Review:SixTONES『Good Luck!/ふたり』
SixTONESが11月2日に発売する8thシングル『Good Luck!/ふたり』。グループ史上初となる両A面シングルとして表題を飾る2曲は、ジェシーと京本大我のそれぞれが自身初主演を務める連続ドラマ主題歌に。今年6月発売の7thシングル『わたし』もまた、松村北斗が出演を務める連続ドラマ挿入歌に起用されていたように、メンバーによるここ最近の舞台〜ドラマ関連での活躍ぶりには目覚ましいものがある。そうしたグループの表現面での総合力や、つまるところアーティストとしての“幅広さ”が、コントラストのある表題2曲を備えた本シングルでは特に表現されているようだ。
そこで本稿では、今回の表題曲“Good Luck!”“ふたり”のほか、通常盤のみ収録のカップリング曲より、代表して“わたし -Lo-Fi ChillHop Remix-”をレビュー。文字量の関係上、もう一方のカップリング曲“Sing Along”に触れられず恐縮だが、楽曲にまつわる情報を深く知れば知るほど、SixTONESの音楽作りに向けた哲学を体感できる“わたし -Lo-Fi ChillHop Remix-”について、ぜひとも深掘りさせてもらいたい。
Good Luck!
大切な試験や新生活、あるいはここぞという頑張りどき……人生の重要な場面で何度でも聴き倒したい胸に沁みる王道の応援ソング。ジェシーが主演を務める今秋放送の連続ドラマ『最初はパー』(テレビ朝日系)主題歌に起用された、SixTONESには珍しいど直球のブラスポップである。
特徴的なのは、メンバーのファルセットを用いた歌声。曲中に飛び交うコーラスや、情熱的ながらも印象としては涼しげなハーモニーは、応援ソングによくある“背中を押す”という表現より、自分の肩にのる重荷を軽やかな風でそっと払い去ってくれる……という表現の方が似合うようにも感じられた。その要因は、サビの2フレーズ目《最後はやっぱり笑って踊ろうぜ》をブレス抜きで、どこか切なさを含めて流れるように歌ってくれるところにあるのだろう。そのほか、田中樹がカマしまくる楽曲後半のラップパートから大サビへの繋ぎの巧みさと心地よさが異常すぎる。
SixTONESの音楽が鳴り続ける限りは、我々の足取りも止まらない
まったく別の話になるのだが、ヒップホップというジャンルを紹介する際、自身の格好よさを100通りの違う言葉で表現するものだと語られることがある。この楽曲においては、歌詞全体を通してありとあらゆる言葉を尽くして“Good Luck!”を別に言い換え、何度でもそのメッセージを伝えようとしている点は同様だろう。《明日は明日の風に乗ってさ ありのまま進め》。《今の君がNo.1 胸張っていこう》。つまりは、聴き手の健闘を祈る、“Good Luck!”を届けたいのである。大切なことは何度でも言う。なんたる力強い楽曲だろう。
ここまで我々を応援し、素晴らしい楽曲を届けてくれただけでもすでに感謝なのだが……楽曲終盤には、SixTONESからの贈り物といえる歌詞が。それは《Don’t stop the music! Weʼll never stop it》という部分。聴き手の努力を支えるように、彼らがしてくれるのは“音楽を止めないこと”。ここでの“We”はあの頼もしい6人を示すのかも知れないし、はたまた我々を含めてのものかもしれない。いずれにせよ、SixTONESの音楽が鳴り続ける限りは、我々の足取りも止まらないのである。たとえ格好悪くとも、人生はありのままで進み続けるものとは、SixTONESが「Good Luck!」を通して改めて教えてくれたところだ。
ふたり
日常に感じるかけがえない幸せや、想いが強くなるほど感じる儚さを描いた純愛ラブソング。京本大我が主演を務める今秋放送の連続ドラマ『束の間の一花』(日本テレビ系)主題歌に起用された、ストリングスがすべてを包み込むような極上のバラードである。
曲中の《ほら、迷わず進もう いつもあなたの そばにいるから》のフレーズでは、たとえ《どんな明日》が待ち受けているとしても、躊躇わずに進み続けようと約束する想いを、楽曲を通して唯一、ボーカルの拍子を変えて強く印象付けたり。はたまた《うるさいほどに鳴り響く秒針》をサウンドで描いたり。近年のスタンダードとなっている、打ち込みのハイハットを加えたり。落ちサビでは、ジェシーのボーカルに歪ませた加工を加えて、そこから京本のパートで一気に開放感を増幅させたり。ただ普通に歌っても“いい曲”として成立しそうなところを、しっかりとプログレッシブなアレンジも織り交ぜるあたりが、SixTONESらしいところだ。
「Good Luck!」とは異なる性質の「優しさ」
ボーカル面についてもう少し掘り下げると、この楽曲で浸れるのはメンバーの優しさと切なさが同居した歌声。その表情は、同じ優しさでも“Good Luck!”とは異なる性質で、楽曲の物語を雄弁に語るピアノに引っ張られるように、メンバー全員の感情表現も豊かになっている。特に、落ちサビ以降の京本による上ハモやフェイクを交えた歌唱は、彼の持ち味を存分に活かしたところ。もしこの楽曲が京本主演のドラマ主題歌でなくとも、彼はこの重要な役割を担っていたに違いないと思わせられるくらいに。
また、本来的に持つ意味とは少し異なるのだが、あくまで『束の間の一花』のあらすじを把握した上で楽曲を聴いて、“カーテンコール”という言葉がふと思い浮かんだ。舞台などの終幕後に観客が拍手をし、退場した出演者が舞台に呼び戻されるカーテンコール。“ふたり”を通して、残された時間を名残惜しむ、あるいは舞台を見た上で何かに納得しようとするような感覚を感じたのだ。
今日がもし最後の日でも最高と言える。大切な人との何気ない一瞬一瞬を、そんな想いで過ごしていきたいと思わされる。『束の間の一花』でこれから描かれていくだろう物語の展開に想像を膨らませると、同ドラマの主題歌として“ふたり”がこれ以上なく相応しい楽曲だと確信できることだろう。
わたし -Lo-Fi ChillHop Remix-
原曲は、松村が出演した今年春に放送の連続ドラマ『恋なんて、本気でやってどうするの?』(カンテレ・フジテレビ系)挿入歌。今回のリミックスでは、アナログ感ある温かなサウンドが世界中で愛され続けるジャンル“ChillHop”を採用しており、スムースでアーバンメロウなトラックはドラマとの親和性も考えたものだろう。最終話を終えた今だからこそ、物語のストーリーにまた違った深みや味わいをもたらしてくれるはず。
それにしても、ピアノとシンセの音色が心にじんわりと溶けて広がっていく、バスルームやベッドルームでじっくりと流したい一曲である。リミックスとしてさまざまなアレンジの選択肢が考えられるなかで、誇張抜きにベストチョイスだったのではないだろうか。
また、SixTONESによるボーカルを聴かせることを第一にしていることも評価ポイントといえる。リミックス音源にありがちな、歌声がトラックにかき消されるということも、原曲のメロディや構成の素晴らしい部分を潰してしまうということもない。タイトルで“Lo-Fi”を謳いながらも、“Lo-fi Hip Hop”の特徴である強めのスネアの使用を避けているあたり、ボーカルへの配慮を特に感じられた。
“ノンジャンル・ボーダレス”のSixTONESが凝縮
そんな“わたし -Lo-Fi ChillHop Remix-”の制作には、井上惇志 (showmore)、磯貝一樹、熊井吾郎の3名が参加。そのジャンルを好む人間が見れば、“このメンバーが介する楽曲がそう易々と存在するのか”と驚くだろう錚々たる布陣である。順に、井上はジャズやヒップホップをベースとするポップユニット・showmoreのキーボード担当で、今回のリミックスでもキーボードを演奏。これまでに、ラッパー・KEIJU(KANDYTOWN)「Falling」や、変態紳士クラブの大ヒット曲“YOKAZE”で演奏に参加するなど、信頼と実績のあるプレイヤーだ。
磯貝は、ヒップホップやネオソウルを得意とするギタリスト。今年4月には、ジャズやヒップホップを扱うグループ・SANABAGUN.に加入して活躍の場を広げているほか、直近ではKEIJUと同じくKANDYTOWN所属のラッパー・Ryohuのワンマンライブに出演予定。そんな彼らのまとめ役を担うのが、DJ/トラックメイカーの熊井。ラッパー・BIM “Time Limit”など数々のトラックメイクをはじめ、あのKREVAのバックDJを務めるほどの人物である。
上記3名がメインで活躍するヒップホップ界隈でもなかなか実現しないだろう理想のキャスティング。そんな理想を、自分たちのテーブルに広げて叶えてしまうSixTONES。こうした才能のクロスオーバーを大切に意識しているところもまた、このグループのすごいところである。
SixTONESの音楽は“ノンジャンル・ボーダレス”だと謳われることが多いが、今回のシングルはまさに、今年1月発売のアルバム『CITY』で体現してきたことを、シングル単位に凝縮したものといえる。その最大値となる楽曲が“わたし -Lo-Fi ChillHop Remix-”なのだ。本シングルが対極的な楽曲を並べた両A面になった意味や、楽曲の制作陣について深く掘れば掘るほど、SixTONESが大切にする“幅広さ”の輪郭を、ますますリアルな感度でなぞってもらえるのではないだろうか。
Text by 一条皓太
SixTONES – Good Luck!/ふたり nonSTop digeST / Good Luck!/Futari nonSTop digeST