2025年7月25日(金)・26日(土)・27日(日)の3日間にわたって開催された<FUJI ROCK FESTIVAL ’25>(以下、フジロック)。Qeticでは、フジロックに出演した注目のアーティストのライブにフィーチャーする恒例企画「振り返るフジロック」を今年も掲載する。

今回は、DAY1のWHITE STAGEでヘッドライナーを務めたSuchmos

彼らにとっては4回目のフジロック(2014年・ROOKIE A GO-GO、2016年・WHITE STAGE、2018年・GREEN STAGE)であり、2021年から2024年までの活動休止期間を経て、再始動後で初となるフェスが思い入れの深いフジロックの舞台となった。6月21日・22日に横浜アリーナで開催した5年8ヵ月ぶりのライブ〈Suchmos The Blow Your Mind 2025〉の余韻が覚めやらぬ中、WHITE STAGEの大トリで苗場に帰ってきたSuchmosが見せた現在地とは? ライブ当日の昼に実施したインタビュー(YONCE、TAIHEI、山本連)の言葉も織り交ぜながら、あの熱狂を振り返ろう。

<FUJI ROCK FESTIVAL’25>
2025.07.25(FRI)Suchmos @WHITE STAGE

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帰還はWHITE STAGEのヘッドライナー
7年前にやり忘れた曲 “STAY TUNE”

フジロックのDAY1が終盤を迎えた22:00。WHITE STAGEに示し合わせたような白光に照らされ、それぞれの定位置に付いた6人のシルエットがステージ上にぼんやりと浮かぶ。7年ぶりの苗場への帰還。Suchmosが登場した瞬間、観客は特大の拍手と歓声で出迎える。それは彼らが活動休止を経て、再びフジロックに帰ってきてくれたことに対する万感の想いの顕れだった。

待ち望んだ登場曲は、1stアルバム『THE BAY』収録の初期ナンバー“Pacific”。このスタートは、横浜アリーナの復活ライブと同じだ。ただし、苗場の大自然の空間に広がっていくYONCEの歌声は、横アリの室内とはまた違った機微があり、楽器陣の奏でる音色も情緒が増している。いつしかステージ上はオレンジのライトとスモークに変わり、視覚的にも温度を帯びた開幕だ。

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2曲目は、再始動後にリリースされたEP『Sunburst』の新曲で“Eye to Eye”。ここで全体のライトがONになり、メンバーがはっきりと姿を表す展開も横アリと同じだが、ひとつ異なる点はYONCEが“モヒカン”になっている。復活後のジャケ写やライブでのアンニュイな髪型とは異なり、ソリッドな短髪になったYONCEの姿は“あの頃”を彷彿とさせるもので、これは思い込みかもしれないが、フジロックに合わせてきた演出なのではと想像した。そして歌い始めてすぐ、スクリーンに映し出されたYONCEがニヤリと笑いながら中指を立てたとき、それは確信に変わる。今日このステージに立つYONCEは、言葉を選ばなければ、知る人ぞ知る“ヤンチャ”なYONCEだ。

【Interview】
──YONCE:人が変わったのはもちろんあるけど、やり方は別に変わってない。いろいろ曲を作って新譜も出したけど、その過程でどうなるのかを今はみんなで楽しんでいる感じ。活動休止をしている間にみんなが吸収してきたものをうまく持ち寄れている状態だし、この6人の集まりから何が出てくるのか、何がやれるのかをわかったのが、横アリまでの期間だった。

Suchmosの現在に触れた“Eye to Eye”の余韻に浸っていると、新加入したベース・山本連の重厚なリフが腹に響く。ここで一気にボルテージを上げて、“DUMBO”に突入。さらっと書いたが、Suchmosにとって再始動後に合流した山本連の存在は、何よりも大きな変化だろう。

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【Interview】
──山本連:自分に関してはゼロからだし、ここまでの期間はパッと言葉にはできない。余韻に浸るとか思い返す間もなくバババっと来ているので、まだ消化しきれていない。

横アリのライブレポートでも触れたが、SuchmosというバンドにとってHSUという唯一無二のベーシストの存在、そして彼との別れという深い喪失を乗り越えての今がある。その今を支えているのが、Suchmosというバンドが始まる前の10代の頃からメンバーのことを知り、HSUと同じ洗足学園音楽大学のジャズ科出身(年齢的にはHSUの1個下)の山本連。関係性的にもスキル的にも、Suchmosのベースを任せられるのは彼しかいないことをメンバーも証言している。

【Interview】
──TAIHEI:再始動後の変化で言えば、やっぱり連くんが入ってくれたことが一番でかい。振り返ると、連くんに初めてリハスタに来てもらったときが、俺らも活動休止後に(合奏するために)集まる最初のタイミングだった。ただ俺らも雑というか、その時点で連くんに2・3曲しか渡していなくて、(インタビューで)座っているような位置関係で、俺が左手で次ここみたいな感じだった。Suchmosはベースの比重が高いバンドで、連くんからしたらいきなりリフやキメとかが鬼のように飛んでくる感じで最初から大変だったと思うけど、そのスタジオで演奏しているときもそうだし、一緒に煙草を吸っているときも、連くんは一緒にいる空気感が自然だった。

──YONCE:俺らは下北沢のGARAGEからだけど、連くんはSuchmosの初ライブがいきなり横アリで、次がフジロックでWHITEのトリ。きっと意味わかんないよね。

この日も“DUMBO”をはじめ、ベースが主軸を担う楽曲での山本連の存在感は格別。彼のSuchmosというバンドとのフィット具合は、TAIHEIの言うようにあまりに自然だ。さらに再始動後は、バンドとしての新鮮なセッション感も、ライブのあらゆる場面から伝わってくる。

YONCEが「7年前にやり忘れた曲をやります」と観客に告げ、聴き慣れたOKのドラムとKaiki Oharaのスクラッチで始まったのは……“STAY TUNE”! 彼らの代表曲とはあえて言わない。それでもファンにとっては、フジロックで一番、聴きたかった曲なのかもしれない。

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【Interview】
──YONCE:さっき思い出したのは、前回出演したGREEN STAGEでのライブの前日にいろいろあって……だから実はライブ中、けっこう上の空というか、あんまり何も覚えていない。あのときはブルージーだった。ライブはたしか60分で7曲とかで、“STAY TUNE”もやらなかったし。でも今回はみんなが観たいものを見せたい。オトナになったのかな。

前回のフジロックで“STAY TUNE”を演奏しなかったことは一部で物議を醸したようだが、それはヒットソングに縛られない彼らなりのアティテュードだと当時は解釈していた。それでも今のSuchmosはそれすらも柔軟に考えられる、肩の力の抜けた成熟味がある。“STAY TUNE”を終えたあとの「はい、カバーでした」というYONCEの言葉は、彼なりの照れ隠しなのかもしれない。

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フジロックでの“STAY TUNE”というミッションをこなしたあとの“808”は軽快で、メンバーたちの笑顔も見られる。そしてこの曲を終えたタイミングで、最初のMCタイムに。

「2018年ぶりですね。だからちょうど俺ら紀元前2年ぐらいから活動してるから……ハハハハハ! すみません、わけわかんないこと言っちゃった。2018年に出させてもらって7年ぶりのSuchmosです。初めましての人も待ってたよの人も、ありがとうございます」(YONCE)

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「あと50曲ぐらいやって帰ります」
制限時間90分で魅せたオールタイムベスト

事前インタビューで、YONCE、TAIHEI、山本連はセトリについてこう語っていた。

【Interview】
──TAIHEI:昔の曲を今回のために新しくアレンジしたものもある。そういう冒険もセトリに入っているし、ちゃんと体力を使う。今回のセトリはみなさんお好きだと思いますよ。

──山本連:横アリより曲数は少ないけど、体感的に物足りない感じは全然ない。

──YONCE:横アリの準備があったので、そこから選ぶ曲はもちろんあったし、そこではやらなかったけどフジロックではやりたいっていう曲もあった。今回はそれらがうまく合わさったセトリになっていると思う。それに90分っていう制限時間いっぱいをもらったので、俺らとしても満足できるものにしたいし、お客さんにもきっと楽しんでもらえるんじゃないかな。

彼らが語るそれらの言葉は、すべてを聴き終えたあとに深く同意することになる。

ここからは、夜のとばりに似合う楽曲が続く。まずは、Suchmosというバンドを世に知らしめた『THE KIDS』(2017年)収録の2曲。色気のあるファンクトラック“BODY”は、TAIKINGのカッティングとTAIHEIの鍵盤のアンサンブルが色気たっぷりで、続く“PINKVIBES”もWHITE STAGEに詰めかけた“揺れてたいhomie”たちの気持ちを汲むグルーヴィーなサウンドだ。

さらにそこから、『THE BAY』(2015年)収録の郷愁を誘う“Alright”へ。YONCEは親指と人差し指で輪を作る“お金”のハンドサインをしながら、カメラを直視して“金が全てだ 働けアリンコ お前の気分に 惑わされたくない 金は全能か?無職はゴミか? お前の基準に 踊らされたくない”と叫び、“戦争は儲かるか?平和はゴミか?”の部分では、ふたたび中指を立てて挑発する。

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続くMCで、「しかし相変わらずいいフェスだね」とオーディエンスに話しかけるYONCE。ここで改めての紹介を受けたベースの山本連も、「最高!楽しんでますか?」と手短かに挨拶する。彼らにとってもフジロックが特別な場所であることは、インタビューでも教えてくれた。

【Interview】
──YONCE:来るたびに感じるのは、フジロックはすごく手厚いフェスだということ。素晴らしい景色の中でライブができるって、こんな贅沢が許されるのかって毎回思う。いちお客さんとして会場に紛れ込む時間も最高だし、たまたま足を止めたところで素晴らしいライブが行われていて、それと並んで自分たちのアクトもある。フジロックという輪に入れてもらえてありがたいし、光栄だなって。

──TAIHEI:昨日は前日リハをWHITE STAGEでやらせてもらえて。それはもう贅沢な遊びで気持ち良かった。あとは昨日みんなでWHITE STAGEの裏に行ったときに、漫画の『BECK』でバンドが日本のフェスに帰ってきたときの画が自分の中でフラッシュバックして。今の自分たちの状況とどこか近いような感覚があって、ずっとエモかった。

──山本連:自分はフジロック自体が初めてで、客としても来たことがない。昨日の前夜祭もちゃんと参加できていないから、まだフジロックの空気感もわからないし、WHITEのトリがやばいのかどうかもあまりわかっていない。でも今夜のライブはありのままの自分でやりたい気持ちなので、あまり事前に情報を得ないように、インプットしないようにしていた。

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「あと50曲ぐらいやって帰ります」という、YONCEの言葉に沸き立ったあとの後半戦は、新作EP『Sunburst』の先行配信曲“Whole of Flower”でスタート。浮遊感のあるTAIHEIのコード進行とOKの正確なダウンビート、Kaiki Oharaの印象的なスクラッチ。曲の輪郭を描く山本連のベースとTAIKINGの余韻を残すバッキング。それらの上で“Sadness is not gone in my head but 笑おう ただの1日を”とYONCEが歌う1曲は、改めて素晴らしい今のSuchmosだ。

続いて披露された『Sunburst』の新曲“Marry”は、YONCEがアコースティックギターを弾きながら歌う直球の歌詞が、再始動後のSuchmosの変化を感じさせる曲。ロックもブルースもフォークも、さまざまなジャンルの音楽が鳴り響くフジロックという場によく似合っていた。

オトナの雰囲気を漂わせたと思いきや、ここからラストに向けて、悪ガキ乗り全開の“To You”(新作EP未収録の新曲)でギアを上げる。YONCEはタバコを吹かしながら「くれよ真実だけ」「お前らしくいてほしい」とシャウト! TAIKINGのギターソロはこの日もキレキレだ。

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ライブ終盤は、横アリではやらなかった“A. G. I. T.”でまずファンを喜ばせると、“VOLT-AGE”でその熱量をキープ。そして、骨太なチューンが続いたあとの“YMM”が気持ち良すぎた。ステージを闊歩し、自由に踊り、白目を剥くYONCE。演奏陣も顔を合わせて笑顔を浮かべた。

そしてYONCEが「EPツアー」というワードを連呼したあと、2014年のROOKIE A GO-GOの思い出を振り返りながら、“このあともつつがなく、楽しく、気持ち良く、しあわせに過ごせることを祈ります。Suchmosでした。ありがとうございました」という言葉に続き、本編ラストで届けられたのは“Life Easy”。Suchmosにとって、2015年リリースの1st E.P.『Essence』に収録されたバンドにおける原点とも言える曲であり、活動休止前の〈“Suchmos THE LIVE” YOKOHAMA STADIUM〉、そして再始動後の〈Suchmos The Blow Your Mind 2025〉でも大トリを務めた曲だ。

やさしいメロディと言葉が場内に広がる。途中、YONCEは「みなさんの音楽との距離はいかがですか?」と観客に問い、フリースタイルの歌唱で「楽しいーーーー!」と叫ぶ。

【Interview】
──YONCE:フジロックはどう楽しんでもOKなところが魅力。ほかのフェスって意外と導線がきっちりしていて、ステージに人が向かうような流れになっているけど、フジロックはそれすらも強要されない。川に入りながら遠くから聞こえる音楽がなんかいいなとか。単純にステージに向かうだけじゃない、音楽と自分の“いろいろな距離”を教えてくれるフェスだと思う。

今回のフジロックでSuchmosが披露したセトリからは、昔から応援してくれるファンも、新たに知ったファンも、誰も取りこぼさないという彼らのやさしさを感じた。もしかしたらそれも、彼らの成長と呼ぶのかもしれない。大充実で大満足の本編はそうして鮮やかに幕を閉じた。

フジロックで“新たな現在地”を提示
Suchmosの音楽はこれから先も続いていく

メンバーが舞台袖に捌けても、オーディエンスの拍手がやまない。聴きたい曲がたっぷり盛り込まれたワンマンレベルのライブを観られても、感動と興奮がアンコールを求めてしまう。

結果、彼らは戻ってきてくれた。「1曲だけ付き合ってください」と始まった“GAGA”。この曲が本編に入っていなかったのが不思議な、付き合うという表現では収まらない、最高のダンスナンバーだ。この曲、この時間を共有せずに、WHITE STAGEを去った人はお気の毒でしかない。

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「どんなノリだ、フジロック!」(YONCE)

煌びやかなレーザーが交錯するステージで、この日一番と言っていいほど、メンバーそれぞれが自由に演奏し、自由に歌い、自由にタバコを吸い、自由に踊っている。そんな彼らの姿を見て、フロアの観客もタテでもヨコでも構わないノリで、ひとりひとりが好き勝手に揺れている。

「木々へ感謝を。ゆくゆく木々に感謝される人間になりたいと思います」(YONCE)

YONCEは最後まで掴みどころのないセリフを残し、グランドフィナーレ。

Suchmosのフジロックへの帰還は、彼らの過去・現在・未来を繋ぐようなライブだった。この内容でケチをつける者はいないはず。過去の自分たちを回収した上で、“新たな現在地”を提示したライブだったと思う。同時に、Suchmosが再始動のフェスにフジロックを選び、WHITE STAGEのヘッドライナーを務めたのは、“自分たちの音楽はこれから先も続いていく”という意志表明でもあったように感じる。変わるもの、変わらないもの──そのすべてがSuchmosだった。

Photo by Shimizu Soutarou
Interview & text by Rascal(NaNo.works)

INFORMATION

FUJI ROCK FESTIVAL’25

7月25日(金)26日(土)27日(日)
新潟県 湯沢町 苗場スキー場

FUJI ROCK FESTIVAL’25