lyrical school・hanaのコラム『“スキ”は細部に宿る』第4回「きっかけ、そしてこれからも」。hanaが出会った古今東西の“スキ”を掘り下げていくとともに、撮り下ろし写真も掲載。出会った時、靄のかかった生活に光が刺すようなその一文、一瞬、一枚を紹介していきます。(Qetic編集部)

きっかけ、そしてこれからも column230714-sukisai2

写真を撮ることが好きだ。その瞬間でしか見ることができない人の表情やその場の雰囲気を1枚に閉じ込めて保存することができるから。
スチールよりも自然なスナップ写真が好きで、中学生の頃に初めてカメラを手に入れてから、日常的に撮ることが多くなった。

高校3年生の時、文化祭で仲の良い友人と2人で写真展を開いた。
制服を着て、学校行事にも本気で打ち込むことができた青春時代の思い出を改めて目に見える形にしたい、というテーマで企画したものだったが、大学受験も控えていた頃で余裕も予算も無く、3年間で撮りためていたふとした瞬間を捉えた写真をコンビニのコピー機を長いこと占領しながら現像して狭い教室に展示しただけだった。

きっかけ、そしてこれからも column230729-saukisai-1

しかし、展示は思いのほか好評だった。記憶をありのままに視覚化した空間が、同級生からたまたま訪れてくれた人にまで居心地の良さを与えられていたようだった。訪れたほとんどの人が時間を気にせずゆったりと展示を楽しんでくれたし、嬉しい感想をその場で伝えてくれた。何かを表現する仕事がしたいと思い始めたのはこれがきっかけだと言えるくらい、大切な経験となった。

きっかけ、そしてこれからも column230729-saukisai-2

2021年の冬、写真家の川島小鳥さんの写真展に行った。
俳優の仲野太賀さんを4年間密着して撮影した写真集を発売するにあたって開催されたイベントだ。川島小鳥さんのSNSでたまたま情報を目にして、一度は彼の展示に行ってみたいという気持ちでユトレヒトという神宮前にある小さな本屋に足を運んだ。仲野太賀さんについては、名前を聞いたことはあったが出演作品を見たことは無かった。

展示作品を見てみると、まずは仲野太賀さんから受ける印象が、どんなロケーションやシチュエーションで撮られていてもほぼ同じトーンであることに驚いた。つい先程までは顔と名前しか分かっていなかったのに「彼はこういう人なんだ」と一目で理解することができるのは、飾らずに、それでも決して気が緩んでいるように見せない被写体の力と、その姿を丁寧に捉えるカメラマンの技量が上手く作用し合っているからなのではないか。

きっかけ、そしてこれからも column230729-saukisai-3

そして、何よりもこのバランスが成り立つのは2人の関係性があってこそだと思った。相当の信頼関係が無いとここまで繊細な日常のワンシーンを切り取れないだろうと勝手に思っていたが、調べてみたら以前も一緒に作品を作っていた仲のようで腑に落ちた。
買うつもりはなかったけれど写真集を衝動的に手に入れたくなって、なけなしのお金を使って購入した。今でも自分が撮る写真のお手本にしたり、心を落ち着かせるための万能な宝物として、部屋に大事に飾ってある。

きっかけ、そしてこれからも column230729-saukisai-4

自分がどのようなものに惹かれるのかを改めて教えてくれた出来事だった。そしてこのことは、自分の目指すアーティスト像や、このコラムの執筆を通して伝えていきたいことにも通じるものがあると感じた。
周囲の方々と手を取り合いながら、自然体の自分でまずぶつかってみる。まだいけると感じたらどんどん磨いていけば良い。この過程で残していくものたちが、誰かの心に残ることをめげずに目指してみたいと思った。どんな形であろうと、どれだけ時間がかかろうと。

きっかけ、そしてこれからも column230729-saukisai-5

“スキ”は細部に宿る

INFORMATION

きっかけ、そしてこれからも column230609-saukisai-10

hana(lyrical school)

InstagramTwitter

lyrical school

8人組のHIP HOPユニット。
初めは2010年に女性6人組のヒップホップアイドルユニットとして結成。
幾度かのメンバーチェンジを経て、2023年2月に、男性を含む新メンバー7名が加入し、現在の体制に。
InstagramTwitterHP