GraphersRockとして活動するアートディレクター/グラフィックデザイナーの岩屋 民穂氏。テクノやレイヴカルチャーを基調としたそのオリジナルなデザインで、各方面で活躍の場を広げている。そしてこの度、そんな岩屋氏のデザインの源をたどるコラム『私的アーカイブコレクション』がQeticでスタート! 今回は本コラムの記念すべき第1弾をお届け。

GraphersRock 岩屋 民穂
点と血の思考 – Vol.1「私的アーカイブコレクション」

「価値」について日々考えている。フリーランスで仕事をしていると、大きな組織に属してもいない自分に価値を見出してデザインオファーをしてくれる方に制作で価値を還元するにはどうするべきか? とか、この先もデザイナーとして価値があると思われる為にどう成長していくべきなのか? とか、シリアスで少し頭が痒くなるような事から、レアなブランドアイテム争奪戦の模様をネット越しに眺めながら、市場価値のみが絶対の価値判断になってしまっている受けて側の思考停止と、その市場価値を中心においたマーケティングに一抹の不安を感じたり、また物に宿っていると思っている価値よりもその物を通して得られる経験こそが本当の価値のはずなんじゃないかとか、いつでも安定して売却できるという部分に価値が特化された物が経済では最強なんじゃないか等々、とにかく例をあげるとキリがないが、常に様々付いて回る「価値」とは何かという根源的なものに自問自答を繰り返し続けている。

そんな価値について考えるひとつのトレーニングといったら大げさだが、子供の頃から趣味として、今ではデザインの資料収集として、市場価値が無いゴミのような物に、自分なりの視点から価値を見出したものを集めファイリングをしている。感覚的には河原で見つけた綺麗な石を拾ってくるようなことに近い。「そんなもの家に持ち帰らないでほしい」と、よく親から怪訝な顔をされていたが、他者とは切り離された自分が見つけた価値を集めることが単純に好きだった。

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収集物の多くは日用品のパッケージやチラシ・フライヤー、レシートや伝票等、どれも一時的な役割を果たしたのち瞬間的にゴミになってしまうものばかりだが、ドットインパクトプリンターの味気ない印字がされた伝票に工業的なカッコよさを感じたり、上品なレストランやホテルはレシートまでもが気品漂っていたり。また海外に行くと日本では見たことない様な文字組や奇抜なバランスで構成されたデザインばかりで、自分にとってはボーナスステージのような感覚で常にファイリング用のクリアケースとパッケージをその場でバラす為のカッターを常備しながら行動している。中でも日本製品のパッケージが現地の言葉や習慣に沿ってローカライズされているものはパラレルでバグった錯覚があってとても大好きだ。

誰からも価値を提示されていないアノニマスなものをファイリングし続けていくと、次第に何か体系じみたものが見えはじめ、自分の中の常識を再構築されると同時に、見えない価値を見出す為の洞察力を鋭く高めてくれる。また物質的なものを集めることは、保管という制約の中で手当たり次第収集するのではなく、資料として必要なものなのかどうか、取捨選択する判断力も鍛えられる。
そんな無価値だと思われているものを集める過程で発見、見出した何かを自分のデザインに反映させ、価値あるものに還元できることが自分にとって最高に快感なのである。

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PROFILE

岩屋 民穂

GraphersRock(グラファーズロック)の名義でアートディレクター・グラフィックデザイナーとして、パッケージ、広告、装丁、ファッションなど多岐にわたる分野でアートワークを展開している。

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