・オコナーとレディオヘッドのエド・オブライエンが参加した“1000 Mirrors”は、チャンドラソニックが自身の家庭内暴力の経験に基づいて作曲し、長年にわたり虐待を受けた夫を殺害した罪で終身刑を宣告されムスリム女性のズーラ・シャーにインスパイアされている一曲だ。2023年7月に死去したシネイドについて、チャンドラソニックは「私たちの世代のニーナ・シモンだった」と賛辞を惜しまないが、この曲のデモを聴いてシネイドが歌うことを快諾したことは必然だったと言えるだろう。1992年にアメリカのテレビ番組「サタデー・ナイト・ライブ」でローマ・カトリック教会内の聖職者たちによる児童虐待に抗議するためにローマ教皇の写真をカメラの前に掲げて破り捨てたパフォーマンスは未だに語り継がれる勇気ある行動であったし、彼女自身も幼少時に母親からの虐待を受けたことを明かしていた。罪を犯した人を告発し、声を奪われた人々、傷を負った人々を癒やし、肯定する。鋭い切っ先と包み込むような優しさと同居する。これこそがADFの真価であり、彼らのメッセージ性が時代を超越していることを証明する。未だに家父長制がはびこり、選択的夫婦別姓が実現しない現在の日本でこそ響いてほしいナンバーだ。
Asian Dub Foundation – “1000 Mirrors feat Sinéad O’Connor & EOB” (Official Video)
日本からリクル・マイとドライ&ヘビーを迎えた“Raj Antique Store”、オーディオ・アクティブが参加し《皆でひとつになるんだ》と繰り返される“Collective Mode”が収録。彼らにとって世界のアーティストとのコラボレーションはまさに「共闘」であったことが感じられる。なお日本盤には、写真集『STRUGGLE Reggae meets Punk in the UK』を上梓した石田昌隆による解説が収録されている。自身の豊富な実体験に基づく視点から各曲の背景が触れられているので、歌詞カードとともに読みながら聴いていただくことをお勧めする。
Asian Dub Foundation – Raj Antique Store ft. Likkle Mai & Dry and Heavy (Official Audio)
ADFはこれまで幾度となく来日しているが、個人的に最も印象深いのは2008年の<FUJI ROCK FESTIVAL>だ。リー・ペリー、エイドリアン・シャーウッド、マーク・スチュワートとレゲエ/ダブの重鎮が揃い踏みしたこの年、最終日のクロージングアクトを含め2日連続出演を果たしたADFとフジロックのオーディエンスと相思相愛とも言えるエネルギーの交換は忘れがたい。バンドとファンがまさしく共同体であることを感じられる、多様なグルーヴが混在する祝祭的なステージ。しかし、ヘドニズム一辺倒ではなく、直面する問題を共に考えていこう、というポジティブなヴァイヴがそこには流れている。
彼らが活動を開始した90年代よりもグローバリゼーションはさらに拡大し、差別と不正義は一向に収まらない。先見の明といってもこれは喜ぶことではないのだが、彼らの危惧はいまだ現実のものとなっている。決してノスタルジーではなく、現代的な問題意識を持った、今こそ聴かれるべきアクトだと言っていい。恥ずかしながら、自分はADFの発信するメッセージの数パーセントも理解できていなかもしれない。だが、そんなリスナーすらも受け入れてくれる懐の深さがADFにはある。プライマル・スクリームのボビー・ギレスピーから「英国最高のライブアクト」と称賛されたそのパフォーマンスをぜひ体感してほしい。
Text:駒井憲嗣
INFORMATION
94-Now: Collaborations
2024.12.13
Asian Dub Foundation
BEAT RECORDS / X-RAY PRODUCTION
01. No Fun ft. Iggy Pop (ADF30 Rework)
02. Comin’ Over Here ft. Stewart Lee (ADF30 Remaster)
03. Broken Britain ft. Chowerman (ADF30 Special)
04. 1000 Mirrors ft. Sinead O’Connor & Ed O’Brien (ADF30 Remaster)
05. Raj Antique Store ft. Likkle Mai & Dry and Heavy (ADF30 Remaster)
06. Taa Deem ft. Nusrat Fateh Ali Khan (ADF30 Remaster)
07. Culture Move ft. MC Navigator (ADF30 Remaster)
08. Free Satpal Ram ft. Primal Scream (Bendran Lynch Mix) (ADF30 Remaster)
09. Toulouse ft. Zebda & Chandrasonic (ADF30 Rework)
10. Black Steel in the Hour of Chaos ft. Chuck D (Live At Somerset House) (ADF30 Rework)
11. Collective Mode ft. Audio Active (ADF30 Remaster)
ASIAN DUB FOUNDATION
JAPAN TOUR 2025
OSAKA – 01.22 (WED) BANANA HALL
TOKYO – 01.23 (THU) WWWX
OPEN 18:00 / START 19:00
前売:8,800円(税込 / 別途1ドリンク代 / オールスタンディング) ※未就学児童入場不可
一般発売:
11月16日(土)10:00~
詳細はこちらチケットはこちら(Zaiko)