「人とつながる、音楽でつながる」をテーマに、アーティストやクリエイターが紹介するプレイリストがバトンとなり、次々と絆ながるプレイリスト連載企画。DJ/音楽プロデューサーのNAOKI SERIZAWAがホストとなり、ウィズコロナ、アフターコロナ時代のクリエイティブについてゲストに話を訊きます。
この困難な時期、より良い世界に向かえるよう、音楽を通して人と人、想いと想いが世界で繋がっていくことを願います。
第4回目に登場いただくのは、東京・広尾のレストラン「81(エイティーワン)」のオーナーシェフ・永島健志氏。こだわり抜かれた意外性のある料理だけでなく、料理をサーブする順番や空間等にも独自の演出を盛り込むなど、エンターテインメント性の高いサービスを提供しています。コロナ禍を経ての永島氏の考え、想い、そして選曲いただいたプレイリストについてなどを語っていただきました!
NAOKI SERIZAWA × 81シェフ 永島健志
NAOKI SERIZAWA(以下 SERIZAWA) この連載では、自分らしい表現を追求するアーティストが考える、ウィズコロナ時代のクリエイティブについて話を聞いていて、健ちゃん(永島健志)には絶対に出て欲しいと思ってた。
永島健志(以下、永島) 今回、誘ってもらったのは本当に嬉しかった。ミクスチャーって俺らの世代にはあったと思うんだけど、音楽だったりストリートだったりが交わって、それがリアルにカルチャーとしてミックスしていく時代。音楽やレストランがクロスオーバーしていくきっかけに直樹くんと俺がなれたらすげー良い一歩だなって思ってる。
SERIZAWA そもそも俺たちが初めてコラボしたのがGoogle Pixelの企画で、賢ちゃん(小橋賢児)がプロデュースした「都会のキャンプ」をテーマにしたルーフトップのディナーイベント。レストラン81で前衛的なコースを提供してきたシェフ・永島健志が、キャンプ飯をテーマにカジュアルダウンしたコースを提供する。そこにNo.501がナチュールをペアリングして、俺は音楽を担当させてもらったんだ。あの時に最高にクールだと思ったのが、ポトフをサーブした後に『このポトフを半分食べたら、このカプセルをお皿に入れてください』って言って、実際にそのカプセルを入れたらポトフがカレーに早変わりするという。
永島 エクスペリエンスだよね。今回は、プレイリストを作って欲しいってことで、やってみたけどすごい難しいね。でも考え方は料理と一緒だった。最後の最後に思ったのが結局オレ達はエクスペリエンス屋なんだなと。「こと」や「体験」を売っている。
SERIZAWA それこそレストラン81のスタイルだよね。料理が美味しいのは当然、サーブされる一皿一皿のアイディアが独創的で、驚きとユーモアに溢れてる。それらをコースとして出す順番にもストーリーがあって、この洗練された空間全体で魅せるショーを体験してるような感じ。
SERIZAWA ところで、緊急事態宣言中はどのように過ごしてた?
永島 本当に音を立てて何かが崩れるような。はい、ゲームチェンジだよって言われてるようにすら感じたよね。その時に考えたのは、もちろん自分のビジネスのこと、家族のこと、世の中のこと、世界のこと。そのバランスを取ることを意識していて、その先にあったのは、どうやって生きていこうかな? っていう、自分の「生き方」や「在り方」についてだった。
SERIZAWA すごくわかるよ。
永島 「これからどうすんの?」っていうのを迷っているというより「俺たちって何?」ってことをずっと考えてた。緊急事態宣言下で外出の自粛も叫ばれ始めて、店も休業せざるを得なくなった時「俺らは世の中にとって必要だったのか? そうじゃないエゴの押し付けだったのか?」とか、そんな事ばかりを考えてる時間だった。
SERIZAWA 緊急事態宣言中に、SNSで『食の意義を見つめ直した時、ぼくらの想いはシンプルだった』と言ってハンバーガーを提供したじゃない? これまで敷居も高かったレストラン81が純粋に料理を届けたいってことなのか、その言葉がすごく胸に響いたんだよね。
永島 仲間とみんなで集まることができないなかで、落ち込んだり、寂しかったりしても、食事っていうのは人を前向きにできるから。腹が減っては戦はできぬじゃないけど、とにかく食おうぜみたいな。で、俺たちは、レストランができなくて何ができるんだ? って考えた時に、「美味いものを作ろう」だったんだよね。こうやって時間決めて、エンターテイメントにこだわって、ショーを提供するのが難しいなら、シンプルに俺たちの大好きなハンバーガーを届けようって。散々、非日常を届けてきたんだけど、いま必要なのは背伸びした非日常ではないって思ったんだよね。
SERIZAWA 緊急事態宣言中は同じ空間を共有する喜びを分かち合うのが困難になった。みんなでレストランで美味しいご飯を頬張りながら会話を楽しむことや、クラブで集まって爆音を浴びながら踊ってお酒を交わしながら語ることとか。どちらも、好きなもの、好きな時間を共有して、リアルに人と繋がることが大切だったけど、そういうことができなかった。コロナ禍で価値観がひっくり返るようなことが起きた今、レストラン81として、永島健志が表現したいクリエイティブってなに?
永島 俺たちは、レストラン81という箱を作って、そこにお客さんを招いて非日常を創ることに命をかけてきた。これからは、もしかしたらそれとは別の箱を作ってお客さんに届けなくていけないのかもしれない。コンセプトやストーリーの届け方を意識した、家の中でできること。常に「日常にプラスα」できるものを創っていけるチームでありたいとみんなで話をしてる。今まさに産むのに苦労してるよ。
SERIZAWA もっと詳しく聞かせてくれる?
永島 このレストランを産んだのは俺だけど、レストラン自体はチームのみんなで創ってる。カウンターの向こう側にお客さんが座ってて、そのインサイドとアウトサイドのボーダーが崩れていったら面白いレストランができるなってイメージ。
SERIZAWA なんかフェスみたいだね。オーガナイザーとDJとオーディエンスの関係に似てる。
永島 そうそう。千利休が数百年前に「一座建立」「主客一体」と言ってるんだけど、茶の湯の世界で、ゲストもホストもないという意味で。それをコンテンポラリーにやれるかどうかが、次の81のテーマだったりする。俺たちは毎日パーティをやってる感覚。みんなで一緒に創っていくスタイルっていうのが、今俺がやりたいことかな。
SERIZAWA 本当にたくさんのことが変わったよね。
永島 うん。世の中が変わったから俺たちも変わるしかない。全ては相対なんだなって考えてたよ。そして時間軸を意識するようになった。俺たちが生きてる地球。例えるなら宇宙船地球号なわけですよ。その乗組員が、人間も動物も含めてみんな乗ってるでしょ? じゃあ、その船の行き先っていうのはどこに向かってるのかな? それは場所ではなく、未来なんだよ。そこには時間の概念が加わり、物事の考え方が平面から立体になり、四次元になる。その上で新しいルールを作っていこうよ。
SERIZAWA 僕たち地球に住む全ての生命体の行動で未来が変わってくるわけであって、コロナがあった未来となかった未来では進む方向が100%違っていたはず。大人数の人がコロナ禍をきっかけに立ち止まり、自分の在り方、社会とのつながり、未来について考え、本質を求めてきた。
永島 だから今、大事なものは何かを見つめ直し、その大事なものを次の世代に残す。今はその大事なものを決める段階。それが新しいルールであり、ニューノーマル。ニューノーマルって言葉はあるけど、中身はまだはっきりわからないじゃん? 歴史的に見ても稀有なタイミングだよね。もう、何かにアゲインストするんじゃなくて、政治とかも含めて、みんなでこの後どう楽しむ? 新時代くるじゃん? って考えていかなくてはならない。みんな意識変えようよ。自分の人生を大事にしよう。それは子供たちの人生を大事にすることであり、未来を大事にすることだから。みんな今こそ変わる時だよって。
永島健志
プレイリスト・テーマ「Days memories」
SERIZAWA 最後にプレイリストのテーマを教えてください。
永島 テーマは、シンプルにフェス。いま自分が一番欲しいもの。一体感、グルーヴ、コミュニティー、サバイブ、キャンプ。そういうものを全部含めて仮想フェスみたいなラインナップで作ってみた。10代の頃好きだったミクスチャーだったり、ハイスタみたいなロックだったり、音楽の道で頑張ってる友達の曲もたくさん入れた。若い頃から好きだったものや思い出も含めた、自分自身のメモリアルみたいなプレイリストになってます。
永島健志|Takeshi Nagashima
1979年生まれ。数軒のレストランで経験を積んだのち、三ツ星ナンバーワンを5回獲得したスペインのレストラン「エル・ブリ」にて修行し帰国。2年後に「81(エイティーワン)」をオープン。ディナーは1日8席限定の完全予約制・ドリンク込みのフルコースで、「開場」「開演」19:00一斉にスタートするという独自のスタイルをとっている。
NAOKI SERIZAWA
東京を中心に音楽活動をするDJ/音楽プロデューサー。NYのアーティストコレクティブ兼レーベル〈CREW LOVE Records〉よりデビュー。これまでにアジアはもとより、ヨーロッパや南米など世界各地の20都市以上でプレイを重ねてきた。ここ日本では<FUJI ROCK FESTIVAL>に6年、<Ultra Japan>に4年連続で出演。ブルックリンのTHE LOT RADIOやイタリアのm2o RadioのSignal Hillsのゲストミックスに出演するほか、国内でもJ-WAVEやInter FM、DOMMUNEなでライブミックスを公開してきた選曲のスペシャリスト。2020年、USのレーベル〈WOLF+LAMB Records〉より“El Final Del Verano”と“Yesterday”の2枚のシングルをリリース。