はじめまして。イシカワです。
縁あってコラムを掲載することになりました。よろしくお願いします。

少しだけ自己紹介すると、普段は福岡県にある北九州市役所で働いていますが、週末は北九州や福岡のカルチャースポット巡り、レコードをディグり、コーヒーと酒を飲み、くだらない話をして生きています。

このコラム「とびだせ 北九州の週末カルチャーディガー」はイシカワが、気になる人やスポットをディグしつつ、ついでにいま心を捉えて離さない音楽や書籍もご紹介ということで考えていますが、あまり形にとらわれず、北九州ローカルのカルチャーをボムし続けたいと思います。

第1回目は北九州市小倉のレコードショップ「田口商店」をディグしてみます。

北九州界隈のレコードディガー(音盤蒐集家)が集まる「田口商店 小倉店」。JR小倉駅から徒歩10分、小倉の街を南北に貫く紫川のそばにある小さな中古レコードショップ。その名は全国に轟いており、小倉を訪れたミュージシャンやDJが真っ先に立ち寄るスポットだ。ちなみに、看板はない。何年か前の台風で飛ばされてしまい、以来、そのまま。特に不都合は無いそうだ。

目測でざっと30平米ほどの店内に、ぎっしりと音盤が詰まっている。店頭在庫は驚愕の5万枚らしい(が、実際の数は誰も知らない)。主力は80年代以前の歌謡曲。もちろん洋楽やジャズ、クラシックもある。誰が買うのか分からない、地元の学校の校歌や会社で配られたであろう社歌のレコードもある。田口商店はディーラー買い付けをしていないので、店頭買取した物がそのまま棚に並ぶ。なので、ある時、急に特定のジャンルが充実したりする。発売日の決まっている新譜なら在庫があるうちにゲットすればいいけど、田口商店のような中古専門店では、偶然で刹那な一期一会を前のめりに掴みに行くしかない。小倉のレコードディガーたちは、「その時」を逃さないため、頻繁に田口商店に足を運んでいる。

とびだせ 北九州の週末カルチャーディガー|第1回は「田口商店 小倉店」をご紹介! column-taguchishouten-2

そんなディガーの聖地とも言える田口商店だけど、イシカワ宅から徒歩圏内ということもあって、ちょいちょいお邪魔してます。また、少し前まで北九州市のプロモーションを担当する部署にいたので、取材や撮影でも度々お世話になっていました。

田口商店とは公私にわたり少なからぬ縁があるものの、しかしこうして向かいあってみると、ココって昔からあるけど、そもそもいつからあるんだろう? 福岡市にも同名のショップがあるけど、どんな関係?? 以前からモヤっと疑問だったことを小倉店の川上さんに聞いてみました。

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川上さん(週の後半、木曜日から日曜日にお店にいらっしゃいます)

川上さんは大学進学を機に地元広島を離れ、小倉にやってきた。学生時代はバンド活動に明け暮れたそうな。そんな川上さんが同店でバイトを始めたのが1992年3月。当時はレコードに代わってCDが主力メディアの座を奪った時代。大きくて手軽さに欠けるレコードの市場が急速に縮小し、中古レコードが主力の田口商店の売り上げも厳しくなり、小倉店を閉めようかという話が浮上していたそう。

川上さんは、せっかく見つけたバイト先が無くなるのは困るので、レコードを売りに売りまくったそうだ。それが奏功して業績はV字回復。閉店は回避され、バイト入りから1年経たずに川上さんは店長になった。異例のスピード出世だった。

中古レコードショップ界の島耕作こと川上店長は店舗の内装にも手腕を発揮。天井まであったレコード棚を低くし、それまで棚で塞がれていた窓を開閉できるようにした。店内にやわらかな光が差し込み、風が吹き抜けた。次にレコード棚の上に観葉植物を置いた。まばゆい緑葉が風に揺れる、リラックス空間が完成した。が、窓が再びレコード棚で塞がれ、観葉植物が姿を消すまでそれほど時間はかからなかった。川上さんは笑いながら「そういう時期やったんよね、たぶん」と語る。

そんな気分屋の島耕作に、最近の北九州の中古レコードの動向を尋ねてみたところ、意外にも「メタルが来てる」と。もともと北九州にはメタルファンが多くて、入荷したそばから売れていくそう。かつてのHR/HMブームを通過した40〜50代に混じって、若者も買っていくらしい。このチルな時代にどうやったらメタルに辿りつけるのか、不思議だ。

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さて本題の田口商店の歴史だけど、今から50年前に遡る。創業者の田口南司社長が1969年、福岡市の赤坂に田口商店を構えたのが始まり。九州初の中古レコード屋だったとか。その後、1980年代に小倉店と福岡店が続々とオープンした(小倉店は現在と同じ場所で、福岡店は中央区大名で今はもう無い。ちなみに、福岡市界隈で田口商店と言えばKEYAKI店ですが、小倉店とはルーツを同じくするものの、現在では別経営となっている)。

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福岡店が存在した頃のショッパー(左)
小倉店のみになった頃のショッパー(右)

川上さんによれば、田口商店はもともと中古レコード屋ではなかったそうだ。「ちょっとしたファンシー雑貨(笑)」を中洲の路上で売っていたのが始まりで、徐々にレコードの取り扱い数が増えていったということらしい。

音楽好きが高じて始めたお店ということではなかったため、レコードの値付けも画一的で、当初は定価の1/2が売りに値になっていたそうだ。そこから徐々に市況に応じた値段がつくように進化していったが、現代のようにレア盤に数万円のプレ値がつくようなことはなく、売れそうなものはちょっと高め、そうでないものは控えめに、くらいのものだった。

ちなみに田口商店のキャラクターは「ミュー太」。命名は田口社長だが、キャラクターは公募で選ばれたものだとか。その姿かたちからは、音楽的なものが一切感じられないのはなぜなのか。

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ショッパーのミュー太と、段ボールのミュー太、微妙に顔つきが違うのも気になる。さらに、田口商店KEYAKIのHPを見ると「ミュータ」と表記されている。「ミュー太」と「ミュータ」、微妙な表情の差、この違いにどんなストーリーが隠れているのか。

「ミュー太最高やろ〜! 俺、田口社長のこと大好きやったんよ」と、川上さんは社長との思い出をたくさん話してくれた。前述の路上で売っていた「ちょっとしたファンシー雑貨(笑)」のこと、西鉄グランドホテルで福岡の経営者を前に壮大なテーマパーク事業計画を発表したこと、お客さんに配布していたブラックジョーク満載の「変な証明書」のこと。どこまで本気で、どこまで冗談なのか分からない、この辺りのエピソードは機会があれば改めてご紹介しますね。

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小倉店に残されている「変な証明書」のカタログ。
コンプライアンス都合で、お見せできるものが少ない(笑)。

さて、田口商店 小倉店に話を戻します。創業者である田口社長が1980年代に開いたこのお店は、存続の危機を乗り越え、2000年代に川上さん含む2名の共同経営に移行した。尊敬する社長はいなくなったけど、大切な看板も台風で飛んで行ったけど、屋号そのまま、現在まで田口商店の灯りをともし続けている。

このショップの魅力は、レコード高騰の近年にあって、昔から変わらない良心的な価格。7インチシングルだと百円で買えるものがたくさんある。LPも1000円以下のものが大半。どんなに高くても2000円ってところ。だから、制服姿の中学生がお小遣いでレコードを買いに来たりする風景も珍しくない。最近DJを始めた若者たちも足しげく通い、川上さんと音楽談義をしながら、情報と盤を仕入れている。

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そして最近、田口商店小倉店を巡り、新たなムーブメントが発生している。<田口ナイト>である。

2021年にスタートした、田口商店小倉店を愛する者たちによるDJイベントで、ほぼ毎月、小倉の音楽スポットMEGAHERTZで開催されている。最初は「田口で買ったレコードでDJしよう」という趣旨だったけど、最近はどこで買った盤かは関係なくなってる説がある。田口を愛するか否か、その「心のありよう」が問われるという次元にまで昇華された高熱量の沼イベントだ。幸運にも<田口ナイト>の夜に小倉にいるなら、ぜひその洗礼を浴びてもらいたい。

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田口商店については、ネタがあり過ぎて語りつくせないので、ほどよくキリのついたこの辺で第1回目はおしまいです。

では、最後にイシカワがオススメしたい音楽。寒さが続く日には、柔らかで心地よい音が恋しくなるもの。今冬は静かに心に火を灯しながら、Tomagaのラストアルバム、岡田拓郎の新作で春待ちです。

Tomaga – Intimate Immensity

Takuro Okada – Betsu No Jikan

INFORMATION

イシカワ

北九州市うまれ。北九州市在住。北九州市職員。

田口商店 小倉店

〒803-0812 福岡県北九州市小倉北区室町2丁目1−4