5月13日(土)・14日(日)に埼玉・秩父ミューズパークにて<LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2023>が開催された。

「新世代ジャズフェスティバル」を掲げ、全20組のアーティストが登場した2日間。荒天が予想されたものの、パフォーマンスを阻害するほどの雨が降ることはなく、むしろ秩父の青々とした草木が会場全体を取り囲むような効果を感じられるほどには、ライブ体験とライブ環境が調和していた。

この2日間で強調されていたのは、広い意味での「クロスオーバー」だったように思える。演奏される音楽はもちろん、会場内でのコミュニケーション、そしてアーティスト同士でさえもそうだ。領域と領域が渾然一体となり、一つのグルーヴへと収斂していく光景がいくつも見られたのだ。

LIVE REPORT:
気づけば敷居の向こう側にいる──
<LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2023>
2023.5.13・14 @埼玉・秩父ミューズパーク

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DINNER PARTY
Photo:岸田哲平

例えば初日に登場したドミ&JD・ベック(Domi & JD Beck)。昨年発表したデビュー作『NOT TiGHT』が絶賛の嵐、先月開催された<Coachella Festival 2023>でのパフォーマンスで成功を収めるなど、ジャズシーン周辺で最もホットな2人組と言っても過言ではないだろう。

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DOMi & JD BECK
Photo:中河原理英

眩暈がするほどの超絶技巧と、2人の波長が通じ合う様に驚嘆させられっぱなし、圧巻のステージ。観客は息を呑む者とリズムを掴まえて踊り続ける者に分かれていた。その両者を掛け合わせたのは、トリビュートを盛り込んだ絶妙なセットリストだ。ウェイン・ショーター(Wayne Shorter)への追悼の意を込めて披露された“Endangered Species”からウェザー・リポート(Weather Report)“Havona”のカバー、そしてマッドヴィレイン(Madvillain)のトリビュートと、彼らがこれまで取り込んできたあらゆる年代の名プレーヤーに向けられたリスペクトが表現されていた。それは2人のプレーヤーとしての姿勢とオリジナル曲と地続きなものであるし、絶えずクロスオーバーしていた2日間のハイライトでもある。

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DOMi & JD BECK
Photo:中河原理英
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DOMi & JD BECK
Photo:中河原理英

<LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2023>のレジデンシャルバンドとしてフル稼働したSOIL&”PIMP”SESSIONSは、多種多様なゲストボーカルを迎えてフェスに彩りを添えた。

初日にはAIbird家入レオが登場。3人はスタイルを崩すことなく歌いあげ、その上でSOIL&”PIMP”SESSIONSのパッショネイトな演奏がアクセントになったり、前面に出てソロをとったり、様々な表情があらわになった。各々の代表曲からジャズのスタンダードナンバーまで、ここでしか見ることのできなかった贅沢なステージである。

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AI, bird, 家入レオ with SOIL&_PIMP_SESSIONS
Photo:中河原理英
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AI, bird, 家入レオ with SOIL&_PIMP_SESSIONS
Photo:中河原理英

レジデンシャルバンドとしてその牽引力のさらなる展開を魅せたのは、SKY-HI & BMSG POSSEが登場し、卓越したステージングを炸裂させた2日目。Aile The ShotaとBE:FIRSTとして活躍するMANATOとSOTAによって結成されたShowMinorSavageに加え、トレーニーのREIKOも参加。2人の「社長」を交えながら、彼らは熱狂するオーディエンスをグイグイと惹きつけていく。舞台上でワインを酌み交わしながら、最後にはフリースタイル合戦まで披露した姿は、フェスティバルの提供する自由な体験と完璧にマッチしたものだった。

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SKY-HI & BMSG POSSE with SOIL&_PIMP_SESSIONS
Photo:岸田哲平
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SKY-HI & BMSG POSSE with SOIL&_PIMP_SESSIONS
Photo:岸田哲平
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SKY-HI & BMSG POSSE with SOIL&_PIMP_SESSIONS
Photo:岸田哲平
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SKY-HI & BMSG POSSE with SOIL&_PIMP_SESSIONS
Photo:岸田哲平
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SKY-HI & BMSG POSSE with SOIL&_PIMP_SESSIONS
Photo:岸田哲平
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SKY-HI & BMSG POSSE with SOIL&_PIMP_SESSIONS
Photo:岸田哲平
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SKY-HI & BMSG POSSE with SOIL&_PIMP_SESSIONS
Photo:岸田哲平

SOIL&”PIMP”SESSIONSのステージに象徴されるように、今回の<LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2023>ではアーティスト同士のコラボレーションが盛んに行われていた。

ロンドンを拠点とするビート・メイキング・デュオのブルー・ラブ・ビーツ(Blue Lab Beats)が黒田卓也西口明宏、ボーカルとして鈴木真海子(Chelmico)ARIWA(ASOUND)、さらにはPenthouseでもソウルフルでカラフルなステージを披露した角野隼斗を迎えた豪華編成のステージをはじめ、ここでしかあり得ないコラボレーションが次々と繰り広げられる。

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Blue Lab Beats featuring 黒田卓也,西口明宏 with 鈴木真海子,ARIWA
Photo:岸田哲平
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Blue Lab Beats featuring 黒田卓也,西口明宏 with 鈴木真海子,ARIWA
Photo:岸田哲平

Answer to Rememberのステージには、事前にアナウンスされていたHIMIJuaに加えてermhoiが登場。そのermhoiは2日目にAnswer to Rememberのメンバーでもある馬場智章のリーダーバンドにもゲストボーカルとして参加し、その馬場智章は2日目のTHEATRE STAGEトップバッターであるPenthouseのステージに顔を出し……といった交流が積極的に巻き起こっていた。

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Answer to Remember with HIMI, Jua
Photo:中河原理英
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Answer to Remember with HIMI, Jua
Photo:中河原理英
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Answer to Remember with HIMI, Jua
Photo:中河原理英
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Answer to Remember with HIMI, Jua
Photo:中河原理英
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Penthouse with 馬場智章
Photo:岸田哲平
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馬場智章
Photo:中河原理英

中でも最も衝撃的なコラボレーションは初日のヘッドライナー、ジョージ・クリントン&パーラメント・ファンカデリック(George Clinton & PARLIAMENT FUNKADELIC)の舞台で実現した。

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GEORGE CLINTON & PARLIAMENT FUNKADELIC
Photo:中河原理英

登場からノンストップでファンク・ナンバーを投入、「総帥」自らがハンズアップをオーディエンスに煽り続け、ボルテージは早速最高潮に。そしてライブ中盤、満を辞してステージに呼び込まれたのは、なんとあの.ENDRECHERI.

Pファンク軍団の一員としてスパンコールスタイルのタイトな衣装で彼は登場。かねてからその影響を伺わせていた.ENDRECHERI.が、生ける伝説であるジョージ・クリントン総帥に至近距離で見守られながら往年の名曲“FlashLight”のソロを長尺で弾き倒す場面(あれは幻ではなかったはず)には、あの日あの場所にいた誰もが心奪われたはずだ。ソロをとった後にもバッキングギターで参加し、自身の演奏終了後にもステージにとどまってパフォーマンスを堪能するなど、溢れんばかりのラブとリスペクトがそこにはあった。

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GEORGE CLINTON & PARLIAMENT FUNKADELIC
Photo:中河原理英
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GEORGE CLINTON & PARLIAMENT FUNKADELIC
Photo:中河原理英

数々のコラボレーションに加え、野外フェスらしいゆとりある空間設定も特徴だ。フリーエリアに設置されたDJブースでは、ジャズに限ることなく広義の「ダンスミュージック」がドロップ。来場者は同じくフリーエリアに出店している秩父名物に舌鼓を打ちながら、これまた自由に楽しむことができる。

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Chloé Juliette Photo:ito kaoru
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SHACHO
Photo:ito kaoru
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柳樂光隆
Photo:ito kaoru
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荒田洸
Photo:ito kaoru
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Photo:ito kaoru
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Photo:ito kaoru
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Photo:ito kaoru

「新世代ジャズフェスティバル」というコンセプトが導いたのは、ジャンルごとに設定されがちな敷居の再考だ。それは「敷居を跨ぐ」というより、気づけば敷居の向こう側にいるようなさりげなさでもって、体現されていたように思える。誰でも訪れることが可能な、文字通り敷居のないフリーエリアは、ステージで演奏される音楽と同等かそれ以上に2日間の成果を雄弁に語っていた。

そんな2日間を大団円で締め括ったのはロバート・グラスパー(Robert Glasper)+カマシ・ワシントン(Kamasi Washington)+テラス・マーティン(Terrace Martin)といったスターたちをフィーチャーしたスーパーユニット、ディナー・パーティー(Dinner Party)だ。

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DINNER PARTY
Photo:岸田哲平

定刻の少し前、他のメンバーに先んじて登場したジャヒ・レイク(Jahi Lake)のDJタイムから、既にディナー・パーティーのクロスオーバー感覚はまざまざと表現されていた。この2日間にうってつけな名曲、ア・トライブ・コールド・クエスト(A Tribe Called Quest)の“Jazz(We’ve Got)”からローリン・ヒル(Lauryn Hill)“DooWap“まで、彼らが今年発表した最新作『Enigmatic Society』で飛び交っていた数多のルーツをパチパチと接続していく。

DJタイムの終盤には前日のヘッドライナーを務めたジョージ・クリントンへのリスペクトを込めてパーラメント“Flash Light“をドロップし、大盛況のフロアをクールダウンさせることなく極上のセッションへとバトンを繋いだ。

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DINNER PARTY
Photo:岸田哲平
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DINNER PARTY
Photo:岸田哲平

ロバート・グラスパーやカマシ・ワシントンの長尺ソロの連打から、思わずハンズアップしてしまうようなミドルテンポのソウル〜R&Bチューンまで。楽曲構成からビートの組み方、そしてオーディエンスの反応まで含めて、ディナー・パーティーの体現するクロスオーバー感覚は継ぎ目なく会場の隅々にまで浸透していた。敷居を意識させず、音に惹かれるままに体が動いていってしまう感覚。そのシームレスな鑑賞体験こそ、ディナー・パーティーの、そしてこの2日間の、最もプレシャスな時間の一つだった。彼らが<LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL 2023>の大トリを務めることは、必然だったとしか思えない。

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DINNER PARTY
Photo:岸田哲平

様々なジャンル/歴史の交錯を「新世代ジャズフェスティバル」の名の下で実現させた2日間。気づけば敷居の向こう側にいるような感覚を、出演ミュージシャンたちと共に並走した参加者は、今やどこへだって向かうことができる。自由な鑑賞スタイルの妙味を日常の中でも探しながら、来年度の開催にも最大限の期待をしたい。

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DINNER PARTY
Photo:岸田哲平

Text:風間一慶

INFORMATION

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LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2023

2023年5月13日(土)、5月14日(日)
 
■出演:5月13日(土)
【THEATRE STAGE】
GEORGE CLINTON & PARLIAMENT FUNKADELIC with Special Surprise Guest / DOMi & JD BECK
AI, bird, 家入レオ with SOIL&”PIMP”SESSIONS / Answer to Remember with HIMI, Jua
【GREEN STAGE】
ALI / 海野雅威 with Special Guest 藤原さくら / 4 Aces with kiki vivi lily / OPENING ACT : MoMo
【DJ TENT】
荒田洸(WONK) / SHACHO(SOIL&”PIMP”SESSIONS) / 柳樂光隆(Jazz The New Chapter) /
Chloé Juliette
 
5月14日(日)
【THEATRE STAGE】
DINNER PARTY FEATURING TERRACE MARTIN, ROBERT GLASPER, KAMASI WASHINGTON /
SKY-HI & BMSG POSSE(ShowMinorSavage – Aile The Shota, MANATO&SOTA from BE:FIRST / REIKO) with SOIL&”PIMP”SESSIONS /
Blue Lab Beats featuring 黒田卓也, 西口明宏 with 鈴木真海子(Chelmico) , ARIWA(ASOUND) /
Penthouse with 馬場智章
【GREEN STAGE】
Kroi / BREIMEN / 馬場智章 / OPENING ACT : soraya
【DJ TENT】
荒田洸(WONK) / SHACHO(SOIL&”PIMP”SESSIONS) / 柳樂光隆(Jazz The New Chapter) /
Chloé Juliette
 
■会場:埼玉県・秩父ミューズパーク(https://www.muse-park.com/guide/facility03
〒368-0102 埼玉県秩父郡小鹿野町長留2518
 
■主催・企画制作:LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2023実行委員会
 
■協賛:チューリッヒ保険会社 / チューリッヒ少額短期保険株式会社/ イープラス /
Chang Beer / KEEN
 
■後援:秩父市 / 一般社団法人 秩父観光協会 / 株式会社 秩父開発機構 / J-WAVE / InterFM897
 
■協力:一般社団法人 秩父商人仲間 / 株式会社 矢尾百貨店 / Simple day
 
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