シングルという形では約1年ぶりに配信リリースされた2曲の新曲『東京エレキテル/クレア』を携えて東名阪にて開催されたFINLANDS主宰のツーマンツアー<FINLANDS×ukigmo presents TWO-MAN LIVE TOUR “kolmio”>。大阪公演には感覚ピエロ、名古屋公演にはヒグチアイをゲストに招き、熱戦を繰り広げてきたこのツアーが11月6日、東京・渋谷CLUB QUATTROにてファイナルを迎えた。
旅のゴールのお相手は、FINLANDSとは旧知の仲であるスリーピースバンド、ズーカラデルだ。過去にはFINLANDSのツアーにズーカラデルがゲスト出演したり、2019年には互いの地元に大阪を加えた3都市でのツーマンツアーを行うなど、ファンの間でもその親交の深さが知られているこの2組の久々となる顔合わせに心ときめかずにいるほうが難しいだろう。しかも意外なことに東京での共演は今回が初になるという。はたしてどんなシナジーが生まれるのか、目撃しないわけにはいかない。
LIVE REPORT:
<FINLANDS×ukigmo presents TWO-MAN LIVE TOUR “kolmio”>
詰めかけた互いのファン同士の息遣いや熱が入り混じって醸し出されるツーマンライブ独特のムード。バンド同士がそうであるようにファンの間にもどこか相通じるものがあるのだろう、ある種の緊張感や、相手方への好奇心をほんのり漂わせながらもワクワクとした親密な空気感が開演前の渋谷クラブクアトロに充満して実に心地よい。ゆったりと、しかし確実に膨れ上がる期待感。開演時刻を回ると同時に場内が暗転すると、ボブ・ディランの“Rainy Day Women #12 & 35”を登場BGMにズーカラデルがステージに姿を現し、「ズーカラデル、始めます!」という吉田崇展(Vo.& G.)の挨拶を合図に最新ミニアルバム『ACTA』の1曲目に収録されている“シアン”を演奏、”kolmio”最終日の幕を開けた。
満場のハンドクラップで盛り上がるオーディエンスに「手拍子ありがとうございます。めちゃくちゃ嬉しいです。でも、やらなくてもいいし、その場でクルクル回ってもいい。何をしてもいいから、好きなように最後まで楽しんでいきましょう!」と呼びかけながら次々と楽曲を披露するズーカラデル。MCではFINLANDSと東京で初となるツーマンライブの今日をとても楽しみにしてきたと声をはずませたり、鷲見こうた(B.& Cho.)に続けて吉田も「お互いに環境とかいろんなことが変わったけど、それでもしぶとく音楽をやり続けていることを本当に嬉しく思っています」と去就激しい音楽業界を共にサバイブしてきた戦友にエールを送り、自身の“しぶとさ”の証として10月に配信リリースされたばかりの最新曲“衛星の夜”をライブで初披露するという印象的なひと幕もあった。
さらにFINLANDS・塩入冬湖がゲストボーカルとして参加したことでも話題を呼んだ“どこでもいいから”(2ndフルアルバム『JUMP ROPE FREAKS』収録)を前に、「みなさん、ご存知でしょうか。実はある人が我々の楽曲に参加したことがあるんですよね。とても素敵な人なので、その謎の人物をこの場を借りて紹介します。謎の人物、カモン!」と塩入を呼び込み、生コラボレーションを実現。オリエンタルな情緒を孕んだ洒脱なズーカラデル流シティポップサウンドに吉田と塩入の歌声が奏でる絶妙なるハーモニー、なんと贅沢なひとときだろうか。ライブでは衣装である厚手の冬物コートがトレードマークのFINLANDSだが、ここでは黒のライダースジャケット姿、なおかつギターを持たずマイクのみで歌を響かせる塩入がとても新鮮に映る。
ズーカラデルからの温かなバトンを受け取ったFINLANDSのステージは、転換中のサウンドチェックを終えてそのまま板付きの状態からのスタート。これまたツーマンらしい演出にオーディエンスものっけからヒートアップする。FINLANDSのターンとなる1曲目を飾ったのはライブでも定番の人気チューン“カルト”だ。小気味よいテンポ感とグルーブにたちまちフロアいっぱいハンドクラップがはじけて、場内にいっそうの熱気が渦巻き、続く“ウィークエンド”に突入するや、バンドのテンションも一気に炸裂。軽快さと鋭さを合わせ持ったアグレッシブなアンサンブルがフロアを煽り立て、塩入の放つアジテーティブな歌声がオーディエンスをさらなる狂騒へと導いていく。
「今日は会いに来てくれて、本当にありがとうございます。今日が終わってみなさんが会場を出るときに“なんだか楽しみ損ねたな”とか“人に合わせてたから疲れたな”とか、そんなふうに思わない夜になればいいなって思いながら、ここにいます。みなさん一人ひとりの心は全員違うはずなので、さっき吉田さんも言っていましたけど、自分が思うように楽しんで、“kolmio”最終日を過ごしてください。私たちは一人ひとりが全力で楽しめるような1時間にしたいなと思っております」
ファーコートに身を包み、水を得た魚のようにジャーン、ジャーンとギターをかき鳴らしながら宣言する塩入。にわかに弦を掻く手のスピードが上がり、そうしてなだれ込んだのは“ピース”だった。ドラマ『村井の恋』のオープニングテーマ曲としても一躍、脚光を浴びたFINLANDS随一の“どストレート”なこのラブソングが場の昂揚を前のめりに押し上げていく。『村井の恋』に描かれているのは、担任教師に恋をした男子高校生・村井と、そのストレートさに戸惑いながらもいつしか惹かれていく教師・田中とのコミカルながらも駆け引きのない純粋な恋愛模様。物語のそうした想いを存分に反映させたこの楽曲の軸は、愚直なまでの推進力だ。衒いのないまっすぐな力に突き動かされ、心のままにひたすら拳を振り上げでは跳ね躍る、これほどに無垢で直球な快感が他にあるだろうか。1コーラス目を歌い上げ、客席に向かって「もっと来い!」と訴えるように両手で手招きする塩入、2コーラス目に入ると今度は自ら手拍子をしてフロアをとめどなく盛り上げていく。
普遍の共感をもたらす「自己陶酔で終わらせない姿勢」
「私は今の人生が好きだなって思うんですよ。自分の作りたいと思う歌を作って、それをみなさんに聴いていただいて、それを生業にしていて。全部が理想通りとはいかなくても、すごく満足のいく人生を今、送れているなって思うんですけど。そんな人生のなかでも、人の気持ちを変えることだけはどうしてもできないんだなって思う瞬間があって。生まれ変わったらでいいから、あなたの気持ちを私と同じにしてくれないかなって、思いながら作った曲です」
中盤に差し掛かるや、そう告げて歌われた“Hello tonight”の切々として募る思慕。綺麗事では誤魔化せない自分のなかの濁りや澱みもそっと抱きしめるような“like like”に滲む慈愛、“プリズム”に綴られたどんなに想っても重ならない「“わたし”と“君”の“悲しみ”」が、前半戦の熱狂を嘘のように鎮め、オーディエンスの胸を容赦なく締めつけるのだからFINLANDSの音楽はやはりただならない。単なる感傷ではない、どこか超越的で覚醒した俯瞰の視線が塩入の紡ぐ音楽にはあって、そのけっして自己陶酔で終わらせない姿勢こそが聴き手に普遍の共感をもたらすのだろう。誰もが抱えている、言葉では説明できない感情の機微をダイレクトに引きずり出し、それをいいでも悪いでもなく、まるごとそのまま抱きしめてくれるような懐の深さに、痛みを覚えながらも救われる気がするのは筆者だけだろうか。
再びアップテンポに転じた最新曲“東京エレキテル”こそ、まさしくその真髄と呼べるかもしれない。「私もずっと寂しさについて考えているけど、その寂しさの正体はわからないまま、これからもずっと付き合っていくものだと思うんです。今日の寂しさが解消されても明日はきっと別の寂しさがある。でも、それは誰もが抱えているものだから安心してください。私たちは寂しさを手にして、抱えて、生きていく生き物。私もちゃんと寂しがっている一員でありたいなと思っています」と語りかけた塩入の言葉を導入に演奏されたこの曲。艶っぽくもどこか乾いた印象を残す“一生もの”というワードのこれ以上なく刹那的な響きはライブで聴けばひときわ破壊力を発揮、ポジティブなサウンドとも相まって渋谷クラブクアトロを大きく揺らす。
私は私のできる限りで愛していく──『東京エレキテル/クレア』インタビュー FINLANDS
それにしても今日のFINLANDSはいつにも増して、なんと楽しそうなことか。ズーカラデルとの念願のツーマンがバンドをいっそう無邪気にさせているに違いない。“どこでもいいから”の生コラボに触れ、「“今日、吉田さんのことを見ますね”って言ったら、吉田さんに“僕は見ません”って言われて」「でも始まったら吉田さん、ちょっとこっちを見てくれたの。かわいくない?」と明かして客席の爆笑を誘った。(コラボを終えた直後の吉田も「緊張するから絶対顔は見ないって先に(塩入に)伝えておいたのに間違えて見ちゃって、はにかんじゃった」と吐露)
ズーカラデルとのファイナルの日。
一緒に歌わせていただく「どこでもいいから」のリハ前に「私歌う時合わせるために吉田さんの方見ますね」って言ったら吉田さん「僕は見ません(大笑顔)」って言ってて笑ったよね。あ、見ないんだ?って。
でも本番2回くらい見てくれた。ズーカラデルはずっと愛おしい pic.twitter.com/Danjvwdtyk— 塩入冬湖 (@fuyukofinlands) November 9, 2023
また、後半戦に入る際にもズーカラデルとの出会いを振り返りながら「友達だからじゃなくて、本当にすごく好きなんですよ。そういうバンドと一緒にライブをやれること、好きな人と一緒にいられることがいちばん健康的なことだと私は思っていて。だから今日はズーカラデルを好きな人、FINLANDSを好きな人が来てくれて、すごく健康的な夜だなって思います」といつになく素直な心情を口にして、改めて感謝を表明する場面も。
“Stranger”からなだれ込んだ後半戦の熱狂はもはや加速の一途。「ラストスパート!」と塩入が叫んで、投下された“クレア”でのステージとフロアが渾然一体となった白熱ぶりはこれが最新曲なのかと目をみはってしまうほど。髪が乱れようが汗が張りつこうがお構いなし、理性のタガなどとっくに外した塩入の嬉々とした横顔が今も記憶に鮮やかだ。ラストは鉄板中の鉄板ナンバー“バラード”で大団円。
「どうもありがとうございました、FINLANDSでした! またお会いしましょう!」
そう告げて颯爽とステージをあとにする塩入。興奮の余韻はいつまでも消えそうになかった。
PROFILE
FINLANDS
Vo.Gt 塩入冬湖(シオイリフユコ)を中心に2012年結成。「RO69JACK 13/14」での入賞経験を持ち、精力的なライブ活動に加えこれまで様々なイベントや大型フェス、 全国大型サーキットライブへの出演もしている。
2019年4月10日渋谷クラブクアトロのステージを最後にBa. コシミズが脱退。
2021年リリース フルアルバム「FLASH」での東名阪ツアーファイナルはZepp DiverCityにて開催し、ソールドアウトさせた。
2022年11月で結成10周年を迎え、10周年記念ツアー”FINLANDS TENTH ANNIV. ~記念博 TOUR~”に先駆け2ヶ月連続配信リリースを発表。全国6都市を巡った記念博TOURはファイナルをKT Zepp Yokohamaとして盛況に終了した。
現在、正式メンバーは塩入冬湖のみで、ギター、ベース、ドラムにサポートメンバーを迎え活動。また、塩入は adieu(上白石萌歌)、Salyuに楽曲を提供するなど 作家としても活動している。
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