MONDO GROSSO結成30周年の今年、大沢伸一選曲によるオリジナルベストアルバム『MONDO GROSSO OFFICIAL BEST』がリリースされる。リリースにあたり、リアレンジや再ミックス、新録を行うというスタンスはMONDO GROSSOのアシッドジャズ、ブラジリアン、R&B、ハウス、テクノ、ポップなど広範囲に渡るジャンルの変遷はありつつ、芯にあるサウンドプロダクションの美学を突き通すためだろう。さらにマライア・キャリー(Mariah Carey)、ジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)、ジル・スコット(Jill Scott)ら、グラミー賞受賞作品を多数手掛ける伝説のHerb Powers Jr.に全曲のリマスタリングを依頼。ベストアルバムを通して聴くためのトリートメントがなされている。
今作は、コアファンにとってはお馴染みの楽曲がアップデートされたプレミアムなアイテムだが、満島ひかりをボーカルに迎え話題となった“ラビリンス”を入り口にMONDO GROSSOに出会った世代のリスナーにとっては30年に渡るグルーヴの変遷をMONDO GROSSOというアーティストを通して体感するという、ひとつの音楽史を俯瞰できる機会でもある。
11/3発売 MONDO GROSSO OFFICIAL BEST 全曲試聴トレーラー
海外シーンとリンクした先駆け
新世代との共通項
1991年という時代において、京都のクラブシーンからスタートしたMONDO GROSSOが早い段階でUKのアシッドジャズのムーブメントと共振したことは稀有なことだった。70年代末から80年代初頭に興隆したブリット・ファンクとあわせ、近年ではアルファ・ミスト(Alfa Mist)らUK新世代ジャズシーンともパラレルに共振するこのムーブメント。その語り手として再び名前を見ることの多いジャイルス・ピーターソン(Gilles Peterson)がハブとなったことで、ヨーロッパでのMONDO GROSSOのツアーが現実のものとなった側面は大きい。
アシッドジャズという当時の世界的なムーブメントに対し、京都というローカル発のバンドが共振したという点は、海外の現行のシーンとリンクする日本人アーティストの先行事例として見ることも可能だ。例えば名古屋のローカルシーンから世界に飛び出し、今やインディーシーンのみならず現行のダンス/エレクトロニックなポップシーンで評価されるCHAI。加えて、自身がシンガーソングライターでもあり、プロデューサーの小袋成彬。大沢がプレイヤー(ベーシスト)としてキャリアを経て、トラックメイカー、プロデューサーとして活動している点からも重なって見える。
さらにユニークなのは、MONDO GROSSOが2017年にリリースした6枚目のアルバム『何度でも新しく生まれる』の制作時期から大沢は再びベースやギターを演奏し、バンドでのライブ活動も行っている事実は、20〜30代のコンテンポラリーなアーティストと共通する。改めて今回のベストアルバムでの細かなリアレンジやリエディットはMONDO GROSSOが現在進行形である証左だろう。
MONDO GROSSO – SOUFFLES H
J-POPプロデューサーとしての地位確立後の空白
サウンドスケープの変貌
ベストアルバムのDisc2の12曲中9曲が『何度でも新しく生まれる』以降の楽曲であることも興味深い。だが、J-POPシーンに飛び込み、内部から地殻変動を起こした、2002年リリースの“Everything Needs Love feat. BoA”に象徴される楽曲はMONDO GROSSOのグルーヴ史の中でも特にキャッチーだ。ソニーミュージック時代のヒットアルバム『NEXT WAVE』には今回のベスト盤にも収録されている“SHININ’ feat. Kj”や“光 feat. UA”などが収録されている。クラブミュージックとしては異例の15万枚のセールスを記録した同作のタームで、疾走するBPMに乗る英語詞、日本語詞双方のという、新たなヒットナンバーのスタイルを確立したと言えるだろう。
その後、14年の空白期間の後に大きくサウンドスケープが変貌したのが、2017年のアルバム『何度でも新しく生まれる』だった。“ラビリンス[Vocal:満島ひかり]”は4つ打ちでありつつ、淡い音色のループ、“惑星タントラ[Vocal:齋藤飛鳥(乃木坂46)]”の圧のないビート、エアリーなシンセ、また、同志であるbirdが歌う“TIME”のベースの生音の活きるアレンジ。さらに現時点での最新作『Attune /Detune』収録の“偽りのシンパシー[Vocal:アイナ・ジ・エンド(BiSH)]”のセンシュアルな空気感を上品に聴かせる静謐なアンビエンス。無機的なものと有機的なものの融合という単純なものではなく、架空の空間に誘うような深淵なサウンドスケープで、2010年代後期に新たなディケイドに入ったことを実感させた。再び、大沢自身がレコーディングでベースやギターをプレイしていることも興味深いが、その効果はあくまでもトラックを構成するサウンドとしての意味合いが強い。近作でのMONDO GROSSOのシグネーチャーサウンドの傾向はビートの組み方、ボーカル処理など、アレンジもミックスも細部までエレガントで知的である。
MONDO GROSSO – 偽りのシンパシー
ニューバージョンやトラックの再構築から見える、更なる展開
細かなリニューアルが施されたベスト盤の中でも、聴きどころとなる楽曲を挙げてみよう。2002年当時、15歳だったBoAをフィーチャリングしたハウスの名曲“Everything Needs Love feat. BoA”が19年の歳月を経て、トラックが一新されたバージョンと日本語詞のバージョン2曲を収録。突き抜けるサビの爽快さは不変だが、オリジナルで印象に残るピアノハウスとストリングスの成分以上に、新しいバージョンではベースラインの太さが特徴的だ。シンセベースと生ベースを重ねているようにも感じられるが、ベースミュージックを通過してきたアレンジには違いない。日本語はオリジナルの訳詞に近い印象だが、現在の状況で聴くと自然と前向きなマインドが呼び起こされる内容になっている。“SHININ’ feat.Kj”はボーカルリフとアコギが作るループ感が当時全盛期だったダンスアクト、ケミカル・ブラザーズ(The Chemical Brothers)やアンダーワールド(Underworld)との符丁を見せたが、新しいリミックスには、大沢がTwitterで発見し、フックアップしたTHE FLYING BEDがギターで参加。ビートもハウスからアブストラクトなベースミュージックの様相へと変化したアトモスフェリックな仕上がりに。
MONDO GROSSO / Everything Needs Love feat. BoA (RE-NEW JP)
さらに近作でもある2018年にリリースした7枚目のアルバム『Attune/Detune』にACOが歌う日本語詞と、2019年頃から大沢とRHYME SOでの活動をスタートさせた、オーストラリア出身の詩人/ソングライター/モデル/DJのRHYMEが歌う英語詞の2バージョンが収録されていた“KEMURI”は、オリジナルトラックはセンシュアルなエレクトロニカが際立つ楽曲だ。一方、ベスト盤では、RHYMEバージョンをピアノと最低限のビート、SEで構成。大沢のツイートによるとライブセットからの初蔵出しの楽曲となっている。そして、大きなトピックは今年1月に急逝したBig-Oことオオスミタケシが10年ぶりにラップを披露した“One Temperature”の収録だろう。オオスミ最後のスタジオ録音となったトラックのリリースに際し、細部のミックスを手直ししたという大沢。夜が明けていく人のいない渋谷の街に立ち、ゆっくり動き出す魂というラインの美しさはもちろん、リリックの中にごく自然に《何度でも新しく生まれる》という、大沢への共感ととれる。聴くだけでこみ上げるものがあり、言葉を操るアーティストとはクールに接している印象があるが、細部まで妥協のない仕上げにはオオスミへの敬意を感じさせる。MONDO GROSSOらしさの究極はこのトラックかも知れない。
このベストアルバムはMONDO GROSSOが残した遺産ではなく、今後への布石になるだろう。RHYME SOでのライブが反映されたトラックが収録されていること然り、大いなるビートの変更然り、31年目以降のMONDO GROSSOのサウンドスケープは既に描かれ始めている。
MONDO GROSSO OFFICIAL BEST Trailer
Text by 石角友香
INFORMATION
MONDO GROSSO OFFICIAL BEST
2021年11月3日(水)
[CD+Blu-ray]RZCB-87056~7 / B ¥4,700(+tax) *初回限定:紙ジャケット仕様
[CD] RZCB-87058~9 ¥3,200(+tax) *初回限定:紙ジャケット仕様
Track list
Disc-1[CD]
01. ANGER (Rhymin’ for original) (MGOB RMSTRD)
02. VIBE・P・M (MASTERS AT WORK REMIX) (MGOB EDIT & RMSTRD)
03. SOUFFLES H (Live Version) (MGOB EDIT & RMSTRD) *初CD化
04. TREE, AIR, AND RAIN ON THE EARTH (NIGHT FIRE CARNIVAL) (MGOB EDIT & RMSTRD)
05. INVISIBLE MAN (ORIGINAL BROWN) (MGOB EDIT & RMSTRD)
06. FAMILY (Hiroshi Fujiwara Remix) (MGOB EDIT& RMSTRD)
07. Give me a reason (MGOB EDIT & RMSTRD)
08. Closer (MGOB RMSTRD)
09. LIFE feat. bird (MGOB EDIT & RMSTRD)
10. BUTTERFLY (MGOB EDIT & RMSTRD)
11. NOW YOU KNOW BETTER (MGOB RMSTRD)
Disc-2[CD]
01. BLZ (MGOB EDIT & RMSTRD)
02. Everything Needs Love feat. BoA (RE-NEW) *新バージョン
03. SHININ’ feat. Kj (MG + THE FLYING BED REMIX) *新リミックス
04. 光 feat. UA (MGOB NEW MIX)*再ミックス
05. ラビリンス [Vocal:満島ひかり] (MGOB NEW MIX)*再ミックス
06. TIME [Vocal:bird] (MGOB RMSTRD)
07. 惑星タントラ [Vocal:齋藤飛鳥(乃木坂46) (MGOB NEW MIX)*再ミックス
08. 春はトワに目覚める(Ver.1)[Vocal:UA] (MGOB RMSTRD) *初CD化
09. 偽りのシンパシー [Vocal:アイナ・ジ・エンド(BiSH)] (MGOB RMSTRD) 10. One Temperature [Vocal:Big-O] (Big-O Extra Rises)
11. KEMURI [Vocal:RHYME](CHILLIN’ DUB) *新リミックス
12. Everything Needs Love feat. BoA (RE-NEW JP) *新録バージョン
【Blu-ray 収録予定曲】
Disc-3[Blu-ray]
01. ANGER (Rhymin’ for original) *初ディスク化
02. SOUFFLES H *初ディスク化
03. Laughter in the rain *初ディスク化
04. LIFE feat. bird
05. BUTTERFLY
06. NOW YOU KNOW BETTER
07. BLZ
08. Everything Needs Love feat. BoA
09. SHININ’ feat. Kj
10. 光 feat. UA
11. ラビリンス [Vocal:満島ひかり]
12. TIME [Vocal:bird]
13. 惑星タントラ [Vocal:齋藤飛鳥(乃木坂46)]
14. 春はトワに目覚める(Ver.1)[Vocal:UA]
15. 偽りのシンパシー[Vocal:アイナ・ジ・エンド(BiSH)]
16. One Temperature [Vocal:Big-O] *初ディスク化
17. Everything Needs Love feat. BoA (RE-NEW JP) *新録日本語バージョンのMV
PROFILE
MONDO GROSSO(モンド・グロッソ)
91年に京都でバンド結成。大沢伸一はリーダー兼ベーシスト。93年にメジャー・デビュー、世界標準のアシッド・ジャズ・バンドとしてヨーロッパツアーも行う。96年にバンドは解散し、大沢伸一が楽曲によって様々なアーティストをフィーチャリングするソロ・プロジェクトとなる。以降もその時代の革新的な音楽性を求めながら、「LIFE feat. bird」を収録した『MG4』、「EverythingNeeds Love feat. BoA」を収録した『NEXT WAVE』などヒット・アルバムをリリースして2003年に休止。2017年14年振りとなるMONDO GROSSOのアルバム『何度でも新しく生まれる』をリリース。iTunesアルバム総合チャート1位、オリコンアルバムランキング8位と音楽シーンの話題となった。満島ひかりが歌う「ラビリンス」のミュージックビデオはこれまでに3000万回以上再生されている。2018年にBiSHのアイナ・ジ・エンドが歌う「偽りのシンパシー」を収録した続編アルバム『Attune/Detune』もリリース。