ポルノグラフィティが8月3日にリリースした、約5年ぶりとなるアルバム『』。本アルバムの収録曲を1本のビジュアル作品として構築した『Visual Album“暁”』が8月6、7日の2日間、全国の劇場で限定公開された。

『Visual Album“暁”』は、『暁』に収録されている15曲すべてのMVが、ショートフィルムを介して構成されたビジュアル作品で、SNSでは公開直後から、作品の全貌を目撃したファンからの様々な反応が飛び交っている。果たして本作に秘められた意味と意義とは何だったのか? じっくりと紐解いていきたい。

映像喚起力の高い楽曲MVを国内外のクリエイター陣が手がける

ポルノグラフィティのニューアルバム『暁』は紛うことなき傑作だと思う。今年9月でデビュー23周年を迎える彼らは、そのキャリアの中で数多くのヒット曲を叩き出し、多彩な表情を持つポップセンスと聴き手の心を捉えて離さない圧倒的なボーカル力によって、揺らぎなき存在感をシーンに刻み込んできた。そこで生まれたパブリックイメージに苦しんだ時期もあったとは思うが、今のポルノは自分たちの信じた音をナチュラルに鳴らしている。そして、バンドとしての目覚ましい進化をしっかりと楽曲に注ぎ込んでいる。『暁』はそんなことを鮮烈に感じさせてくれる仕上がりなのである。

本作において、ギタリストである新藤晴一がすべての作詞を手掛けていることもひとつのトピックだ。リリシストとしてポルノの魅力を担ってきた新藤晴一は、いつも以上に物語性を感じさせる歌詞をたっぷりと書き上げた。それぞれの曲に身を委ねることで、聴き手は自分なりの物語を脳内で映像に変換することができるはず。その感覚こそが、今回の『Visual Album“暁”』に繋がったような気がしてならない。映像喚起力の高い楽曲たちを、国内外の様々なクリエイター陣がどんなMVに仕立て上げるのか。その好奇心は至極、納得のいくものだ。

『Visual Album“暁”』は、『暁』に収録された15曲それぞれのMVがアルバムとは違った曲順で並び、その合間に、父親と母親、そして娘という3人家族の日常を描いたショートフィルムが挟み込まれることで、大きなひとつの物語が生まれた作品だ。シングル曲であった“カメレオン・レンズ”、“ブレス”、“フラワー”、“Zombies are standing out”、“VS”、“テーマソング”はリリース時に作られたMVがそのまま使われているが、残り9曲分のMVが今回のタイミングで新たに撮り下ろされている。

ポルノグラフィティ “暁” トレーラー映像 / PORNOGRAFFITTI “AKATSUKI” Trailer

世界中のクリエイターがMVを撮り下ろし

バトロワ・ゲームズ”は、キッズダンサーのキレのあるダンスをフィーチャーしながら、楽曲からのインスピレーションであるゲーム的要素を盛り込んだ作品に仕上がっていた。またフランスの舞台芸術家・振付師であるマノン・ブーケとのコラボレーションで生まれた“証言”は、10名のダンサーの情熱的なダンスが圧巻な映像となっている。“You are my Queen”では、レコードのターンテーブルを模したステージの上で個性豊かなモデルたちが楽曲の世界観を鮮やかに表現。韓国のシャーマン監督による“メビウス”は韓国・ソウルを舞台に男女の恋愛ストーリーを展開、ポルノの2人も歌唱シーンで登場している。

ジルダ”は人種も国境も超えた様々な人たちが楽曲を口ずさむ短尺動画が繋ぎ合わさって構成されており、合間に挟まれる岡野昭仁と新藤晴一の微笑ましいショットにファンは笑顔がこぼれるはず。中国のジャマール・ハオ監督によって成都で撮影された“クラウド”は、タイトルにタバコの煙を結びつけ、男女の関係をリアルに切り取ったショートムービーのような仕上がりとなった。さらに“悪霊少女”はジャカルタのアニメーター・Merry WijayaによるアニメーションMVで表現され、モノクロ映像の中、月や少女の涙といったわずかな部分に差し込まれる淡い赤色が強く印象に残る映像に。

アメリカと日本の文化をバックグラウンドに持つというアントニー・ヤノ・ヘイズ監督が撮った“ナンバー”では、家出をした男女によるロードムービー的なムードが漂う。罪を重ねながら2人だけの幸せを紡いでいく姿は大きなインパクトが感じられた。そして、タイトル曲である“”のMVは、クリエイティブ集団・kidzfrmnowhereの創設者YUANNが監督を担当。ステージの上部でポルノの2人がパフォーマンスし、下部ではSeishiroのコリオグラフによるダンスをダンサーたちが美しく舞い踊る。そのコントラストの妙と、バックの夜明けを想起させる鮮やかな光はアルバムに込められたメッセージを象徴しているようだ。

ポルノグラフィティ『暁』MUSIC VIDEO

ポルノグラフィティ『悪霊少女』MUSIC VIDEO

多彩なクリエイターたちが手がけた作品群は、楽曲の世界に寄り添ったものもあれば、あるリスナーにとっては楽曲の印象に直結しないものもあるだろう。ネット上では、そこに違和感を覚えているファンの声も見受けられた。たしかに、ポルノへの愛が強ければ強いほど、受け入れられない部分があることも理解できる。そういった意味では、いわゆる日本の音楽シーンにおけるMVとは少し違った概念で作られたものであり、「ビジュアル作品」と呼んだ方がいいかもしれない。

だが、それぞれの作品がポルノの楽曲にインスパイアされて生まれたものであり、音楽とともに観るべき作品であることは間違いない。個人的には、J-POPのど真ん中を長年走り続けてきたポルノの楽曲が海外クリエイターの耳にどう届いているのかを、今回の映像群から感じられた点が非常におもしろいところだった。国内のみならず、クリエイターの想像力を無限に掻き立てる音楽としての魅力をポルノが持っていること、それが明確に証明されたことは非常に有意義なことだったと思うのだ。

楽曲の受け取り方は千差万別。聴き手の人数分だけの解釈があって然るべき。その結果生まれた、ある種、一貫性のない15本の映像を、最終的に光へ導いてくれる1本のストーリーに仕立て上げた本作は非常にチャレンジングでありながらも、エンターテインメントとしてのひとつの可能性を見せてくれるものである。そこに大きな賛辞を贈りたい。だが、言わずもがなポルノのアルバム『暁』が導き出すストーリーは、『Visual Album“暁”』で示されたものだけが正解ではない。聴き手一人ひとりの頭の中で紡ぎ出されるストーリーもまた、かけがえのない正解であると思うのだ。『Visual Album“暁”』の体験を通して、自分なりの『暁』に向き合ってみるのも楽しいのではないだろうか。

INFORMATION

ポルノグラフィティ『Visual Album“暁”』に秘められた意味と意義──15のMVと1つのストーリー column220809_pornograffitti-02
初回生産限定盤
ポルノグラフィティ『Visual Album“暁”』に秘められた意味と意義──15のMVと1つのストーリー column220809_pornograffitti-01
通常盤

2022年8月3日
ポルノグラフィティ

仕様:
初回生産限定盤A(CD+BD) SECL-2773~2774:¥5,500(tax incl.)
初回生産限定盤B(CD+DVD) SECL-2775~2776:¥5,000(tax incl.)
通常盤SECL-2777:¥3,300(tax incl.)

収録楽曲:
1.暁
2.カメレオン・レンズ
3.テーマソング
4.悪霊少女
5.Zombies are standing out
6.ナンバー
7.バトロワ・ゲームズ
8.メビウス
9.You are my Queen
10.フラワー
11.ブレス
12.クラウド
13.ジルダ
14.証言
15.VS

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