こんにちは。イシカワです。

改めて少しだけ自己紹介させてください。
普段は福岡県にある北九州市役所で働いていますが、週末は北九州や福岡のカルチャースポット巡り、レコードをディグり、コーヒーと酒を飲み、くだらない話をして生きています。

このコラム「とびだせ 北九州の週末カルチャーディガー」はイシカワが、気になる人やスポットをディグしつつ、ついでにいま心を捉えて離さない音楽や書籍もご紹介というコンセプトですが、あまり形にとらわれず、北九州ローカルのストリートカルチャーをボムしていきます。

前回のmunguni編から随分と間があいてしまったのは、容赦ない夏の暑さが全てのやる気を削り取っていったから。
ここにきてようやく酷暑が通り過ぎてくれたようなので、すっかり重くなった腕をふるって書き始めます。
北九州と立ち飲みとカルチャー」について。

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先日、北九州市で「角打ち」が減少しているという報道がありました。

「角打ち」というのは「カクウチ」と読んで、かなり簡単に言えば「酒屋さんのイートインスペースでの立ち飲み」のこと。イートイン付きのコンビニがあるけど、まさにそれと同じで、会計を済ませた商品を酒屋内のイートインスペースでいただくという、北九州のみならず全国各地で古くからある立ち飲みスタイルです。

まあ、実際には座って飲める店もあれば、後払いの店もあるし、酒屋さんがやってないけど角打ちとして認知されている店もあったりするので、角打ちの定義も結構あいまいです。

報道によると、この「角打ち」はかつて北九州地域には沢山あったけど、経営者の高齢化が進み、跡を継ぐ人もおらず廃業を余儀なくされ、徐々にその数を減らしてるってことだった。

角打ちが次々と姿を消しているというのはシビアに体感していて、北九州市にはイシカワが勝手に「レジェンド」と呼んでいた名店がいくつかあったのだけど、この数年でもう殆ど無くなってしまった。

中でも小倉北区紺屋町にあった「平尾酒店」は北九州角打ちの代名詞のひとつで、取材で幾度となくお世話になり、個人的にもしばしば立ち寄っていたお店だった。ZEN-LA-ROCKさんやnoncheleeeさんとお邪魔させていただいたこともあったので、店主のユカリさんはイシカワの顔を見るといつも、その場に少々不釣り合いなくらいに上品な言葉遣いで「ゼンラさんとノンチェリーさん、お元気かしらね」と、棚に飾られたサイン色紙に視線をやりながら、やさしい笑顔を向けてくれた。ローカルテレビ番組の撮影で松本人志さんやその他の有名人ともご一緒したこともあるのだけど、ユカリさんの口からは、なぜか決まってゼンラさんとノンチェさんの名前が出てくるのが不思議だった。

そのユカリさんは2022年に急逝した。突然の訃報はその日のうちに紺屋町やその周辺に広まり、悼む声があちらこちらから聞こえた。以来、お店の灯りは消えたままだ。

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通勤で毎朝夕、平尾酒店を通り過ぎるのだけど、その度に胸の奥がじわっと熱くなる。誰か、このシャッターを開けて、ふたたび明かりを灯してくれないかな。

前述の報道によると、角打ちの店数は減少したとはいえ、北九州市内にはまだ65店舗もあるそうだ。正直、半分も知らない。まだまだ見知らぬ名店があるってことなのかもしれないから、それはそれで新たな発見を求めて掘ってみる価値もありそうだ。

しかしだよ。この連載を読んでいるようなカルチャーにどっぷりと浸ってる「そのスジの者たち」にとって、古き良きスタイルの角打ちがベストな立ち飲みスポットかというと、残念ながらそうじゃないかもしれない。角打ちでの話題ってのは、次の日には「あれ?なに話したっけ?」ってくらい、その時間、その空間だけの刹那で、揮発性の高いものだから。それが良い時もあるけど、物足りない時だってある。

そこで提案したいのが、2つの立ち飲みスポット。せっかく小倉にいるのなら、出張や旅行で小倉を訪れたなら、小倉のカルチャー事情に触れない手はない。感度の高い情報は感度の高い場所から得られるのだから。

愛と自由の理想郷 Nutopia

JR小倉駅から徒歩15分の小倉北区馬借&中島エリア。この界隈は小倉駅前に広がる商業地域のさらに南側に位置する、いわば小倉の下町。路地が複雑に入り組んでいて、住宅と商店が不規則に建ち並んでいる。

このエリアの価値軸は、頑張り過ぎないゆるさだったり、面白いことの探求だったり、あるいは完全なるカウンターカルチャーだったりで、単調な商業意識に染まることを拒否した特徴ある個店がひっそりと集まっている。

今回ご紹介する立ち飲みスポットNutopia(ヌートピア)は、この界隈の重要カルチャースポットであるヨーロピアン古着店Bloomy Days Vintageに併設されたカフェだ。

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Nutopiaは古着店内に設けられたL字カウンターで営業している
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Bloomy Days Vintageはヨーロッパ古着を中心に取り揃えた個性的なお店で、北九州内外から古着好きが集まってくる。Bloomy Days Vintageについては、後日しっかりとこの連載でお伝えしたい。

ちなみにNutopiaとは、ジョン・レノンとオノ・ヨーコが1973年4月1日に建国を宣言した、コンセプチュアルな新しいユートピア国家(new utopia country)のこと。ジョンたちが言うには、理想郷であるNutopiaには、宇宙(cosmic)以外のルールは存在しない。Nutopiaには統治する政府すら存在せず、市民はあらゆる自由を享受できるのだとか。

とてもシンプルで、とても正しい。だけど、それを拒んで不自由を突き進む現実の世界って、いったい何だろうとか考えちゃうね。

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さておき、そんな純粋無垢な自由思想にちなんだカフェスポットNutopiaでは、オーナーである池部夫妻が全国を旅してセレクトしたスペシャルティコーヒー(Tsuki Coffee/山形)やクラフトビール(ISLAND BREWERY/壱岐)などが提供されている。

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こちらでは、オーナーやスタッフたちからファッションや音楽の話はもちろん、小倉のカルチャースポットや、いま起きているローカルムーブメントなど幅広い情報を仕入れることができる。

また、ここを訪れるお客さんはバックグラウンドも年齢も多様で、しかも個性的で感度の高い人が多いから、彼ら彼女らとのおしゃべりもまた楽しい。基本的に古着店の営業中はNutopiaも営業していて、2023年10月からはバー営業も不定期ながら本格化するそうだ。ぜひ立ち寄ってみて、小倉のリアルなカルチャーにふれてもらいたい。

酔いどれレコ屋 田口商店小倉店

そしてもう1軒、小倉のカルチャー系立ち飲みスポットとしてご紹介したいのがこちら。本コラム初回でご紹介した北九州を代表する老舗の中古レコードショップ田口商店小倉店。もちろんレコード店なので、お酒は売っていないし、飲めるような場所もない。

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しかし週末の夕方過ぎともなると、ビールを抱えた常連客が来店し、カウンターの隅で立ち飲みしている風景も珍しくない。

大量の音盤に囲まれ、缶ビールをあおりながら店主の川上さんとの音楽トークを楽しむという、最高の時を過ごすことができる。

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初見さんにはハードル高いけど、レコードを掘りつつ、カウンターで盤をクリーニングしている川上さんに話しかけてみてはどうでしょうか。

とはいえ、いきなり声をかけるのはハードル高いよ……という方にちょっとしたヒントを。店内でブライアン・イーノが流れているときは店主二日酔いです。萩原健一やサンハウスなら店主絶好調です。ひとつの目安にどうぞ。

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ちなみに、イシカワも頻繁にこちらで立ち飲みトークをしているので、合流も大歓迎です。

ただし、他のお客さんの迷惑にならないよう、節度を保つのがルール。この辺りは普通の角打ちよりも配慮が求められるのでご注意を。なんせレコード屋なんでね。

余談だけど、田口商店への愛をみんなで確かめ合うDJイベント「田口ナイト」もほぼ月例で開催しているので、こちらもチェックしてくださいませ。イシカワもたまにDJさせてもらっていますが、敷居が低いというか、敷居の無い、めちゃめちゃ楽しいイベントです。

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というわけで、今回は小倉の立ち飲みスポットを2つ紹介しました。

まだまだオススメしたい、カルチャー系立ち飲みスポットがいくつかあるんだけど、また機会があればご紹介しますね。

さて、今回もシメにイシカワがオススメしたい音楽をいくつか。

今年は精神状態が浮ついていて安定していないからなのか、これ最高!間違いなく今年のベスト!っていう音楽との出会いがなかったんだけど、気になる一枚がNINJA TUNEからリリースされました。どうにも形容が難しいトリッキーなサウンドだけど、非常に芸術点が高い稀有なアルバムです。

ちなみにロイシン・マーフィーは90年代半ばにダンスミュージックシーンに登場したトリップホップユニットmolokoのメンバー。本作の後にmolokoの1stを聞き直してみて、ああそういうことかと、とても腑に落ちました。最高。

Róisín Murphy – Hit Parade

もうひとつ。ここのところ良作をリリースしている韓国と台湾のドリームポップ/シューゲイザー勢。ADOYを筆頭に、The Fur.、Say Sue Me、‎Shin Hae Gyeong、Parannoul、FOG、I Mean Usなどなど、掘れば掘るほどカッコいい音に出会える。その中で異色の存在感を放つのが台湾の「恐龍的皮/The Dinosaur’s Skin(恐竜の皮/ダイナソーズ・スキン)」という男女デュオ。男性がT-Rex、女性がTriceratopsを名乗り、恐竜のかぶり物をしてステージに立つ。彼らが言うには、その音楽はジュラシック・ポップというジャンルで、芸歴は6500万年という、聖飢魔IIを圧倒するロングキャリアを誇っている。そんな音楽性を狭めてしまいそうな世界観(設定)をまといながら、二頭の恐竜がMen I Trustを彷彿とさせる浮遊感あるメロディアスなポップスを奏でる。彼らのインスタアカウントもシュールで面白いのでチェックしてみてください。

恐龍的皮/The Dinosaur’s Skin – Millions of Years Apart

じゃ、またね。

INFORMATION

イシカワ

北九州市うまれ。北九州市在住。北九州市職員。

Nutopia

〒802-0076 福岡県北九州市小倉北区中島1丁目3-5 Bloomy Days Vintage内

田口商店 小倉店

〒803-0812 福岡県北九州市小倉北区室町2丁目1−4

Nutopia