レビュー:EP『DICE!』
Tim Pepperoni & Puckafall

賽を振れ。Puckafallの手がける、例えばトリッピー・レッド(Trippie Redd)『Trip At Knight』やプレイボーイ・カーティ(Playboi Carti)『Whole Lotta Red』などに代表されるレイジ(Rage)とも共振する派手なシンセが暴れるビートと火花を散らすように、持ち前の高音かつメロディアスなフロウでTim Pepperoniは言葉を乗せる。

狂気と共に疾走していく──Tim Pepperoni & Puckafall EP『DICE!』レビュー column230117-tim_pepperoni-puckafall-02
注目のラップ・コレクティヴ Sound’s Deliのメンバーとしても活動するTim Pepperoniと、新進気鋭のビートメイカー・Puckafallがタッグを組んだ初のダブルネームEP『DICE!』が2022年12月18日にリリースされた。
 
数々の話題作をプロデュースし、海外のラッパーからも一目置かれるPuckafallが、全ビートを担当。客演には、Red Bullがキュレートするマイクリレー企画『RASEN』にも出演し注目のラッパー・rirugiliyangugiliが参加した。

フジロック「ROOKIE A GO-GO 2021」にも出演した東京を拠点に活動するヒップホップコレクティブ・Sound’s Deliの一員であるTim Pepperoniと、2020年からビートメイキングをスタートさせ海外からも注目を浴びる新進気鋭のビートメイカー・Puckafallがタッグを組んだEP『DICE!』は、ある欲望についての作品である。

『DICE!』。つまり賽を振ること。ただそれだけ。Puckafallのビートの上でTim Pepperoniが求めるのは、ただ賽を振るという行為それだけなのだ。手に汗を握り、ポーカーフェイスを保ち(“DEPT”)、高鳴る鼓動を悟られぬように(“HONOO”)、Tim Pepperoniは賽を振る。他でもない自分自身のために(“BENJAMIN”)、賽を振り続ける。

一周でもこのEPを聴き終えたあなたは、不可解な感覚に襲われているかもしれない。どうしてこの青年は繰り返し、執拗なまでに、賭けることをラップしているのか。なぜ? こうも“狂った”ように……と。そう、この狂気こそ、EP『DICE!』の価値を決定づけているといっても過言ではないのである。

福本伸行による麻雀漫画の金字塔『アカギ ~闇に降り立った天才~』の主人公、アカギは、博打の本質は理不尽な死、あるいは無意味な死にあると言う。言い換えれば、博打とは通俗的な損得勘定に依拠するものではないということだ。この勝負に勝てば何が手に入るだとか、負ければ何を失うだとか、そういった下心は誰しもが持ちうるからこそ、付け入る隙を生み、純粋な勝負から人を遠ざける。要は、なぜ勝負にこだわるのかという問いかけ自体が、勝負に宿る痛みを、快楽を、鈍らせるのである。Tim Pepperoniの執拗なライムはそういった通俗性を置き去りにするために、狂気と共に疾走していく。《Run and run and run》(“DOITRN<3”)。Tim Pepperoniは、駆け、駆け、賭ける。純粋な勝負、剥き身の、ステゴロの勝負を求めて。

実際、アカギでさえも自分自身が博打の本質に身を浸しているわけではなく、それに「近づく」と表現しているように、人として社会で生活する我々にとって博打の本質は常に遠くにある。無論それはTim Pepperoniも例外ではなく、この『DICE!』を聴いていても金やプライドといった通俗的な物事が彼の脳裏をかすめていく描写もある。しかし、通俗性と狂気、そのせめぎ合いは作品にリアリティを与え、同時に彼が賽を振り続ける理由も与えている。できないからこそ、叶わないからこそ、彼は賽を振り続けるのである。SNSが人間の拡張空間となり、数字や記号といった通俗性がなおのこと人間に付いて回る現在において、その姿はひときわ異彩を放ってはいないだろうか。

見方を変えて少し俯瞰すると、この作品にあるテーマは珍しいものではないこともわかるだろう。「Life Is a Gamble」というヒップホップの持つカウンターカルチャーとしてのひとつの本質を物語るクリシェに象徴されるように、国内外問わずさまざまなラッパーたちがこれまで人生を音楽に賭けてきた。『DICE!』は賽を振り続けるその伝統にTim Pepperoniが連なるための作品でもある。Tim Pepperoniは言う。《今は俺の番》(“ROLL A DICE”)。Tim Pepperoniは言う。《次はお前の番》(同上)。

Tim Pepperoni & Puckafall – ROLL A DICE 【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

最後にfnmnlに掲載されたインタビューでのTim Pepperoniの“勝負”についての発言を引用しておく。

「自分にとって「楽しい」と「苦しい」みたいなことって表裏一体のところにあると思ってて。それでいったら「勝ち」も「負け」もおなじかなと思ってます。どこまでいってもオレのなかで勝つことで負けが生まれるというか。その繰り返しなんですよね。死ぬまでそうじゃないかなって思います。逆に言ったら、死んだら負けなんですよ」

引用元:fnmnl

Text:高久大輝

INFORMATION

狂気と共に疾走していく──Tim Pepperoni & Puckafall EP『DICE!』レビュー column230117-tim_pepperoni-puckafall-02

DICE!

Tim Pepperoni & Puckafall
2022年12月18日
デジタル・EP
Tracklist:
1. DEPT.
2. HONOO
3. ROLL A DICE
4. PUMPKIN!
5. DOITRN<3 (feat. rirugiliyangugili)
6. BENJAMIN

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