1960年代に日本で発祥したカラオケ文化が1980年代に中国へ輸出され、いま中国で独自の進化を遂げている。中国や台湾には現地のカラオケチェーン店があり、日本とはまるで正反対とも言える「お作法」もある。近年、コロナウイルスなどの影響で、市場は絶えず変化しているが、若者からお年寄りまで楽しめる娯楽と言える。

今回取材したのは、現在北京の大学院にオンライン留学する傍ら「C-POP研究所」として中国語ポップスの魅力をnoteやSNSで発信する太一さん

太一さんは、あるきっかけから中国語カラオケの世界にハマり、今や歌える曲は1,000曲を下らないそう。なぜ太一さんは中国語カラオケにハマったのか……? 愛好者の目線を通して、その隠された魅力や楽しみ方に迫る。

Interview
太一(C-POP研究所)

近代の台湾ポップスに触れたとき、中国語カラオケへの道が開けた

知らない言語の音楽を聞いたときは、歌詞の内容より音楽性が気になる方も多いだろう。太一さんがはじめに中国語ポップスと出会ったのは大学一年生の頃、中国語の授業だった。

「一年次は、中国人の先生が中華圏の大物歌手による名曲を色々と紹介してくれたのですが、あまりハマれなくて。二年次に別の先生がクラウド・ルー(盧廣仲)の“一定要相信自己(邦題:いつも信じて)”をギターで弾き語っているのを聞いたときに、初めて気になる曲に出会いました」

クラウド・ルーは1985年生まれ、台湾で国民的人気を誇るシンガーソングライター。日本のファンも多く、これまでも<SUMMER SONIC>に出演するなど、来日ライブも何度も行っている。

盧廣仲 Crowd Lu 【一定要相信自己 Trust Myself】Official Music Video

太一さんは後日、その先生に勧められて、桜美林大学孔子学院が主催する<全日本青少年中国語カラオケ大会>に自分も参加できることを知った。この大会は東京予選を勝ち抜くと、中国で行われる決勝に参加できるというもの。自身の声質と合うWANDSの“世界が終るまでは…”の中国語アレンジ版“直到世界尽头”をチョイスし東京での予選に挑むと、なんと初参加で決勝への道が開けた。

「この大会は交通費や中国への渡航費も出るので、当時大学生の僕にはありがたかったです。何より中国の決勝では、一般の方が参加する大会とは思えないほど、舞台設備や照明も豪華でした。その経験や他の参加者との交流から中国語カラオケや、カラオケ文化にハマっていきました」

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中国の決勝にて、舞台中央が太一さん

中国では、日本式をベースとしたカラオケ文化があり、「卡拉OK」もしくは「KTV」と呼ばれて親しまれている。中には女性が接待するようなお店もあるが、大衆文化としてのカラオケ店とははっきり分かれている。そして、大衆文化としてのカラオケ店は、日本式のサービスの枠を超え、独自の進化を遂げている。

曲の割込も自由?日本と全く異なる「カラオケお作法」に衝撃

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日本にあるKTV店内の様子  提供:STAR量販KTV

太一さんは、カラオケ大会に参加した際に上海のKTVに初めて行き、日本のカラオケとの違いに触れ衝撃を受けたとのこと。

「日本のカラオケと違い、KTVは照明がキラキラしていて、内装が豪華なところが多いです。初めて行ったときは、まるで異空間にいたような感覚でした。その時はほんとに5曲も歌えませんでしたね……」

中国では、基本的に大人数で行くことが前提とされている。カラオケ代は基本的に部屋代の人数割りのため、人数が多いほど割安となる仕組みだ。また、太一さんはもう一つ、日本とは異なる「お作法」にも最初は衝撃を受けたという。

「日本では、自分の順番が回ってくるまで待ちますよね。一方で中国では、好きなタイミングで曲を入れたり、割り込んだりするのも自由です。なので、日本人的な感覚で自分の順番を待っていると、いつまで経っても順番が回ってきません(笑)。また、日本では歌わない人は基本的には静かに歌を聴くのがマナーですが、中国ではサイコロを回して飲みゲーをするなどして、皆自由に過ごしています」

最新のKTVでは、「かゆいところに手が届く」エンターテイメント性と、配信曲が非常に多く、選曲の幅も広がっていることが特徴だ。カラオケのモニターで流れる映像は常に本人のMV。歌番組でのカバーバージョンや、ドウイン(抖音:中国のTikTok)で流行った曲もいち早く入荷。常に最新かつマニアックな曲が配信されているため、より多くの人が楽しめる。

「今話題の日本人が在籍する中国の男性アイドルグループ『INTO1』の曲、香港で話題の『MIRROR』、台湾のインディロックの曲も。マニアックなものが歌えるのが非常にうれしいです。また、『原唱』と言って、日本のカラオケで言う『お手本』のような機能で本人の歌唱付きで歌えるので、なんでも入れやすいですね。歌うのは好きだけど、歌えないかもしれないパートがあって、そこで静かになってしまうのが嫌な人も遠慮せずに選曲ができます。本当になんでもアリなので、著作権的な面が時々心配にはなりますが……」

日本でも、在日中国人が集まる東京池袋や大阪の心斎橋にKTVのお店があり、リアルな体験ができる。

「僕は関西在住ですが、2021年に中国から大阪心斎橋に進出した『STAR量販KTV』がおすすめです。内装が本場さながらに豪華でキラキラしています。価格も本場仕様で、良心的です。タブレットの大きい画面で選曲できるので、ワクワク感があります」

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提供:STAR量販KTV

池袋では、最先端のKTVのお店の他、昔ながらの中国語カラオケのお店や、串焼き屋さんにKTVがついているお店、「常駐歌手」がいるお店などもあり、多様な中国語カラオケ文化が楽しめるという。

中国語カラオケの世界に一歩踏み出すには?

とはいえ、大人数を前提とした中国語カラオケに一人で行くにはハードルが高い。太一さん曰く、「中国人の友達かKTVに詳しい人と仲良くなり、連れて行ってもらう」という手があるという。

「もちろん相手を信用できるかなどの見極めは必要ですが、SNSなどで発信している日中交流グループがあるので、そうした方々にコンタクトするのも良いと思います。僕の知っている方たちは、『身近に日本で中国語カラオケに行く仲間がいない』という共通の悩みを抱えていて、年に数回集まってカラオケで盛り上がりますよ」

歌そのものを一人で練習したいとき、また、カラオケで歌いやすい曲を知りたい時は、意外にも日本のカラオケで研究するのもアリだという。

「まずはJOY SOUNDの中国語楽曲ランキングを見て軽く研究することをお勧めします。誰もが知っている超定番の曲、かつカラオケで支持されている曲ばかりなので、その中で気に入ったものがあれば覚えてみると良いでしょう。ただ、長い間ランキングが更新されていないようで超定番の曲ばかりなので、という場合は、その時はドウインの曲や、アイドルの曲を聴いてみるのもいいんじゃないかなと思います」

自宅で練習したい場合は、本場のカラオケアプリがおすすめだ。例えば、中国で定番のカラオケアプリ「全民K歌」とほぼ同じ機能で日本でもダウンロードできる「全民Party」では、カラオケ機能のほか、交流機能も備わっているので、アプリ上で中国や台湾、香港のカラオケ好きな人々と交流したり、知り合いの歌を聴いたりすることもできる。

中国語のカラオケを通して、太一さんは中国語を究め、音楽にもどんどん詳しくなり、「C-POP研究所」を開設。noteやブログで、学業の傍ら中国語ポップスの魅力を発信している。

「中国語カラオケにハマってから、中国の方との交流も増えたし、日本の中国語カラオケ好きな方とのつながりも増えました。やる気のなかった中国語も上達して、話せるようになった。中国語のカラオケをはじめたおかげでそうなったのかなと思います。何より、中国語の歌を勉強して歌うということはコミュニケーションになります。カラオケ文化を通して、中国、台湾、香港の方と距離を縮められたらと思います」

中国語カラオケは、音楽、語学やコミュニケーションを通して、より自分の世界を広げられる遊びと言えそうだ。

Text:中村めぐみ

INFORMATION

C-POP研究所

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※中国語カラオケ大会について詳しく知りたい方はこちらのnoteもおすすめです。

※参照記事
KTV in China: On the path of decline or looming for another rise?