lyrical school・hanaのコラム『“スキ”は細部に宿る』第9回「ふとした出会い」。hanaが出会った古今東西の“スキ”を掘り下げていくとともに、撮り下ろし写真も掲載。出会った時、靄のかかった生活に光が刺すようなその一文、一瞬、一枚を紹介していきます。(Qetic編集部)
「何かを好きになること、そしてそれを公言することには勇気がいる。」最近観に行ったライブのMCで聞いた。この連載も9回目、惜しげもなく自分の“スキ”を語ってきた私は少しドキッとしたけれど、確かにそうだと思った。好きなことを語るのは、自分自身を曝け出すことと一緒で、何かを「好き」と言えば「私はこういう人間です」という自己紹介の代わりになり得る。好きになったきっかけや思い入れが伝わっていなければ、誤解されることだってある。
その中でも特にジャッジされがちなのは、どのくらいの期間好きでいるのかだと思う。例えば音楽アーティストなどのファンは、まだ興味を持ち始めて間もない頃は「新規」、少し意地悪に言うと「にわか」と呼ばれたりする。こういった単語が存在するあたり、世の中からの好きという気持ちに対する厳しさが伺える。高校時代、仲は良かったけれどあまり掴めなかった友人も、好きな対象についての経歴やエピソードなどをWikipediaのように隅々まで詳しく知っていなければ好きだと言うべきではない、と話していたことを今でも覚えている。
何かを好きになることに一生責任を負わなければいけないのか。
体裁を気にして好きという気持ちに嘘をついてしまうなんて悔しいし、四六時中同じものを同じくらいの熱量で好きでいられるなんて難しい。気持ちの赴くままに、どんどん新しいことに触れてみる。それはもちろん、休憩を挟みながら自分のペースで楽しむでもいいし、興味を持ち始めたばかりで虫食いのような知識しかなくても、素直に心惹かれるものを大切にコレクションして吟味していけば、これから自分にとって大切な選択をしなければならない時にも、その道に明るく光を灯してくれると思う。
そんな雑多な嗜好までを肯定してくれるもの、それは雑誌だ。
ページをめくっていけば、エンタメ、食、アートやファッションなど、様々なテーマの特集が待っている。雑誌の後半にまとまっている、本編とは別の連載コーナーを読むことも好きだ。見開きのページにジャンルの異なる特集がお弁当箱のようにぎっしりと詰められている。次々と飛び込んでくる面々に目移りしながらも、箸を止められない。好奇心のままに全部読み進めればお腹いっぱいだ。
雑誌の中でも特に好きなのが、高校生の時から愛読しているGINZA。ファッションだけではなく、音楽や映像、インテリアなど様々なカルチャーをテーマに扱っていて、ユニークな写真や細部までこだわられたデザインが特徴のファッション誌だ。
11月号のテーマは『LYRICS POWER 歌詞が主役の音楽特集』。
曲の歌詞に注目して、芸能人や文筆家の方々が心を掴むワンフレーズを紹介したり、それらが持つパワーについて語っている。
特に印象に残っているのが様々な分野で活躍する13名がそれぞれのお気に入りのリリックを紹介する『私のいちばん好きな歌詞』という特集。
彼らが選んだ渾身の一曲は、もちろん長年好きなミュージシャンのものを選んでいた人もいたけれど、街を歩いていて不意に聴こえてきたものだったり、サブスク系のおすすめに出てきたことで偶然耳にしたものが多かった。歌詞と当時の自身の境遇や想いが綴られていて、普段はあまり語られない著名人の内面を知ることができる魅力的なコーナーだった。
ついでに、私が思い入れのある歌詞も紹介したい。
リュックと添い寝ごはんさんの『Thank you for the Music』という曲の「きっとこれからは別の思い出 旅の途中に出会ってくれて 僕は幸せです どうかこれからも あなたの心にいさせて」という歌詞。この曲もたまたまYouTubeのShortsに投稿されていたもので、十数秒間のワンフレーズを耳にしただけで一瞬にして自分のお気に入りの曲となった。
lyrical schoolのオーディションを受けようと思ったきっかけも旅先の音楽フェスで偶然出会ったアーティストの方だったし、今でもその曲を聴けば当時の心情が蘇り、メンバーになることができた自分を応援してもらっているような気分になる。
素直に心動かされるものとは、意図することのない出会いがあって、瞬時に自分の気持ちとリンクするものがあるのだと思う。これからもこの連載を通して、かけがえのない存在と出会っていきたい。