ジャズ界のみならず、音楽史に名を残す名サックス・プレイヤー/コンポーザーとして威光を放ち続けている巨人、ジョン・コルトレーン(John Coltrane)。この度、彼が1961年8月に行ったライブの音源がニューヨーク公共図書館にて発見、ライブアルバム『ヴィレッジ・ゲイトの夜』として新たにリリースされた。場所はニューヨークのヴィレッジ・ゲイト、クインテットにエリック・ドルフィー(Eric Dolphy)を迎えた希少な音源となっている。

本作のリリースを祝し、恵比寿・BLUE NOTE PLACEで<Tomoaki Baba “Re:COLTRANE” Special>が開催。「Re:COLTRANE」を冠したトリビュートライブは過去にも実現されていたものの、自身のリーダーバンドやJ-Squad、さらには『BLUE GIANT』で面目躍如を果たしたサックス奏者・馬場智章が中心となり、『ヴィレッジ・ゲイトの夜』と同編成でコルトレーンの名曲を演奏したこの夜は一段と特別なものであった。

LIVE REPORT:
<Tomoaki Baba “Re:COLTRANE” Special>
@BLUE NOTE PLACE
2023.07.20

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日中の茹だるような暑さが退き、濃い夕闇に街が覆われはじめた午後7時。定刻通りに、バンドはステージへと登場した。1st セットの冒頭は“Giant Steps”。馬場と西口明宏(sax)の2ホーンによるユニゾンが早速会場を支配する。性急なテンポの上を流れるようなフレージングで駆け抜ける2人。馬場がパワフルなソロを披露し、バトンを西口へと渡した時に、アグレッシブかつエレガントな「夜の方向」が5人の中で定まったようにも見えた。

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ウォーミングアップも早々に、シンサカイノ(b)が“Africa”の鈍いフレーズを奏ではじめた。小田桐和寛(ds)武本和大(p)が合流すると、フロアは一気に禍々しい雰囲気すら漂うエキゾチックな空気に包まれる。1961年当時、『AFRICA/BRASS』でコルトレーンがエリック・ドルフィーらを迎えて制作した大曲だ。

1st セットのラストは“When Lights Are Low”。トニー・ベネット(Tony Bennett)をはじめ数々のシンガー/プレイヤーが名演を残した、軽快なスタンダードナンバーだ。2ホーンのラグジュアリーな響きを幹とした5人のアンサンブルを洒脱に響かせつつ、吉永祐介による30分間のDJタイムへとなだらかに繋げた。

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2nd セットが始まるまで、BLUE NOTE PLACEをぐるりと回ってみる。昨年12月にオープンしたばかりで、新築のフレッシュな匂いが煉瓦の隙間から微かに香ってくる。ステージ奥のガラスからは恵比寿ガーデンプレイスの広場が垣間見え、非日常的なフロアに一抹の風通しの良さを与えていた。

螺旋状の階段を登ると、そこにはコルトレーンを筆頭とした名プレイヤーたちの写真が配置してある。カメラマンのハーブ・スニッツァー(Herb Snitzer)が同クラブで撮影したものだ。『ヴィレッジ・ゲイトの夜』のリリースに合わせて催された特別なエキシビジョン、その最終日に<Tomoaki Baba “Re:COLTRANE” Special>は行われていた。まさに、コルトレーンへ捧ぐ一夜だ。

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展示を一瞥して席へ戻ると再び5人が登場、2nd セットが開始した。2つのホーンが絡みながら進行する“Impressions”。演奏は徐々にスパークし、日が落ちて暗く沈みきった街の喧騒を高圧で射出しているようだった。しめやかなテーマの“Blue Train”へ移行しても火照ったままのフロア、馬場の豪快なサックスの音色は縦横無尽に駆け回る。

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本編のラストは“Take the Coltrane”、どこか飄々としたブルースナンバーだ。ハードなホーンとピアノの交配を横目に軽やかに歩くベース。全体的な線の太さを感じさせるアンサンブルなだけに、いかなる味付けを施しても揺らぐことのないテンションが保たれている。そんなコルトレーンらしさ、そして馬場智章らしさを感じさせながら、2nd セットは終幕した。

余韻を余韻のまま終わらせず、夜の記憶をさらに克明に色付けたのはアンコールでのセッションだった。本編はコルトレーンのレパートリーからのみの選曲だったが、ここでは馬場のオリジナル曲を披露。これまでにもライブで演奏されたというナンバーは“Circus”と名付けられ、瑞々しくも『ヴィレッジ・ゲイトの夜』リリース当時のコルトレーン作に滲むワイルドな躍動感を放っていた。新鮮なグレープフルーツを絞り出したリキュールを流し込んだような、怪しい清涼感。コンポーザー・馬場智章の更なる飛躍を確信させる名演だった。

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喝采の中で幕を閉じた<Tomoaki Baba “Re:COLTRANE” Special>。BLUE NOTE PLACEから一歩出ると、帷の落ちきった夜の微熱が感じられた。『ヴィレッジ・ゲイトの夜』が録音された8月のニューヨークと、7月の東京。時間も場所も隔てられているはずの両者だが、共振するものがなかったとも言い切れないような気がしてしまう。確信に近い錯覚を抱きながら、素晴らしい一夜は記憶の中へと溶けていった。

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Text:風間一慶
Photo:Miki Yamasaki

INFORMATION

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ヴィレッジ・ゲイトの夜

2023.07.14
ジョン・コルトレーン
 
〈収録曲目〉
1.マイ・フェイヴァリット・シングス
2.ホエン・ライツ・アー・ロウ
3.インプレッションズ
4.グリーンスリーヴス
5.アフリカ
 
〈パーソネル〉
ジョン・コルトレーン(ss, ts)
エリック・ドルフィー(fl, b-cl, as)
マッコイ・タイナー(p)
レジ―・ワークマン(b)
アート・デイヴィス(b) on アフリカ
エルヴィン・ジョーンズ(ds)
★1961年8月、ニューヨーク、ヴィレッジ・ゲイトにてライヴ録音
 
Universal Music

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