冷えの砌、散り散りなり花弁のない臙脂色の桜の木を眺め、これはこれでわびていて美しいなと感じる候、みなさまに於かれましては、ますますのご清祥のことお慶び申し上げます。

さて、今回は、「一人暮らしを始めた人に捧げるレシピ」をご紹介致します。

◼︎ 一人暮らし=自由に食事をすることが可能に
一人暮らしと言うのは、ある種の独立だと思います。そして、独立とは自由の確立と、自由に伴う責任を負うことです。好きな時間に寝ようが、起きようが、恋人を連れ込んで愛を育もうが、そして、何を食べようがあなたの自由です。

今までは、一緒に生活をしていた人の趣味趣向など様々な要因があり多かれ少なかれ、あなたの食に干渉がありましたが、これからは、何を食べようが自由になりました。そこで、これを機に、自分が何が好きか? 何が嫌いか? など色々と考えたり、試して欲しいのです。なぜ、この様な提案を致すかと申しますと、自らの食歴と向き合い、これからの食歴を考えて欲しいからです。

身勝手な意見を並べ立てますが、私は、料理人です。料理人とは、理(目的)を(達成する為に)料(はか)る人のことです。自らの手で作ったもので、他者の血肉を作る手助けを行っている以上、その人の人生に干渉してしまっています。そのような立場にある料理人が料かるべき最大の理(目的)とは、大仰に思われるかもしれませんが、その人の良き人生の成就です。

ここからは、独白のような言い訳ですが、良き人生とはなにか、26年間考えています。しかし、誠に恐縮ではありますが普遍的な答えにはまだ至っていません。ただ、納得することがヒントなのではと、思っています。

◼︎ 良き人生を達成するヒントは「食歴」
さて、話が逸れましたが、私は一人しか居ないので、みなさま一人ひとりに良き人生の成就のためにお食事を作ることはできません。誠に非力を恥じる限りではありますが、みなさま一人ひとり、あなた自身で何とかしなくてはならないのです。そこで、あなた自身で良き人生を達成するヒントが詰まっているものがあります。

それが、食歴です。

例えば、3歳の幼子でも、80歳の老人でも、それぞれ、幼子には3年間の食のキャリアがあり、老人は80年の食のキャリアがあり、これが食歴です。この経験の蓄積に、良き人生を送るためのヒントが詰まっています。食べるもので、人生が変わるなんて、それこそ仰々しく思われるかもしれませんが、どんなに良いことを頭のなかで考えていても、身体を使って体現しなくては意味がありません。その時に使うのが身体で、良い身体を作るのが良い食事です。

また、毎日、食べる人のことよりも利益に重きを置いた大量生産される薬漬けの餌の様なものを食べている人と、食べる人が納得できるように、理を料った上で作られたものを食べている人では、同じ満腹でもどちらの方が質の良い満腹感を味わっているでしょうか? あれは食べるな、これは食べろ、何故ならこの食材はこの様な栄養素が……、云々、カロリーが……、云々と食を数字で考えてしまう様な、料るべき理が浅い料理人が言う様なことは言いません。

◼︎ 自分の納得のいくものを実食すべし
今まで、母が作ってくれた日々の食事、記憶に残っている特別な食事、二度と食べたくないあの食事、一度は食べてみたいあの食事……、その様々な経験から、世に溢れる数字だけの飲食論や、流行り廃りを排し、己の好みを理解し納得の行く理を料りそれを食し、良き人生を歩んで欲しいと願っています。しかし、ただ、これらを頭で理解しただけでは絵に描いた餅、意味が無いのでしっかり自分の納得のいくものを実食しなければなりません。

そのような意味で、外食・中食が悪とは言いませんが、効率に偏重したマニアル料理や、個性を押し付けるような偏屈な料理人が作ったもの、薬漬けの餌の様なものでは、余計な干渉が入ってしまい、自身の好みを反映し納得は出来ないので自炊をおすすめ致します。

そこで、自炊を始めたての人でも、好みを反映しやすく、食材の入手が簡単(コンビニで材料が揃う)で、自分で作れ、更に手間がかからないものを考えました。スパゲッティも良いですが、イタリア料理(特にスパゲッティ)は逆算の料理(ちなみに、和食は引き算、中華・フレンチは足し算と言われています。)で仕込みから完成までにあれや、これや、考えなくてはなりません。己の好みを意識しながら納得の行くものを作るのには不向きです。また、素麺、蕎麦、うどん、焼きそばも考えましたが、調理の面で応用の幅が狭く技法の部分で好みを反映しづらい。

そこで、チャーハンという答えに至ります。

◼︎ チャーハンは味も技法もレパートリーが豊富
チャーハンは、油、卵、米を基本に、味の面では肉、魚介、野菜を加えたり、出汁に粉末の鶏ガラを使って純中華風にしたり、だしの素を使って和風にしたりと、また技法の面では爆炒(バオ・チャオ、中華料理の技法の一つ、個人的には魅せる料理技法の中で一番華やかと思っています。)と呼ばれるような超強火で食材を煽り全体をパラパラにしたり、逆に火加減を調節し食材をしっとりさせたり、と、味も技法のレパートリーも広く、好みを反映しやすく、コンロとフライパンがあれば作れたりと今回のレシピにピッタリだと思います。

さすがに毎日、チャーハンを自炊しろとは言いませんが、是非、自らの食歴から自分の好みを知り実際に納得の行くもの作り食べ、良き人生を送れるきっかけになることを祈っております。

今回のレシピは、応用が効きやすい様に、基本的なチャーハンのレシピをご紹介致します。ご参照下さい。

一人暮らしを始めた人に捧げるレシピ「チャーハン」

【材料】
たまご…2玉
白米…250g
油…30cc
塩…適量
胡椒…適量
長葱…適量

【作り方】
①.卵を良くとく。
②.白米に塩コショウをふり軽く混ぜなじませる。
③.油を鍋にひき、強火にし軽く煙が出るくらいまでしっかり熱したら、①を入れる。
④.焦げ付かない様に鍋を回し油の上で③を滑らせながら、6〜7割固まって来たら、②を入れお玉の腹などで叩きつけるように混ぜる。
※ヘラで切るように混ぜる方法があるが、あれでは水分が十分に飛ばずパラパラにならない。
⑤.全体がパラパラになったら鍋からあげ、盛り付け、長ネギの輪切りを添えて完成。

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岡村飛龍
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著者プロフィール

岡村飛龍
アーティスト/料理人
1988年7月26日17時24分千葉県産まれ。
2012年、多摩美術大学卒業。

幼少期より、料理に触れ、大学在学中に北大路魯山人の著書に感銘を受け、自らの表現に料理を取り入れる。主な活動に、ART FAIR TOKYO 2013(有楽町、国際フォーラム)にてケータリング、日本スペイン交流400周年事業 CONEXIÓN ORIGEN DESTINO 東京BCN10443(バロセロナ、Olivart Art Gallery)に出展、MTV HAPPY TIME supported by NIVEA(渋谷、2.5D)にてケータリングなどがある。