遡ること約2ヶ月。2024年3月30日から31日にかけての2日間、東京・おおばキャンプ村にて重低音にフォーカスしたオープンエアパーティ<GROW THE CULTURE OPEN AIR 2024>が開催された。
コロナ禍以降、多くの野外パーティが開催されるようになった。しかし、GROW THE CULTURE(以下GTC)ほどサブベースを鳴らすことに特化したレイヴは、日本でも珍しい。
しかも、GTCは昼の13:00スタート〜終了は翌日の朝9:00。合計20時間、文字通りノンストップでサウンドシステムが鳴り続けていた。
GTCを企画するのは、国内のUKサウンドシーンで活躍する20〜30代前半のDJたちだ。なぜ今、重低音に一極集中したオープンエアパーティを企画するのだろうか。また、なぜ「20時間ぶっ通し」というストイックなアプローチを選んだのか。
今回、主催者や出演者、関係者へインタビューを実施。開催経緯から運営の裏側、そして第三者から見た「新たなレイヴを開催することの意義」について、話を伺った。
「オープンエアが今の閉塞感を解消する」という期待
開催から約2ヶ月が経過した現在もなお、おおばで見た景色の美しさと体に受けた振動を鮮明に覚えている。
午後1:00。おおばキャンプ村のステージには、スーパーカーのボディを彷彿とさせるようなサウンドシステムが、フロアに銃口を向けるかのごとく聳(そび)え立っていた。
前日まで降っていた大雨が嘘のような快晴。天候に恵まれ、桜も咲き始めた爽やかな昼下がりに、20時間ものロングジャーニーが幕を開ける。
国内外で活躍する総勢17組ものアーティストが一堂に会した「低音好きの、低音好きによる、低音好きのための」祭典。2022年11月に初開催して以降、1年半ぶりの開催となった。
「当初から継続的にオープンエアを開催するつもりだった」と語るのは、主催メンバーの1人であり、DJとして国内を拠点に活躍するHisaki(Midnight Runner)だ。2021年、彼はtorrent shinoda、maidableとともにオープンエアパーティ開催の準備を始める。
2021年頃によく考えていたのは、イギリスでクリミナル・ジャスティス法(※1)が施行された直後、1994年のムーブメントのことでした。
当時は法律の施行と共に野外レイヴが規制され、商業化、縮小を迫られていて。同時に、それに反発したアンダーグラウンドなイベントも徐々に出てきたタイミングでもありました。
自分の感情はどちらかというと、後者の活動をしていた人たちに近かったです。というのも、2021年はコロナ禍で社会全体が閉塞的でした。20数年越しに、当時のイギリスの動きと日本の風景が重なったように感じていました。
80年代に起きたセカンド・サマー・オブ・ラブならぬ“サード・サマー・オブ・ラブ”が到来する確信が生まれたんです。クラブの外で面白いことに挑戦したいと思い、野外レイヴの開催に至りました。
Hisaki
「Hisakiの考えに強く共鳴し、GTCの運営に参加した」と振り返るのは、GTC主催メンバーであるtorrent shinoda。
僕自身もマーク・フィッシャーやスティーブ・グッドマン(kode9)といったCCRU(※2)の初期メンバーらによる『レイヴが現代の閉塞感を打破する手段となり得る』という考えに、強く共感していました。
というのも、以前からSLICKやMIDNIGHT CULTなどの野外パーティーに参加しており、レイブやオープンエアイベントが、今の閉塞感や無力感を解放する力を持っていることを、経験として実感していたんです。
だからこそHisakiの話を聞いたうえで、現代人、特に若い人が中心に抱える閉塞感を、レイヴで打破できるのではと強く感じました。
torrent shinoda
「20時間連続」は遊び方の選択を狭めないための運営設計
午後6:00。日が落ちてくると、レーザーの光線がじわじわとステージの櫓(やぐら)を這い始めた。
当日のレーザー演出を手がけたのは、数々の国内レイヴのステージを手掛けてきた職人集団・LASERFLYとRyoma Suizuだ。「体験を加速させて没入してもらうために、今回初めてレーザーを導入した」とGTC主催チーム。
音響・演出のみならず、フードやドリンクにも、文字通りの「クラブ業界のプロフェッショナルたち」が集結していた。
捌きの慣れた都内クラブに在籍するスタッフたちがドリンクのバーカウンターに立ち、新宿のミュージックバー「新宿ドゥースラー」のグリーンカレーをはじめとするバリエーション豊かなフードが軒を連ねる。
野外にいながらも、不思議と東京のクラブにいるような安心感。運営メンバーのmaidableは、会場設計について次のように語る。
どういうパーティを作るかを考えたとき、『野外だから』と言って環境の快適さを妥協することは避けたかったんです。野外と屋内、それぞれの良さを知っているから“良いとこどり”をできればと思っていました。
だからこそ会場のおおばキャンプ村に常設している集会所も、来場者に向けて開放していて。疲れたり寒さを感じたりしたら、いつでも休憩できるようにしました。
maidable
「20時間ぶっ通し」という一見すると過酷なタイムスケジュールにも、実は来場者への配慮があった。
野外イベントに多いのは、深夜の2時から6時頃までは音がストップし、早朝に再びパーティが始まるパターン。でも、僕たちはいろんな遊び方を提示したかったんです。
昼から朝までずっと音が鳴り続けていれば、終電間際に会場を訪れた人や、早朝で帰らなければならない人にも満足してもらえるはず。オープンからクローズまでずっと遊び続けた暁には、クラブだと得がたい『20時間音を聴き続けた』満足感も得られます。
Hisaki
そして、当日のタイムテーブルにも「遊び方の選択肢を狭めない」ための工夫が。
途中参加・途中退場の人たちも含め、より多くの来場者に楽しんでもらうべく、どこを切り取っても緩急があり、パーティ全体でも綺麗な流れが生まれるようなタイムテーブルを意識しました。
特に心がけていたのは『音の前には出演者全員が平等である』ことが分かる流れであること。海外からのゲストの時だけ盛り上がり、国内のDJもあくまでサポートに回る……なんて状況だけは作りたくなかったんです。
maidable
2022年の初回に続き、2024年の今回も低音のスペシャリストたちが集結したGTC。イベントの特異さは出演者たちにも十二分に伝わっていた。初回・今回ともに出演したDJのFrankie$は、GTCの取り組みを次のように評価する。
ハウス・テクノ系がメインでありながらも、近年はベース・ミュージックを強化しつつあるフェスが、近年は増えてきたと感じます。それに対し、GTCはベース系に精通したオーガナイザーたちによる、低音特化型の野外イベント。新しいですよね。
しかも『低音特化』だからずっと縦乗りかと思いきや、途中でハウスやテクノのセットを差し込んだりして、長丁場でも飽きさせないタイムテーブルを組んでいる。運営の細部にまでGTCならではのスタイルが宿っていることを感じました。
Frankie $
また「パーティ名の通り、カルチャーを育てようとする気概を感じさせた」と語るのは、自身も野外レイヴSLICKを主催するDJの7eだ。
まずは、音に没入できるVoidのサウンドシステムの鳴りがバッチリでした。そしてUKサウンドという軸がありながらも、多様なスタイルのアーティストをブッキングしていてとても楽しめました。訪れている人たちの雰囲気も良くて、本当に音楽が好きな人たちが集まっているな、と会場を見て感じました。
7e
同じ方向を目指す仲間たちとのコミュニティ醸成へ
朝9:00。スタートから20時間経過したことを忘れてしまいそうなほどの爽やかな空気のなか、<GROW THE CULTURE OPEN AIR 2024>は幕を閉じた。
始発で帰る人の姿もあれば、始発で訪れた人も。最後の一曲が終わると、会場からは自然と拍手が巻き起こる。スタッフとオーディエンス、いずれもどこか達成感のある表情を浮かべていた。
GTCの主催者である3人はいずれも、日中は社会人として生活している。専業的にフェスの運営へ携わっているわけでもないなか、彼らはどのようにして運営のハウツーを身につけたのだろうか。
アムステルダムのDekmantelの成り立ちや、Outlook、RuptureやDistant Planet、Project 6などのフェスティバル/ナイトイベントのスタイルは参考にしていました。しかし具体的な実働部分では、プロの先輩たちに助けられました。
Hisaki
2年連続でGTCのサウンドデザインをサポートしたのは、おおばキャンプ村のテック担当であり、Sunshine Festivalをはじめとした野外パーティを10年以上経験するJugen Takada(AIREAL/Cultivators)だ。彼はGTCの魅力について、次のように語る。
当初から可能性に満ち溢れた、新世代の野外レイヴだという印象がありました。でも初回開催を経て、今回はGTCチームの絆が揺るぎないものとなっていく実感があったのが嬉しかったです。
チームワークにもグルーヴを感じるようになり、各地から集まっているクルーや来場者との交流を深める余裕がある印象でした。これからも体験や物語を共有し合いながら、GTCチームと一緒に歳を重ねていきたいです。
Jugen Takada
次回のオープンエアパーティについては「基本的には1年半おきくらいのペース」での開催を予定しているという。最後に主催の3人へ、今後の展望について聞いてみた。
東京だけではなく、全国各地のクラブで躍動するプレイヤーたちと繋がっていきたい、という気持ちはあります。東京へ一極集中させることでのカルチャーの醸成だけではなく、各地とのシナジーでコミュニティを形成していきたいです。もっとこの輪を広げていき、みんなで“GROW”していくことが何よりの願いです。
maidable
GTCのやりたいことや価値観を周囲に話すと、共感してくれる人や応援してくれる人が多いことにありがたさを感じています。ただ、現状は似た思想・コミュニティ同士がなかなかオーバーラップせず、言語・ジャンル・世代によって分断されている印象を受けます。
一つのコミュニティだけではリソースが足りず、やりたいことの実現可能性が低いのは事実。これからも、コミュニティ同士の緩やかなつながりを作っていければ理想です。
torrent shinoda
<GROW THE CULTURE TAKEOVER>をクラブパーティとして定期的に開催し、OPEN AIRへの架け橋や、ローカルと接続する空間として機能させたいと思ってます。早速ですが、現在5月26日(日)に代官山SALOONにて<GTC TAKEOVER>を開催予定です。
ワークショップや倉庫を使ったWAREHOUSE開催など、やりたいことはあります。予算や人員も限られている中でも、ユニークなことにどんどん挑戦していきたいです。
Hisaki
Text:Nozomi Takagi
Photo:Toshimura
INFORMATION
GROW THE CULTURE TAKEOVER
2024/05/26 17:00~23:00
代官山SALOON
lineup
Midnight Runner
maidable
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