日々の喧騒の中から少し深呼吸をして、今ある暮らしを眺める。そんな時に言葉や写真を残すことで新たな気づきがあるかもしれません。
『葉書のえらびかた』は暮らしにまつわる気づきについて、ラッパー・maco maretsがゲストを迎え、エッセイを交わすQeticオリジナル企画です。maco maretsのエッセイからはじまり、ゲストはまるで交換日記を返すように書き綴る。二人のテーマに合わせ写真をセレクトするのは、maco maretsのMVを多数担当し、近年では広告映像など活躍を広げている写真家/映像作家・河澄大吉。
今回のゲストは、インディペンデント雑誌HIGH(er) magazineの編集長であり、株式会社HUGの取締役としても活躍するharu.。
──haru.さんについて
おはるちゃんとの出会いは三・四年ほど前、とあるイベントでの共演がきっかけです。そのときは、二言三言の挨拶を交わしただけだったような気がするのですが、いつのまにかイベント出店やコラボアイテムの制作、ミュージックビデオ/アルバム楽曲への参加など様々なかたちで交流する間柄に。昨今のウイルス禍のさなかには、とりとめもない日々の思量を綴り交わすよきペンフレンドでいてくれました(それが連載第一回のゲストとしてお声がけした直接の理由となりました)。
ふしぎなことにわたしたち、顔を付き合わせて長く話をしたことがほとんどありません。ふだん遊ぶこともありません。にもかかわらずなにか、通じあう波長を感じたからこそ続いた縁で……、「おなじ星座だからかな」なんてふたりで話したことがあります。
maco marets
maco marets
先日、郷里から一通の葉書が届きました。それは鳥取砂丘の風景を切り取ったずいぶんと古びた様子のポストカードで、裏返すと祖父の筆で「このハガキは一九六○年九月、われわれの新婚旅行時に買ったものです」と付されているのみ。それ以上の説明はありません。そしらぬふうで別の話題が続いています。
いまなぜそんな葉書を? 祖父にしてみれば特別な理由などなかったかもしれませんが、とつぜん目の前に広がった六十年前の砂丘を前に、どうにも砂粒を飲んだような、息詰まる動揺をおぼえました。わたしには、書かれている内容とはべつに、その葉書自身がなにかを語っているような気がしてならないのでした。
すべて手前勝手な感傷でしょうか。しかし、黄ばんだ葉書をえらびとる祖父の指先、その震え、ことばより先んじて生じていたはずのそれらが想起されたとき、セピア色の遠景には留まらぬ声(あるいは音)がはっきりと聞こえたのです。そんな「声」を呼び起こす葉書のえらびかたを、わたしはまだ知りません。
haru.
葉書。私も葉書に関してはいくつか記憶があります。
エピソードと呼ぶには断片的、感覚的すぎるくらいの。
子どもの頃住んでいたドイツの街に、割と知名度の高い教会があって。まあ街の人なら誰でも知ってる、世界遺産に登録されているとかそういう類のものではないのだけれど。この間自分の部屋を掃除していたら、その教会のアーチ型の赤い扉にフォーカスした写真が葉書になっているものを見つけました。その街に住んでいたのは私が小学2年生から4年生くらいのときだから、今から15年以上も前から私は無意識にもその葉書を自分の近くに置いていたのかと思うと、とても不思議です。たった一枚の葉書が、ただそこにあり続けるということ。そこから想起されるさまざまな情景と感情はくらくらするほどで、「もの」との間に生まれる極めて個人的な時空間について考えずにはいられませんでした。
私がつくるさまざまな紙のものたちも、いつかは。
河澄大吉
PROFILE
haru.
1995年生まれ。東京藝術大学在学中に、同世代のアーティスト達とインディペンデント雑誌HIGH(er) magazineを編集長として創刊。多様なブランドとのタイアップコンテンツ制作を行ったのち、2019年6月に株式会社HUGを設立。取締役としてコンテンツプロデュースとアーティストマネジメントの事業を展開し、新しい価値を届けるというミッションに取り組む。
maco marets
1995年福岡県生まれ。2016年に東里起(Small Circle of Friends/Studio75)のトラックメイク&プロデュースによるアルバム『Orang.Pendek』で「Rallye Label」よりデビュー。その後セルフレーベル「Woodlands Circle」を立ち上げ、『KINŌ』(18)『Circles』(19)『Waterslide III』(20)、そして最新作の「WSIV: Lost in November」(21)とコンスタントにアルバムリリースを続けている。近年はEテレ『Zの選択』番組テーマソングや、Maika Loubte、Shin Sakiura、LITE、maeshima soshi、Mimeほかさまざまなアーティストとのコラボレーションワークでも注目を集める。
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河澄 大吉
1995年生まれ。写真家、映像ディレクター。
2018年のロンドンの展示を機に本格的に始動した。
主に音楽・ファッション・広告を中心に写真と映像の分野で活動している。自身でもコレクティブを主催するなど、いくつものクリエイティブチームに参画する。