こんにちは。イシカワです。
改めて少しだけ自己紹介させてください。
普段は福岡県にある北九州市役所で働いていますが、週末は北九州や福岡のカルチャースポット巡り、レコードをディグり、コーヒーと酒を飲み、くだらない話をして生きています。
このコラム「とびだせ 北九州の週末カルチャーディガー」はイシカワが、気になる人やスポットをディグしつつ、ついでにいま心を捉えて離さない音楽や書籍もご紹介というコンセプトですが、あまり形にとらわれず、北九州ローカルのストリートカルチャーをボムしていきます。
連載4回目となる今回は「意志なき移住者」について。
市役所職員という仕事柄、北九州市に移住してきた人に会うと、その理由や住み心地、周囲の反応などが気になり、ついつい根掘り葉掘り聞いてしまいます。
そして、これはいつも感じていることなんだけど、「ワイは北九州市に住むんや」と強い意志を持って移り住んだ人よりも、「移住の意志はなかったけど、何らかの事情でそうせざるを得なかった人」の方が、ストーリーを抱えていることが多い。そのストーリーはときにネガティブであまり誉められたものではなかったりもするけど、出会うべくして出会うより、出会うはずのない出会いが起きる方がいいよね。何となく。ドラマチックだし。
今回紹介するRinsagaも、そうした「意志なき移住者」のひとり。
神戸生まれ、東京育ち。音楽関係者の父を持ち、テレビで目にする芸能人が家に遊びに来ることが当たり前で、いつでも新しい音楽やファッション、カルチャーに手が届く環境で育った。
それ故に早熟でもあった。エミネムの自伝映画「8 mile」に影響を受け、中学校を抜け出して仲間たちと六本木を練り歩いたり、EXILEやORANGE RANGEに熱中しているクラスメイトを横目に、ナイン・インチ・ネイルズやニルヴァーナなどを好んで聴いていた。
素行はあまりよくなくて、小学校を放校処分になったこともあるそうだ。小学生が仕出かすことなんて、大抵は大目に見てもらえると思うのだけど、いったい彼は何をしたのか。
そんなRinsagaが音楽活動を始めるのは必然だったが、始まりはちょっと遅めで、大学生になってから。同郷の同級生が作ったビートに、Rinsagaがラップを重ねる。当時はすっきりとしたレモンの甘酸っぱさでおなじみの清涼飲料水C.C.レモンにちなんで、C.Cという名前でステージに立っていた。彼を取り巻く華やかな家庭、明るい仲間たちとは対極に、リリックはとても焦燥感に満ちたものだった。
大学卒業後は広告業界に身を置いた。当然ながら多忙な日々を過ごすことになり、次第に音楽から遠ざかりつつあったが、yayelのメンバー・篠田ミルとの出会いがきっかけで再始動。自己解決できない焦りや渇きといったRinsagaの内心を、以前よりも強い言葉に変えて放ち始めた。
Rinsagaの半生を聞きながら、イシカワは段々と雲行きが怪しくなるのを感じていた。飄々と問いに答える彼の口からはしばしばネガティブな言葉が零れ落ちる。複雑な家庭環境、大人たちとの軋轢、承認欲求、死への強い関心、こうした闇の部分が彼の随所というか、むしろコアに据えられているのではないかと強く感じていた。諦観なんて言葉では片付けられない。これはもう、危ういなと。
そして案の定、(社会的に)死にかけて、すべてを失った。
2023年の秋、東京から遠く離れた北九州市にやってきた。理由はない。ただ、生きていくためにはそうせざるを得なかったから。
身を寄せることになった教会の雑用をこなしながら、ホームレス支援のための炊き出しの手伝いもやった。しばらくはこうやって、教会で誰かのために働くのかと思っていたところ、リサイクルショップをオープンするので手伝ってもらいたいと声がかかった。
訳も分からず北九州に連れてこられて、2週間後のことだった。住む場所も、仕事も、自分に選択権はなく、ただ従うのみ。
そしてRinsagaはリサイクルショップ『Find』のスタッフになった。
『Find』は地域の空き家や廃業したお店に残されたもの、捨てるには勿体無いものを、持ち主から思いを引き継いで扱っているエシカルなリサイクルショップだ。店内には小物雑貨や照明から家具まで、多彩な品々が所狭しと並んでいる。価格も数万円のものから、値段がつかないものなど様々。
ここに来ると、古いものの良さを再認識できる。きっとどこかのお婆ちゃんちにあっただろう小物入れやアクセサリー。どこかの誰かのリビングに架けられていただろう、どこかの誰かの肖像画。何十年もそこに存在し、しかし見過ごしてきたものに光をあて、内在した価値を顕在化させる。質素だけどその分どんな空間にも馴染んでくれるから、わざわざ新しいデコラティブなものを買い求めなくても、古くて良いもので事足りる。どれも一点モノだし、ちゃんとナラティブ。
『Find』は単なる回収販売を営むリサイクル商店ではない。その証左に、ここにある商品たちには定価がない。あるのは、その商品の上限価格だけ。商品に値を付けるのは、お客さん自身だ。当たり前になっている資本主義的な価値観について、いま一度考えるきっかけにしてもらいたいというFind流の問題提起だ。
上限5,000円の商品なら、1,000円でも3,000円でもいい。お財布の中身と相談しつつ、納得のできるプライスをスタッフに伝えればいい。自分で決められなければ、スタッフと会話しながら決めてもいいし、むしろ会話することをおススメする。この商品がどこから来たのか、誰が使っていたのか、商品として店頭に並べられるまでの背景も聞くことができるから。
『Find』の入るビルの2階には、このコラムでも紹介したことがある古着ショップ『Bloomy Days Vintage』がある。ここは北九州の古着好きが定期的にチェックに訪れるスポットなので、個性的なファッションに身を包んだ若者がいつも出入りしている。
それとは対照的に『Find』には年齢もファッションも様々な人たちが行き交う。
Rinsagaによると、ちょっと変わっていて面白いお客さんも多いとか。そうした人たちがお店のスパイスにもなっていて、使っていない楽器や雑貨なんかもお店に提供してくれるそうだ。
だけど、オープンな店構えのために、様々な人が集まるので予期せぬことが起こることも。しかしRinsagaは「見てて良くないなと思ったこととかは注意はしますけどね。でもできるだけ拒否したくないというか。他ではキツイけどここでは居たいと思えるとか言ってくれたりするんで。自分が話し相手で良ければ聞いていたいなと思ってます」。
そんなRinsagaの気持ちもあってか、『Find』はリサイクルショップ以上の意味を持ち始めている。
地域が魅力を放ち始めるきっかけは、新しい商業施設ができたとか、有名な誰かが評価してくれたとか、そんなことじゃない。誰かが始めた小さなことからコミュニティが生まれ、それがじわじわと拡大していく。それが狭いエリアで連続して起きて、コミュニティ同士が程よい距離感で繋がっていくことで、その地域全体が熱を持ち始める。そしてその熱は簡単には冷めない。
『Find』がある小倉北区の馬借・中島エリアはまさにそんな場所。
繁華街からは少しばかり離れているけど、古着屋、雑貨屋、喫茶店、ギャラリー、バーなど規模は小さいけど個性あるスポットが群生し、それぞれが”たまり場”になっていて、程よく繋がるエリアになっている。
その中で『find』は、これまでになかった慈愛に満ちた”たまり場”になりつつある。多様な人が集うから、本来なら交わることのない趣味も嗜好も世代も異なる人との出会いもある。
Rinsagaがこんな優しい場を作ってしまうなんて、どうにも不思議だけど、気がつけば彼が北九州に来て初めての夏を迎える。
今回の記事、取材から書き上げるまでに三か月もかかってしまいました。3月末には入稿のつもりでしたが、もう夏が迫っております。とりあえず、書けてよかった。
ところで私事ですが、最近、ある雑誌の取材を受けました。
公務員でありながら、こういう動きをしていると変わった人物とみられるのか、たまに取材依頼をいただきますが、滅相もございませんと全部お断りしてます。特に話すこともないってのもあるし、何よりも「〇〇な公務員」みたいな枕詞で括られてしまいがちなので。
でも今回は旧知の編集者とカメラマンからの依頼。何度も案件を共にした彼らなら、ちゃんとイシカワを理解して、表現してくれるという安心感があったのでOKしました。結果、取材というより、東京から遊びに来た友達と街をぶらぶらする感覚で、とても楽しい時間になりました。でも、ポーズをキメて写真を撮られるのは慣れないですね。やっぱり裏方がいいです。
では、最後にイシカワがおススメする音楽とか。
早くも今年のベストに出会っちゃったかも。
みんな大好きクルアンビン、4年ぶりのアルバム『A LA SALA』。彼らはこういう繊細なサウンドの方がいいよね。個人的にはここ数年の音は少し分厚すぎて、あまり心地よくないと感じてました。それは、いろんなアーティストとのコラボに偏りすぎていた事が原因なのは明らか。彼ら自身が原点回帰を志向し、メンバーだけで本来の音作りに取り組んだ今作はとても嬉しいのです。
Khruangbin『A LA SALA』
もうひとつ。現在、クルアンビンとUSツアー中というジョン・キャロル・カービー。個人的にも大好きなアーティストで、stones throw recordsから2023年にリリースされた『Blowout』はトロピカルで心地いい、超おススメのインストアルバムなんですが、日本で撮影されたMVがとても熱いので見て欲しい。こういうのが、いいんだよ。
John Carroll Kirby – Mates (Official Music Video)
じゃ、またね。