何があっても、結局ここに戻ってきてしまう。苗場での25回目の開催となった<FUJI ROCK FESTIVAL ’24>(以下、フジロック)は、多くの忘れ難い場面を振り撒きながら幕を閉じた。
久しぶりのフルスペックでの開催となった昨年度が盛況に終わり、いよいよ今年は<フジロック>が<フジロック>として、そのブランドを存分に世界へ誇る3日間となった。国内外問わず、MCで苗場の森への愛を語ったアーティストが多かったのは気のせいだろうか。例えばDAY 2のWHITE STAGEに登場した折坂悠太のように「大好きです!」とストレートに表現する者もいれば、同日のGREEN STAGEに出演したMAN WITH A MISSIONのように、連綿と続くフジの歴史に思いを馳せながらしみじみと感謝する者もいた。
一時は荒天が予想されたものの、始まってみればライブが危ぶまれるほどの降雨はほぼなく、快適な環境下での開催となった今回の<フジロック>。インバウンド需要の高まりによって増加した外国人観光客や、ここ数年ですっかりスタンダードになったファミリー層など、まさに老若男女が参加できるお祭りだ。
ヘッドライナーのザ・キラーズ(The Killers)、クラフトワーク(Kraftwerk)、ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ(Noel Gallagher’s High Flying Birds)をはじめ、それぞれのアクトにそれぞれの物語が用意されており、オーディエンスは万感の思いを託しながらステージに浸っていた。
さらに、シカゴの新星ロックデュオ・フリコ(Friko)や本格的なリリースを待たずしてローリング・ストーンズのロンドン公演の前座を務めるなど話題を呼んでいたザ・ラスト・ディナー・パーティー(The Last Dinner Party)がGREEN STAGEに登場するなど、パンデミック後に大きく才能が花開いたフレッシュなアクトの躍動も目立った。
国内からも、多数の客演をGREEN STAGEへと招聘したAwichや豪華セットで苗場の森を舞台装置に変えたずっと真夜中でいいのに。、4月に開催されたキックオフイベント<Smash Go Round FUJI ROCK NIGHTS>に出演したOriginal Loveとbetcover!!、そしてWHITE STAGEを入場規制にしたくるりなど多数のアクトが出演。今や全国各地で開催されている夏の野外フェスティバルだが、歴戦のミュージシャンたちが<フジロック>にかける期待と熱量はフロアから観ても伝わってきた。
深夜らしからぬ大観衆にヒットチューン連発で応え、RED MARQUEEを揺らした電気グルーヴ。そしてその明け方に最高にハッピーな“バカ騒ぎ”でフロアを沸騰させたgroup_inou。「真夏のデンデケデケデケ」という名前で密かに苗場食堂へと潜り込み、サプライズでライブを披露したnever young beach。多数のフジロッカーをダイブ/モッシュに巻き込み、最後には観客にステージを囲まれながら祝福のハードコアを天に掲げたターンスタイル(Turnstile)。常識を覆すアクトが連日現れ、絶えず転がり続ける<フジロック>の歴史にまた新たな1ページが加わった。
さらに、「世界一クリーンなフェス」としても名を馳せている<フジロック>。今年から登場した新サービス「金曜ナイト券」や「FUJI ROCK go round」など、そのホスピタリティはより一層向上しているように見えた。特にDAY 1の金曜18:00から明け方まで入場可能な「金曜ナイト券」を利用した友人とバッタリ会う機会が個人的には多かった。Amazonでの無料ライブ配信が合わせて行われるなど、入り口はライトだが体験はヘビーな<フジロック>の魅力にノックアウトされ、来年度以降の参加を心のうちに決めた者も多いはずだ。
予定されていたSZAの出演キャンセルや、円高傾向にある国際情勢を鑑みても、決して追い風ばかりの開催ではなかった今年の<フジロック>。しかし──毎年通っているようなフジロッカーにとっては分かりきっていたことなのかもしれないが──、ひとたび苗場の緑に包まれてしまえば、目の前の宴に心を奪われてしまう。あの場所がもたらすマジックに包まれた25回目の<フジロック>、次はどんなところまで連れて行ってくれるのだろうか?
Photo by Itaru Sawada, Kazuma Kobayashi, Shimizu Soutarou
Text by 風間一慶