lyrical school・hanaのコラム『“スキ”は細部に宿る』第3回「意外と大丈夫」。hanaが出会った古今東西の“スキ”を掘り下げていくとともに、撮り下ろし写真も掲載。出会った時、靄のかかった生活に光が刺すようなその一文、一瞬、一枚を紹介していきます。(Qetic編集部)
もっと感情の赴くままに言葉や態度に出せたらいいのに、と思うことが多々ある。
伝えたいことを、伝えるべきかどうかを考えるより先に衝動的に動き出したい。いつも遠慮してしまって、結局言いたいことが言えなかったり、思ってもないことをよく言ってしまう。不完全燃焼な気持ちで家に帰って、上手くいかなかったことだけが今日のハイライトとして思い浮かんで、自分の言動を振り返ってはよく反省する。
そんな煮え切らない気持ちでいる時の強い味方が、映画だ。
登場人物が葛藤する姿と自分を重ね合わせながらその一部始終を見守っていると、溜まっていた思いがいつの間にか消化されていく。
そして鑑賞後には気持ちがリセットされて軽くなり、これからも生活を続けていこうとギアを入れ直すことができる。私にとっての映画鑑賞は、ちょっと時間食うな、と頭の片隅で思いつつも贅沢で掛け替えの無い体験だ。
ある日、普段はあまり手をつけない邦画でも観ようと思い立って何となく観始めたのが松岡茉優さん主演の『勝手にふるえてろ』だった。
話をざっくりとまとめると、同じ会社の男性に猛アタックをされて悩んだ末に付き合うも、10年間片想いをしている中学校の同級生のことを諦めきれない主人公・ヨシカが、現実と空想の恋愛を行ったり来たりするラブコメディだ。
物語としてはシンプルでリアリティのある展開だけれど、上手くいかない恋愛へのフラストレーションをそのまま言葉や態度に出し、本能のままに行動するヨシカの姿が軽快に描かれていて、観ていて気持ちが良かった。
その中でも印象的な場面がある。
ひょんなことから彼氏にコンプレックスを知られたヨシカは、プライドが傷ついたのか赤の他人になりすましてSNSに弱音を吐く。彼女は正気を失って、彼氏との関係も停滞してしまった。
それでも彼氏からの連絡が来なくてソワソワしつつ、淡々と暮らしを続けていく。
そしてお風呂に入りながら先日投稿したツイートに寄せられた励ましのコメントたちを見て、意外と早く傷が癒え始めていることに気づくシーンだ。
それまで完全に彼女のペースに飲まれていたが、このシーンで我に返った。作品のコピーライトによくある「共感を呼ぶ」とか「勇気を貰える」という言葉よりももっとリアルで、ヒリヒリとしてしまうような感覚があった。
ついさっきまで自暴自棄になっていたのにもかかわらずあっけらかんとしているヨシカに対して彼女らしくないなと一瞬思ったものの、腑に落ちている自分がいた。
一大事があって、世界の終わりみたいに凹んで、それでも何とか落ち着いていく。この感情の起伏を一切包み隠すことなく表に出せるヨシカが最強に思えて、羨ましく感じた。
そして、彼女のように、色んなことが起きても意外と大丈夫だということに気づいてしまった私は無敵なのではないか。きっとこのシーンがお守りになって、これからも必要な時に自分を包んでくれると思う。
また立ち止まった時は、きっとこの映画を思い出すだろう。